「賞味期限を伸ばしたい。社内でこのような発信をしたら、『こんな技術があるよ』と周囲から色々なアイディアが出て来た」

質疑応答でこう答えたのは、2025未来社会デザイン会議にてプレゼンを行ったダイキン工業チームだ。ダイキン工業チームは、食糧廃棄の課題に対して、賞味期限を伸ばすというアイディアでプレゼンを行った。

課題を知ること、そして解決に向けたアクションや発信をすることは、周囲を巻き込み新たな価値を生みだすことに繋がる。

2025日本万国博覧会誘致委員会により12月18日に開催された2025未来社会デザイン会議では、人類の課題である持続可能な開発に対する理解を深め、それに対するアプローチとしての事業構想を発表するプレゼンコンテストが行われた。

持続可能な開発目標

2015年9月、国連は世界193カ国の首脳の同意のもと、2030年に向けた新しい環境・開発・経済の国際目標として「持続可能な開発目標」(SDGs)を策定した。SDGsは、行き詰まりを見せる現代世界の在り方を変革し、貧困のない持続可能な世界をめざす、17のゴール・169ターゲットからなる目標で、日本を含む先進国も対象となっている。

SDGsは、極度の貧困や飢餓をなくし、すべての人に生涯にわたって質の高い教育を提供し、地球を守り、そして平和で誰もが受け入れられる社会を推進するという、野心的な世界の行動計画を示すもの。

これらの目標は、その前身である「ミレニアム開発目標」(MDGs)に含まれていた貧困、栄養、保健、教育、水と衛生、ジェンダーの平等といった分野における子どもたちへの約束に基づき、さらに子どもの保護、早期幼児教育、不平等の削減という新たな目標が加えられている。

画像:SDGs市民社会ネットワークリリースより

持続可能な開発へ若手社員が挑戦

日本は現在、国際連合が定めた2030年を目標年とするSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、2025年の万国博覧会の誘致を目指している。SDGs達成には、従来の延長線上の取り組みではない革新的なアイディアや活動が求められている。

「人類社会の課題を解決する場」である万国博覧会の誘致を契機に開催されたのが2025未来社会デザイン会議である。

2025未来社会デザイン会議は、未来社会の担い手である若者が、自社のリソースはもちろん、他社との連携も含めて、どのように課題解決をしていくのか、ビジョンを描く場を提供するために開催された。

参加企業は23社で以下の通り。11月にオリエンテーションを実施し、プレゼンの準備を一ヶ月間進めて来た。

[参加企業一覧]
大阪ガス株式会社 | オリックス株式会社 | キリンホールディングス株式会社 | 株式会社クボタ | コクヨ株式会社 | サントリーホールディングス株式会社 | 住友化学株式会社 | 住友商事株式会社 | 住友電気工業株式会社 | 損害保険ジャパン日本興亜株式会社 | ダイキン工業株式会社 | 大同生命保険株式会社 | 田辺三菱製薬株式会社 | 東レ株式会社 | トヨタ自動車株式会社 | 日本アイ・ビー・エム株式会社 | 野村ホールディングス株式会社/野村證券株式会社 | パナソニック株式会社 | 株式会社日立製作所 | 丸一鋼管株式会社 | 三菱商事株式会社 | 株式会社村田製作所 | 株式会社りそな銀行

23社のチームが熱のこもったプレゼンを行い、表彰では「国際協力特別賞(JICA関西賞)」「フィンランド大使賞」「タイ王国大使賞」「2025未来社会デザイン特別賞」「日本経済団体連合会賞」「関西経済連合会賞」「2025未来社会デザイン賞」の7つの賞が発表された。

海外・開発途上国でのSDGs達成に向けて大きな可能性を持つ事業構想に対して贈られる国際協力特別賞(JICA関西賞)には、「うるおうアフリカ」をビジョンに掲げ貧困と飢餓の課題にアプローチした住友化学チームが選ばれた。

