アマゾンが英ケンブリッジにR&Dセンター開設、ドローン・人工知能の開発加速

約1年前の2016年12月、アマゾンが英ケンブリッジでドローン配達サービス「Prime Air」のプライベートトライアルを開始。その映像が公開され、多くの人々の関心を集めた。


英ケンブリッジで実施された「Prime Air」のプライベートトライアル(アマゾンウェブサイトより)

プライベートトライアルは、英ケンブリッジに開設された同社第1号となるPrime Airフルフィルメントセンターの近くに住む住人数名が参加し実施されている。

Prime Airプロジェクトに関して、これまでに英国、米国、オーストリア、イスラエルに開発拠点が開設され、さまざまな機能、デザインが試験されている状況である。そんななかでアマゾンは、英国の比重を高めようとしていることが明らかになった。

2017年11月、アマゾンは英ケンブリッジにR&Dセンターを新たに開設することを明らかにしたのだ。すでにドローン配達のプライベートトライアルが実施されている土地での新R&Dセンター開設となり、同社のコミットメントをみて取ることができる。

ケンブリッジの新R&Dセンターでは、Prime Airのほかに、AI音声プラットフォーム「Alexa」の研究開発も実施される予定で、合わせて400人ほどの研究者・エンジニアが加わる見込みだ。

アマゾンが英国でのドローン開発に注力する理由は、英国政府のドローンに対する期待が高く、すでにドローン産業利用を促進するための具体的なプログラムが実施されているためだ。アマゾンは英国政府が開始した「パスファインダー」プログラムに署名している。

このパスファインダープログラムとは、アマゾンなどの企業に目視外飛行を許可し、トライアルのなかで得られたデータを活用し、ドローンに関わる効果的な規制・ルールを構築しようとするものである。Prime Airのプライベートトライアルはまさにこのプログラムに沿って実施されているものだ。

英国版シリコンバレーと呼ばれるケンブリッジの強み

アマゾンがドローン配達サービスのプライベートトライアルを開始し、さらに新たなR&Dセンターを開設することになった場所がケンブリッジであるのはなぜなのか。


ケンブリッジの街並み

実は、ケンブリッジは英国版シリコンバレー「シリコンフェン」と呼ばれるテクノロジー企業の集積地なのだ。英国東部沿岸部を「The Fens」と呼ぶことから、シリコンフェンと呼ばれるようになった。

1978年頃ケンブリッジには20社ほどしかなかったが、現在は4,800社以上のテクノロジー企業が集まり、6万人以上が働く巨大クラスターとなっている。

ケンブリッジというと「ケンブリッジ大学」などアカデミックなイメージが強いが、大学の研究をビジネスにつなげやすい起業環境が整っており、多くのスタートアップ、研究者、エンジニアを惹き付ける場所でもあるのだ。

ケンブリッジ発スタートアップの大成功事例としては、ヒューレットパッカードが87億ポンドで買収したAutonomyやソフトバンクグループが約240億ポンドで買収したARMなどが挙げられる。

こうしたテクノロジー企業のなかには、もちろんドローンなどロボティクスに関わる企業や人工知能に関わる企業も多く、アマゾンはこのネットワークを活用し、Prime Air、そしてAlexaの開発を加速させようとしている。実際、アマゾンは2012年にケンブリッジの人工知能スタートアップ「Evi」を買収。Eviの技術はAlexa開発で非常に重要な役割を果たしたといわれている。

Eviはもともとアップルの「Siri」のライバルになると目されるほど注目されたAIパーソナルアシスタント。アマゾンに買収される前は、スマートフォンアプリで利用でき、英国ユーザーの間では、Siriよりも人気の高いパーソナルアシスタントだった。EviがiPhoneだけでなくアンドロイドでも利用できたことに加え、スコットランドやウェールズの強い英語アクセントを聞き取る能力が高かったためだ。

ドローン配達において高い精度での飛行を可能にするには人工知能テクノロジーの活用は必至。ケンブリッジのアマゾンR&Dセンターが、Prime Air実用化に向けた開発を加速させるスプリングボードになるのは間違いなさそうだ。

img; Amazon Try Prime