ミレニアル世代は、幼少期からITに親しんでいるデジタルネイティブの世代だ。現在、そしてこれからビジネスの根幹の部分を担っていくようになる世代でもある。
世界中でさまざまななイノベーションが起こり、ビジネスやサービスがデジタル化され、リプレイスされている。そういった状況で2018年の国内IT市場はどんな変化が予測され、我々にどんな変化を要求するのだろうか。
IT専門調査会社であるIDC Japan株式会社が発表した「2018年の国内IT市場において鍵となる技術や市場トレンドなど主要10項目」を見ていきたい。
1.デジタルネイティブ企業が出現し、デジタルの文化を持つスタートアップと組んだ新ビジネスの創出が始まる
2018年には「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進が活発になる。「DX」とは、ITの浸透により企業の業務プロセスがデジタル化することである。ソフトウェアコード開発により、問題を解決していくことが主流になる。
2017年には、大手企業が、デジタルネイティブ企業(DNE)への移行を目指す動きがあった。メガバンクで、DXを推進する組織とCDO(Chief Digital Officer)が設置され、デジタルビジネスに向けた活動がスタートしている。
三菱UFJフィナンシャル・グループは、損害保険会社、総合商社、農林中央金庫などの大手企業が参加するBlue Lab社を設立。「Suica」、「Tカード」、「WAON(ワオン)」、「nanaco(ナナコ)」、Amazonなどから、決済プラットフォームの主導権を銀行側に取り戻すことを狙う。
「DX」は、新しいビジネスモデルによって事業を拡大させる。従量課金制でサービスを提供する「シェアリングエコノミー(Sharing Economy)」、データそのものを販売するのではなく、データを利用して得られる価値をサービスとして提供する「データ資本(Data Capitalization)」、収益だけでなく損失もシェアする「リスク/リワードシェア(Risk/Reward Sharing)」といったビジネスモデルが、それだ。
こうした新しいビジネスモデルを、大企業と組んで実現するスタートアップには、IoT、モバイル、クラウド、AIなどを組み合わせた提案をする能力が求められる。
アマゾンの「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」、マイクロソフト、グーグル、など各社の提供するクラウドに精通することも必要となってくる。
2.企業の成長と存続を左右するDXへの支援能力が、ITサプライヤーの選択基準になる
企業は生き残るために、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を通じて、ビジネスモデルを変革し、顧客や消費者だけでなく、従業員や外部パートナーも含め、エコシステムを形成するステークホルダーに新たな体験価値を提供し、成功を収めることをめざす。
デジタルとリアルをシームレスに行き来する、「オムニエクスペリエンス変革」の実現が求められるのだ。
経営トップは、デジタルネイティブへ生まれ変わるため、全社的な変革のビジョンとゴールを示し、それにコミット(確約)するリーダーシップが求められる。
パートナーとなるITサプライヤーに求められるのは、請負開発や、クラウドやAI、IoTなどの個別技術の提供ではなく、DNE(デジタルネイティブ企業)にシフトするための「プロアクティブ(先を見越した)な支援」であり、そのために必要な全体ソリューションの提供だ。企業のIT投資は、専門の部門を作り予算を配分するなど、DXの推進に重点を置き始めている。
IT導入のアプローチにおいては、念入りに要件定義を行い、オンプレミス(機器を自社内に保有)でシステムの構築を進める「ウォーターフォール開発」ではなく、要件の変更に柔軟に対応しながら、クラウド上で反復開発を行うスピード重視の「アジャイル開発」の手法がとられるようになる。
ITサプライヤーは、こうした外部環境の変化への対応が必要となるだろう。
3.労働生産性の向上や柔軟な働き方の必要性が企業で高まり、働き方改革に向けたICT市場が成長する
安倍内閣が提唱する「働き方改革」は、3年目に突入する。IDCの調査では、企業では働き方改革における課題の上位2項目として、「残業時間の削減」と「労働生産性の向上」を挙げている。
労働生産性は、ICTの導入で改善される。しかしまだ単体のアプリケーションを導入するなど、ICTの活用が限定的であることから、生産性の向上のためにICTが今後活用される余地が大きい。
国内における働き方改革ICT市場規模は、(支出額ベース)は2016年に1兆8,210億円に達し、2021年には2兆6,622億円に拡大すると予測されている。働き方改革、特に労働生産性の向上は、ICT市場拡大の牽引役の一つとして非常に大きな可能性を秘めている。
企業トップの知見が限られる中、ITサプライヤーはICTツールを提供するだけでなく、企業の働き方改革への動機と目的を理解し、具体的なICTツールの採用へ導くという役割が期待される。
4.発展が続くクラウドは第2世代(クラウド2.0)に進化し、IT変革が加速する
2018年以降の国内クラウド市場は「従来型ITからの移行」「DXの基盤」を両輪として高い成長を継続し、2018年の支出額規模は2兆円を超えると予測される。
第2世代となる「クラウド2.0」は、Trusted(高信頼)、Concentrated(寡占化)、Intelligent(インテリジェント)、Distributed(分散)、Hybrid Cloud(ハイブリッドクラウド)、Hyperagile Applications(ハイパーアジャイルアプリケーション)、DevOps/Everyone a Developer(DevOps/誰もが開発者)といった概念で定義される。
「分散」というのは、ワークロードごとに複数のクラウドを利用するマルチクラウドや、複数のクラウドを統合的に運用、管理するハイブリッドクラウドを意味する。
