次世代の資金調達手段「ICO」を知るために抑えるべき5つのキーワード

名古屋にある飲食店が1週間で800万円以上の資金を集めた。そんなニュースを知って、一体どんな手段を使ったのかと驚いた。

そのお店とはベルギービール専門店の「サンタルヌー」。東京への出店を目指して必要となる資金を「ICO」と呼ばれる手法を用いてネット上で資金調達にチャレンジしたところ、800万円以上が集まったというのだ。

これまで企業が外部から資金を調達する場合、金融機関からの融資やベンチャーキャピタルなどから出資を受ける形が一般的だったが、そのためには審査があり手間や時間も要する。もちろん資金調達がうまくいくという保証もない。

ところがインターネットやSNSなどが普及することに伴って、クラウドファンディングなど新たな仕組みが登場し企業の資金調達手段も多様化してきている。ICOもまさに近年急激に注目を集め始めた、新たな資金調達の形だ。

ICOとは

ICOとは「Initial Coin Offering(イニシャルコインオファリング)」の略称で、新規仮想通貨公開などと訳される。簡単に説明すると、企業が「トークン」と呼ばれる独自の仮想通貨を発行し、そのトークンを世界中の投資家に購入してもらうことで資金調達をするという仕組みだ。

プロジェクトの起案者がインターネットを通じて多数の個人から資金調達をするという点では、ICOはクラウドファンディングに似ている。日本でも「Makuake(マクアケ)」など出資の見返りとして特定の商品や権利を購入できる購入型クラウドファンディングが広がっているが、ICOではトークンを購入するものだと考えればイメージしやすいかもしれない。

一方で購入に用いる通貨が円やドルといった法定通貨ではなく仮想通貨であるということと、取得したトークンを株式のように売買できるということがICOならではの特徴だ。

仮想通貨が普及するにしたがって、企業の新たな資金調達方法として近年急速に注目を集めている。Coindeskが公開している累計のICO調達金額を見てもその様子が一目でわかるのではないだろうか。

このICを理解する上で押さえておきたい5つのキーワードについて紹介したい。

1. 仮想通貨

ICOはトークンを購入する際に法定通貨ではなく、ビットコインなどの仮想通貨を用いる。サンタルヌーの場合はイーサリアムほか複数の仮想通貨でトークンを購入することができた。たとえば日本人が投資家としてICOに参加する場合、円を仮想通貨に変える必要がある。

仮想通貨を使うことにより、企業は世界の投資家からお金を集められる可能性があり、投資家にとっても国を超えて面白い企業へ少額投資できることがICOが注目を集めた理由のひとつだ。実際にICO募集開始から30秒で3500万ドル(約40億円)を集めたという事例もある。

2. トークン

トークンとは投資家から出資を受ける代わりに引き渡す独自の仮想通貨のこと。たとえば冒頭のサンタルヌーの例では「SAT」というトークンを発行している。

SATがサンタルヌーで食事代の支払いに使えるように、トークンには特典を設定できるほか、仮想通貨取引所で売買することも可能。投資家としては純粋にファンとして応援するという側面に加えて、出資先が成長してトークンの値打ちが上がった場合に売却益を出せる側面もある。

トークンを発行して資金を調達することから、ICOは「トークンセール」と呼ばれることもある。

3. ホワイトペーパー

ICOの概要が記載された文書のことで、企業はICO実施前にホワイトペーパーを作成し公開する。目的や目標の調達金額、調達した金額の使用用途、実施期間、トークンの概要や特典などを書くのが一般的で、投資家はホワイトペーパーの内容を参考に投資の判断をする。

ただしホワイトペーパーに書かれたプロジェクトが実行されないケースや、特典が提供されない事例もあり、ICOの仕組みを悪用した詐欺が問題視されている。

4. イーサリアム

ICOではビットコインに次ぐ時価総額を誇る、イーサリアムという仮想通貨を活用した事例が多い。イーサリアムは仮想通貨としての側面もあるが、その本質はさまざまな契約を自動化できる「スマートコントラクト」を扱えるプラットフォームであるということ。

データの改ざんが難しい、取引の処理が自動で行われるというブロックチェーンの特徴を生かしつつ、チェーン上に任意のプログラムを追加することで取引を自動化できる点がビットコインにはない特徴だ。

イーサリアム自体も初期段階でICOを通じて資金を調達している。

5. The DAO

ICOの事例として広く名前を知られているのが「The DAO」だ。The DAOは自立分散型投資ファンドと呼ばれる、イーサリアムを活用したプロジェクトのひとつだ。

ファンドマネージャーが投資先を選定する一般的な投資ファンドと異なり、ファンドに参加する多数の投資家がそれぞれ投資先の選定に対して投票権をもつという新たなファンドの形態として話題をよんだ。

投資家はThe DAOが発行する独自トークンをイーサリアムの仮想通貨「イーサ」を用いて購入する仕組みで、2016年5月にトークンを発行。直後から多くの投資家が参加し、合計1.6億ドル(約180億円)を調達した。

ところがハッキングにより調達した資金の半分近くを盗まれるという事件が発生。その後イーサリアムではその取引をなかったことにする(ハードフォーク)手続きを実施したため、イーサリアムの分裂騒動が起こった。ICOを実施した事例が起因し分裂騒動にまで至ったことからもICOの影響力が大きくなっていることを物語っている。

投資家保護の観点から規制も進むICO

ICOは手続きがスムーズで完了までのスピードが速く、世界中の投資家から広く資金調達をできるというメリットがある。その一方で価格が下落する可能性や詐欺の可能性など、投資家保護の観点から否定的な意見も少なくない。

たとえば中国や韓国ではICOを全面的に禁止している。アメリカは全面的に規制するわけではないものの、証券取引所委員会がThe DAOは有価証券にあたるとし、証券取引法などの規制対象になると発表。イギリスの金融行為監督機構もICOのリスクについて触れ、ICOの設計次第では金融規制の対象となることを明言している。

日本の場合は、10月27日に金融庁が利用者および事業者に対する注意喚起を公表。仕組み次第では資金決済法や金融商品取引法等の規制対象になり、登録などの義務を履行していない場合には刑事罰の対象になるとしている。

ICOがうまく機能すれば、クラウドファンディングと同様に企業が新たなチャレンジをする際の大きな力に、そして個人が少額から様々なプロジェクトを支援できるプラットフォームにもなりえる。

それだけに日本を始め各国が今後ICOに対してどのようなスタンスを示していくのか、目が離せない。

img : Pixabay, Coindesk

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