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日本で話題沸騰となったスタートトゥデイの採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT」。11月22日正午の受付開始からたった10時間で23万件もの配送予約があり、発送日を延期する事態にまでなった。
そんなZOZOSUITの「今後の展開」としては、プライベートブランド「ZOZO」への活用が取り沙汰されている。人の体型に関するデータを収集すれば、個人に最適化されたサイズの服を作れるようになるからだ。
しかし、ZOZOSUITの「真のインパクト」はそれだけにはとどまらないのではないか? そんな仮説から、ZOZOSUITで実現可能になったスタートトゥデイが取りうる新戦略10のアイデアを考えてみたい。
スタートトゥデイは将来、ファッションEコマース企業ではなくなるのかもしれないーー。
「ZOZOSUIT」を着用するスタートトゥデイ代表の前澤氏(同氏のツイートより)
1. 個人のサイズに最適化された服作り
まず思い浮かぶ新戦略が、冒頭でも触れたオーダーメイド型のアパレル事業だ。ZOZOSUITで計測した体型データを用いて、消費者一人ひとりにピッタリと合う服を作るというもの。
ZOZOSUITとともに発表されたスタートトゥデイ初のプライベートブランド「ZOZO」もローンチ日が延期されたことを考えると、ZOZOSUITで得られたデータが服作りに活かされると考えるのは妥当だろう。
さらに、採寸データをもとに通常のS/M/Lより細やかなサイズ展開をしたり、どのサイズの服をどの程度製造するか計画をより精緻に立てたりすることも想定される。
2. アパレル競合企業をデータで支援
ZOZOSUITで集めた体型データを他社に提供する可能性もあるだろう。どんなアパレル企業も、広範囲な体型データは喉から手が出るほど欲しいはずだ。
競合企業を含むサードパーティーがAPIで「体型データベース」にアクセスできる仕組みを作れば、スタートトゥデイは新たな収益源を生み出せる。
あのアマゾンもクラウドサービスを運営する子会社AWS(Amazon Web Services)がグループ全体を利益面で支えているように、スタートトゥデイもデータ関連事業に乗り出せば収益率を向上させられるかもしれない。
3. VR試着
体型データをもとにパーソナライズされた「VRマネキン」を作れば、ユーザーは仮想空間上で試着ができるようになる。そうなれば、ジャストサイズではないあえて大きめの服やタイトな服も提案しやすくなるのではないか。
ファッションEコマース業界では、以前より試着がボトルネックとなっていた。「ZOZOTOWN」も月額350円で自己都合の返品も送料無料になる「ZOZOプレミアム/プラチナムサービス」を今年6月に終了。同社が新しい試着の手段を模索している可能性は高い。
ZOZOSUIT着用時のイメージ(ZOZOSUITオフィシャルウェブサイトより)
4. 化粧品業界への参入
ZOZOSUITは現在、体のデータを計測するためのものだが、顔の形を計測できる(目出し帽のような)スーツを開発すれば、頭のサイズだけでなく顔の凹凸まで反映したデジタルモデルを作ることができる。
そうすれば、ユーザーは化粧品を使ったときに自分の顔がどう見えるかを購入前にモデル上で試せるようになるだろう。
服と化粧品の両方を手がけるブランドが数多くあるとおり、メインのファッション事業とのシナジーが見込めることもこの戦略の魅力の一つだ。
5. 3Dプリンターを使った服のDIY
ファッション好きな人であれば、一度は自分で服を作りたいと考えたことがあるかもしれない。ZOZOSUITと「3Dプリンター」を組み合わせれば、そんな願いも実現可能だ。
一昨年、シャネルが秋冬のオートクチュールラインで3Dプリント技術を使ったアイテムを10数点発表し、話題を呼んだ。アディダスも「FUTURECRAFT」という3Dプリントスニーカーを発表するなど、3Dプリント技術はファッション業界で受け入れられ始めている。
