「世界のどこで暮らしてもいいよ」

そう言われたら、あなたはどこの国を選ぶだろうか。

僕たちは住む場所によって、付き合う人々、働く会社、何もかもが制限されてきた。だが、これからは違う。世界中から住みたい都市を選んで住むことも、モバイルハウスで移動しながら暮らすこともできる。「移動する」ハードルが下がるに連れて、僕たちは自由を手にする。

『AMP』ではローンチからの半年間に渡って、人々に移動の自由をもたらすコンセプト「Living Anywhere」の世界を実現するアイデアやサービスを紹介してきた。2017年の振り返りを兼ねて、そのトレンドをまとめたい。

人々に移動の自由をもたらすコンセプト「Living Anywhere」

「かつて、重力から解放され、宇宙へと飛び出していったガガーリンのように。あらゆる制限から解放され、自由へと飛び出していく人が、これから劇的に増えるだろう。」

『新経済サミット2017』にて孫泰蔵氏が発表したコンセプト「Living Anywhere」のウェブサイトには、こうしたマニフェストが掲げられた。

「Living Anywhere」は、世界中のどこでも自由に暮らせる世の中をつくるための考え方だ。テクノロジーの進化によって人々の労働時間の減少や失業が予測されている。そうした世の中では今よりも収入が減り、支出を減らす必要が出てくるだろう。

孫泰蔵氏は、ライフライン、医療、教育、オフィス、住宅などの領域でさまざまなイノベーションを起こすことで、生活に必要なコストの低下や、それを持ち運べるような社会の実現を狙う。自身が経営するMisltoleでもLiving Anywhereのコンセプトを実現するようなスタートアップに積極的に投資を行っている。

ライフラインや医療が持ち運べるようになれば、人々は移動の自由を手にする。世界は、人々がより移動しやすい社会に近づいている。そう思わせてくれるようなサービスやアイデアが登場した。

世界中から住みたい都市を選ぶ。旅先で“期間限定“正社員として働く。

いま住んでいる国や都市に縛られずに世界中から自分に合う都市を探したい。そんな声に応えるように、エストニアからユニークなサービスが生まれた。最適な移住先選びを手助けするマッチングサービス「Teleport」だ。

ユーザーは自身が重視する項目、例えば「アクティブなスタートアップシーン」、「車の不要な生活」などの項目や、いま住んでいる場所や給与の額面などを入力することで、最適な都市をレコメンドしてもらえる。

移住する都市を選ぶだけではなく、その国での就職先をマッチングしてくれるサービス「Jobbatical」も登場した。同サービスでは、「住みたい国」と「関わりたいプロジェクト」で移住先を選ぶ。応募した企業に採用されれば、海外移住のためのビザの取得や住まいのサポートをしてくれるという。

ユニークなのは、フリーランスや業務委託としての関わり方ではなく、正社員として採用されること。旅先で期間限定の正社員として働くことで、より深くプロジェクトにコミットする。プロジェクトが終われば、また次の国へ。このように世界中を旅する人々を「Globe Trotter」と呼ぶそうだ。

船上もオフィスになる時代

働く国は自由に選べるようになった。さらに柔軟に働く場所を選択する企業も現れた。P2Pのボートレンタルプラットフォームを運営している「Boatsters」だ。同社はオフィスを引き払い、スペインのマヨルカ島近辺を中心に海上を漂うボートオフィスを構えた。

他にも、船をワークスペースにしながら海上を旅するサービス「Coboat」がある。最大20名が乗り合い1週間の共同生活をしながら働くというワークスタイルだ。船酔いが心配だが、海の上すらオフィスになる時代。次はどんなユニークな場所がワークスペースに変化するのだろうか。

大企業にも“ワーケーション“の波が訪れる?

こうした先進的な働き方を実践しているのは、スタートアップやフリーランスであることが多い。だが、大企業にも変化の兆しは訪れている。旅行先のリゾート地などで休暇を兼ねて仕事をする「ワーケーション(ワーク+バケーション)」という考え方が登場した。JALやマイクロソフトのような大手企業が導入を行っている。

たとえば、金曜日の早朝に旅先に向かい、その日は滞在先で仕事をする。金曜日の夕方から日曜日の夜までバカンスを楽しむといった柔軟な働き方が可能だ。

ワーケーションに似たスタイルの働き方に「ブリージャー」がある。「ビジネス」と「レジャー」を組み合わせた言葉で、出張先で仕事を終えた後にそのまま休暇を楽しむものだ。

ワーケーションやブリージャー需要の高まりは、ホテルなどの観光産業にとって大きなビジネスチャンスになる可能性を秘めているだろう。

暮らし、働く場所が自由になっていく世界の動きは、2018年以降も継続的に追いかけたいテーマだ。

キャンピングカーで旅をしながら暮らし、仕事をする「vanlife」が世界では注目を集めているが、日本でそれを実践している人々への取材記事を年明けに公開予定だ。

1月には、モバイルハウス事業を営むスタートアップSAMPO Inc, 村上大陸氏へのインタビュー記事を掲載する。他にも、キャンピングカーで日本各地をまわりながら訪日外国人向けの音声旅行ガイドをつくるON THE TRIPチームへの取材記事も公開予定だ。

「世界のどこで暮らし、働く?」2018年は、改めてこの問いに向き合う必要があるだろう。

img : Alex Blanes, Karla Car, Anneliese Phillips, vanlife