「食べる」ことは生活に根ざした行為だ。「衣食住」という言葉に代表されるように、「食」はとても身近な領域であり、それゆえに変化も激しい。
『AMP』では「食」の領域における変化について定期的に発信を続けてきた。ビジネストピックをミレニアル世代にそのまま届けようとしても、関心を持ってもらうことは難しい。
だが、身近な「食」を入り口にすれば、ビジネスについて考える機会をもってもらえる、そんな想いからフードビジネスに関する発信を行っている。
食の新しいジャンルから、食にまつわるサービスやスタートアップまで。「食」の世界のユニークな動きをまとめていった。
新しい食のブランドが生まれる土壌を豊かに
ブリックリンに誕生したシェフのためのコワーキングスペース「FOODWORKS」(現在はPilotworksに名称が変わったようだ)は、今年出した記事の中でも大きな反響があった。
FOODWORKSは、シェフ向けに特化したインキュベーション機能やワークスペースを有し、新しい食のブランドが生まれる土壌づくりに取り組んでいる。ブルックリン以外の地域に進出すれば、その地域ならではの食のブランドが新しく生まれるのだろか。
同じくニューヨークやシカゴなどの大都市を中心に、店舗を持たず、デリバリー専業の「ゴーストレストラン」が登場している。新しい食文化が生まれた後も、それが“店舗”として運営できる環境が整いつつある。
2018年1月には、ゴーストレストランの動きを追った記事を掲載予定だ。日本でもUberEATS専門店のカップカレー「6curry」が登場するなど、その動きに注目したい。
ユニークな食や飲料ブランドの挑戦
ユニークな食や飲料ブランドの挑戦も、継続的に紹介したいテーマだ。『AMP』では、スペシャリティコーヒー店として知られる猿田彦珈琲が新たにオープンした「アイスクリーム屋」の取材を行った。「なぜコーヒー屋がアイスクリーム専門店を?」という問いから始まり、アイス市場の成長に迫った内容となっている。
「食」ではなく「飲料」の領域だが、ヤッホーブルーイングが主力製品の「よなよなエール」を10月にリニューアルしたことをきっかけに、マーケターとヘッドブリュワーの方への取材を行った。
詳細は記事に譲るが、「クラフトビール」をどのように文化として根付かせたのか、ものづくりにおけるこだわりは?そんな問いを投げかけながら、ヤッホーブルーイングの全貌を解き明かす記事となった。
広がりを見せる「ビーガン」や「オーガニック」
「ビーガン」にまつわる動きも『AMP』では継続的に紹介した。ビーガンとは、肉や魚だけではなく、卵や乳製品なども口にしない絶対菜食主義者のことを指す。
ニューヨークを中心に店舗を展開しているのが、ビーガンのファストフード「By Chloe」だ。肉を使わないハンバーガーや、サンドイッチ、パスタなどを提供している。ミレニアル世代はそんなビーガンをファッション感覚で楽しんでいるという。
ビーガンだけではなく、オーガニックフードも注目のトレンドだ。大手小売りチェーンWalmartの店舗には、これまでマクドナルドなどのジャンクフードに分類される店舗が併設されることが多かった。だが、史上初めてオーガニックフードを扱う店舗を併設した。
他にもオーガニックな冷凍食品が誕生するなど、従来のオーガニックという言葉に対するイメージを覆すような製品が世界では生まれている。
フードデリバリーの革新
「食」を考える上で欠かせないのは、それをどのようにしてデリバリーするか、という視点だ。個人的にも今年1年でUberEATSなどのデリバリーサービスを使う機会が増えた。街中で、UberEATSの大きなバッグを背負った配達員の方もよく見かける。
『AMP』では日本に7月に上陸したフードデリバリーサービス「honestbee」を紹介した。honestbeeでは、料理だけではなく生鮮食品の購入も代行してくれる。コンシェルジュが現場判断で良いものを買ったり、代替品の提案をしてくれるのがユニークなサービスだ。
デリバリーといえば、忘れてはいけないのが「ピザ配達」の領域だ。『AMP』ではピザデリバリーの変化を「ピザテック」と(勝手に)呼び、その変化を追った。ピザチェーンの中でも、ドミノ・ピザはデリバリーにおけるテクノロジー活用に積極的だ。
ドローンやロボット、自動運転などの技術を取り込みながら、いかに早く、効率的にピザを届けるかに真剣に取り組んでいる。それ自体がドミノ・ピザのブランディングにり、何よりピザを熱々のまま食べたいという消費者のニーズに応えている。
ドミノ・ピザ以外にもピザデリバリーの変革に取り組む企業がいる。Zuma Pizzaだ。ロボットを導入することでスタッフの労働環境を改善し、配達効率を上げていくという試みを行っている。
食を届ける場所を“職場“に限定すると、もうひとつ紹介したい動きがある。オフィスで働く上で、「ランチをどこで食べるか」は悩ましい。毎日コンビニ飯では身体に良くないが、ランチに出かけるほど時間的にも、金銭的にも余裕がないという方もいる。
そんな環境において、社員食堂のない中小企業などを対象に、必要なときだけ調理スタッフが来社し、社食を提供してくれる企業が現れている。『AMP』ではその動きを“ポップアップ社食”と呼びながら、記事にまとめた。
「料理レシピ動画」差別化のための一手
食や料理に関連したビジネスで、近年注目を集め続けているのは、料理レシピ動画サービスだろう。ここ数年でFacebookのタイムラインで見かけることも増え、「KURASHIRU」を提供するdelyのアプリが1,000万ダウンロードを超えたことは記憶に新しい。
各社は料理レシピ動画の制作に留まらず、サービスを差別化するために様々な取組を始めている。「Tasty」を提供するBuzzFeedは、スマート調理器具を開発。Bluetoothを介してiPhoneアプリTastyと連動し、Tastyに蓄積された1,700以上のレシピを参考にしながらユーザーの料理をサポートしてくれる。
リアルな体験の提供による差別化にも積極的だ。Tastemadeは「食のウッドストック」と呼ばれるSmorgasburgと提携し、イベント事業を強化している。日本発の料理レシピ動画「mogoo」は、インスタ映えする食事の演出テクニック講座をテーマとしたワークショップを開催した。
2018年のリニューアルオープンを控える伝説のレストラン「noma」
『AMP』では伝説のレストラン「noma」の紹介も行った。デンマークはコペンハーゲンに生まれたnomaは、Time誌が「Nomanomics」と呼ぶほどの経済効果をデンマークにもたらし、“食”を理由にデンマーク観光に訪れるという文化を作り出した。イギリスの雑誌レストランが発表する「世界ベストレストラン50」1位に4回も選ばれている。
そんなnomaは惜しまれつつも2016年末に閉店し、2018年春のリニューアルオープンに向けて準備を行っている。世界を驚かせるような革新的な料理が、またNomaから生まれるのだろうか。
「食」と大きく括ると、新しい食ブランドの誕生や、既存ブランドの挑戦、食にまつわる様々なサービスやスタートアップまで、その領域は幅広い。広く伝えていくことで、「食」に関する世の中の動きを俯瞰して捉えることができるだろう。
『AMP』では、取り上げたくてもまだ取り上げられていない食のブランドや企業も多く存在する。2018年以降も「食」のユニークな動きを発信することで、ビジネスの面白さを伝えていきたい。
img : FOODWORKS, ヤッホーブルーイング, by Chloe, Daily Harvest, honestbee, Domino Pizza, Zuma Pizza, Tasty, Smorgasburg, noma, The Creative Exchange