まだ一般消費者のニーズに応えられるほどのスピード感で服を作ることは難しいかもしれないが、例えばスタートトゥディがデザインを販売し、それを購入した顧客が自宅の3Dプリンターで服を「プリント」する未来も想像できる。
「NIKEiD」のような店頭でのカスタマイズサービスなら、顧客が自分で3Dプリンターを所有する必要がないので、さらに実現の可能性が高まる。
アディダスの「FUTURECRAFT」は目新しさだけでなく、機能性が追求されたスニーカーライン(同社のウェブサイトより)
6. アート・音楽の領域に進出
スタートトゥデイがZOZOSUITを開発するためにタッグを組んだのが、伸縮センサーの開発・製造を行うニュージーランドのベンチャー企業「StretchSense」。
同社のセンサーはすでにアート・音楽の分野でも活用されている。例えば、手の動きに合わせて電飾の様子が変化する服や、音色が変わる楽器など。
スタートトゥデイが同社の株式の約40%を握っている(現在、完全子会社化も検討中)ことを加味すると、スタートトゥデイグループとしてアート・音楽の領域に進出する可能性もある。
前澤社長が個人的にもアート・音楽に精通しており、スタートトゥデイは設立当初、CD・レコードの通信販売を行っていたこともこの想像をふくらませる。
7. スポーツウェアの開発
上述のStretchSenseの顧客には「Heddoko」という企業が含まれている。同社はアスリート用のモバイルモーションキャプチャシステムを開発しており、そのボディスーツにStretchSense製のセンサーが組み込まれている。
スタートトゥデイもZOZOSUITを使い、スポーツ選手の動きをモニタリングできるスポーツウェアやユニフォームを開発し始めるかもしれない。監督やコーチによる指導の効率が上がるだけでなく、ケガをした選手のリハビリ効果アップにもつながるだろう。
StretchSenseの顧客企業「Heddoko」はモバイル端末とボディスーツだけでアスリートの動きを細かく把握できるシステムを開発(Angel List上の同社のページより)
8. ヘルスケアサービスの開発
ZOZOSUITの伸縮センサーは、採寸だけでなく、モーションキャプチャシステムのような使い方もできるはず。
これを部屋着と組み合わせれば、ダイエットをしている人が体型の変化を記録できるヘルスケアアプリや、ユーザーの歩き方や姿勢をモニタリングして健康維持を促進するよう商品も誕生するかもしれない。
9. 体型データに合わせた広告配信
企業にとってデジタル広告の大きな利点は、広告の内容をパーソナライズできること。だからこそ、膨大な量のユーザー情報を保有するGoogleやFacebookが広告市場でも大きな力を持っているのだ。
しかし、GoogleやFacebookは、ユーザーがどんな体型で、身長はどのくらいかといった情報までは持っていない。
趣味趣向だけでなく体型まで反映された広告が表示されることを想像すると少し気味が悪いが、そのような広告を通して自分でも気づかなかったような商品に出会える可能性もある。
10. メディアコンテンツのパーソナライゼーション
ファッション誌を眺めていると、「この服はこのモデルだから似合ってるんじゃないか」と感じることが多い。そんな不満もスタートトゥデイがZOZOSUITで解消するかもしれない。
自分の外見が反映されたスタイルブックなどのデジタルコンテンツがあれば、消費者はモデルのスタイルの良さに惑わされることなく、本当に自分に似合った服を手間と時間をかけずに探し出せるようになる。
コンテンツで紹介される服とZOZOTOWNやZOZOの商品ページがリンクされれば、既存のEコマース事業との相乗効果も期待できる。
スタートトゥデイの向かう先とは
新戦略10のアイデア、いかがだっただろうか。
すぐに実現できそうなアイデアから、時間を要するであろうものまで、本稿ではファッションに軸足を置きながらもあえてさまざまな分野での可能性を模索した。
総じて言えるのは、スタートトゥデイはZOZOSUITで単なる「ファッションEコマース企業」という枠組みを飛び越えられるほど、強力なデータを手に入れようとしているということ。それだけは、間違いない。
img; ZOZOSUIT