自国において取り組んでもらいたい事業構想に対して贈られるフィンランド大使賞には健康保険制度の改革で健康社会を目指す内容の大同生命保険チーム、タイ王国大使賞には「全ての人に医療を」というビジョンでアイディアを構想したトヨタ自動車チームが選ばれた。

2025未来社会デザイン特別賞は、学生審査員が最も参加したい事業構想と木村祐一氏が評価した事業構想を総合的に評価し贈られる。こちらを受賞したのはクボタチームである。農業課題をテクノロジーで解決する内容で、会場の視線を集める魅力的なプレゼンが学生審査員のハートを掴んだ。

Society5.0が目指す具体的な展開や広がりを感じさせる事業構想に対して贈られる日本経済団体連合会賞は、日本アイ・ビー・エムチームが受賞。テクノロジーで教育格差を解決するというコンセプトだ。

ライフサイエンスなど関西の強みを活かせる事業構想に贈られる関西経済連合会賞には、「クスリナクス」として世界に健康習慣を届けるという内容の田辺三菱製薬チームが選ばれた。

2030年ビジョンの魅力と2025年万博における夢ある事業構想に対して贈られる2025未来社会デザイン賞は、海中未来都市構想を掲げた三菱商事チームが受賞した。

若い世代が起こすイノベーション

入賞チーム以外でも、魅力的なアイディアが多数発表されていた。プレゼンの一部を紹介したい。オリックスチームは「Teennovation」という子どもと大人によるイノベーション推進に関するプレゼンを行った。子どもが考えた斬新なアイディアを、事業化が得意な大人が実行フェーズへ引き上げていくことで、アイディアが事業化される、イノベーションが連鎖していく社会を目指すというもの。

AMPでも過去に「世界が注目する「Z世代」起業家たち。10代の持つ勢いと可能性とは」という記事で紹介したが、海外では若い世代にとって起業が近い存在になってきている。国内でも、中学生起業家が総額10億円の調達を目指すプロジェクト「pedia venture program
が立ち上がるなど、若い世代とビジネスの距離は縮まってきている。

今回のアイディアが生まれた背景について、オリックスチームの今村治世氏、近藤礼子氏へインタビューを行った。

今村氏「ナレッジキャピタルで子どもの話を聞く機会があったのですが、子どものアイディアは斬新でおもしろいものが多く、また、実際に具現化してみたら良さそうなものもたくさんありました。そして、私たちは事業の種を実現させることを得意としています。この二つの力を掛け合わせることにより、アイディアを実行に移せると考えました」

若い世代のビジネスにおける可能性を感じているとのことで、若い世代が社会を変えるための仕組みの構築を目指している。

このアイディアの内容だけでなく、こういった事業構想の実行さえも若い世代の挑戦といえるだろう。2025未来社会デザイン会議に参加した感想についても伺った。

未来は僕たちミレニアル世代が担っていく

オリックスチーム / 右から三番目が今村氏、四番目が近藤氏

近藤氏「今までこのような取り組みは、会社の中でも上の世代の人たちが考えていたり発信していたりすると思います。今回は若手が対象であり、自分自身が課題について考えることになったため、より考えを発信していかなければいけないと感じました。これまでは上から降りてくる指示や、世の中の流れに沿ってきましたが、そうではなく若い世代がアグレッシブに活動しなければいけないと強く思いました」

今村氏「今回の各プレゼンは、それぞれの優劣ではなく、参加者全員が各自のアイディアに挑戦し、実行していくことができればより実りのあるものになると思います。若い世代が周囲を巻き込んで進めていくことができると、純粋におもしろいと感じます。いろいろなことを考える良いきっかけになりました」

今回のイベントは23社100名以上の若手社員が参加し、課題を認識し、解決のためのアイディアやビジョンを考え、アウトプットを行った。そしてこの発信が、会場にいた企業関係者や学生審査員200名、メディア関係者とそのメディアを視聴・閲覧した人へと広がっていく。

持続可能な社会について、僕たちに何ができるか考え行動していけば、周囲を巻き込みながら、新たな価値が生まれるはずだ。

Photographer : Kazuki Kimura