クラウドの「分散」はIoT製品の近くにサーバーを置くことで、通信遅延を短縮し処理を分散するエッジコンピューティングも含む。
また、クラウドの「分散」はAIに対応したコンピュートインタンス(GPU、FPGA、AI特化型ASIC、量子コンピューティングなど)や、IoTエッジに適したコンピュートインスタンス(ARMアーキテクチャなど)など、さまざまなワークロードに特化したインスタンスへの多様化も意味する。
「ハイパーアジャイルアプリケーション」の時代においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)アプリケーションの開発には、「迅速性」「拡張性」「連携性」が求められる。
マイクロサービスに対応した「PaaS(Platform as a Service)」の利用が進む。マイクロサービスとは、アプリケーション開発で、まず分解された小さなサービスを開発して、それらをWeb APIを通じて各サービスを呼び出し連携させる、という方法だ。
「PaaS(Platform as a Service)」は、ソフトウェアを構築および稼動させるための土台となるプラットフォームを、インターネット経由のサービスとして提供するもの。
「誰もが開発者」の時代が到来し、ローコード/ノーコード(Low Code/No Code)の開発ツールが登場し、技術系以外の開発者が急増する。
既存のアプリケーションを組み合わせて、業務担当者が必要とする業務アプリケーションを構築する「コンポーザブルアプリケーション」の分野では、2021年には新規ビジネスアプリケーションの40%が技術系以外の開発者によって開発されるようになるとIDCは予測している。
5.国内のIoT利用企業の1割が、データ流通エコシステムを通じ既存事業以外への事業領域の拡大を図る
企業が、IoT利用をスタートするには、ROI(投資対効果)が判断の基準になる。多くの企業が、POC(Proof of Concept:実証実験)フェーズから本番環境に移行しない理由となっている。
ROI(投資対効果)を上げる方法としては、既存の競争ドメインだけでなく、他産業を含めて水平展開を行いIoTの活用を広げることが挙げられる。投資のリスクヘッジを保ちつつ、効果的にデジタルビジネスの収益性を高める有効な手段になると考えられる。
既存のビジネス領域以外にもIoT活用の水平展開を行うには、複数産業間でのデータ連携を進めることが重要なポイントになる。
たとえば、電力会社がスマートメーターを通じて収集する電力利用データを、運輸事業者が二次的に活用することで、配達時間を最適化することが可能になる。
生命保険会社は、ウェアラブルデバイスを通じて収集される多様なバイタルデータを再利用することで、よりカスタマイズされた保険サービスを開発することができる。
2018年末までに国内のIoT利用企業の1割が、データ流通エコシステムを通じ既存事業以外への事業領域の拡大を開始すると考えられている。
6.コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大する
コグニティブ/AIシステム市場は、2017年にはまだPOC(実証実験)の段階にあったと考えられる。「コグニティブ」とは、自ら理解・推論・学習し、人間を支援するシステムだ。
2018年以降、適用分野を決め、導入が進むとみられる。導入分野としては、大規模なデータ分析に対する集計の迅速化と異常値の検出、金融機関での不正検知、業務と製品品質の向上を目指す製造プロセスの改善、チャットボットへの適用による流通業での自動受注プロセスの実行、サイバーセキュリティ対策へのAIの利用などがある。
オラクルの「Oracle Autonomous Database」は、AIを活用し、自律的に修正パッチやアップデートを行う。ルネサス エレクトロニクスの「e-AI開発環境」は、工場のラインコントローラーで稼働している組込型CPU(MPU)をそのまま使って、新たな機器投資をせずとも、学習済みの深層学習プログラムを実行できる。
消費者向けのAI利用も拡大が進み、AIスピーカー、AR/VRへの適用や、消費者向けロボット、自動車など「誰でも、どこでもAI」に触れる環境が整うとみられる。
AIがその適用範囲を拡大し、広く普及することを「パーベイシブAI」と呼ぶ(pervasive=普及する)。働き方改革の本格化を迎える2018年~2019年には東京オリンピック/パラリンピック向けの投資と共に普及が拡大し、2019年には1,000億円を超える規模になると予測している。
「パーベイシブAI」は、第2のプラットフォーム(クライアント/サーバーシステム)から、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)への移行を促進する。移行できないIT企業の脱落が予測されている。
7.GDPRによるデータ主権の脅威に企業がさらされ、データ保護に対するブロックチェーンの有効性が試される
2018年5月に、EUの一般データ保護規則(GDPR)の施行が予定されている。これは、「海外のパーソナルデータを移動させたとしても、パーソナルデータの所有者の居住場所の法律が適用される」という、データ主権の概念に基づいた法規制だ。
EUの住民のパーソナルデータが含まれている場合は、EU圏外の地域であってもEU GDPRが適用される。
プライバシー保護に対して厳しくなり、企業は顧客や社員のパーソナルデータの取り扱いの厳格化が求められる。サイバーセキュリティとデータ保護のテクノロジーの導入が必要となるが、データ保護のテクノロジーでは、ブロックチェーンが注目されている。
ブロックチェーンは、P2P(Peer to Peer)ネットワーク、分散台帳、暗号化、スマートコントラクト、コンセンサスアルゴリズムなどの複数の技術を組み合わせた、完全性と可用性が高い堅牢な分散型記録管理システムで、情報セキュリティ対策として有効なテクノロジーと考えられる。
課題も残り、ブロックチェーンの匿名性は、身元確認と開示、情報公開などの適法性が問題となっている。法的な課題について議論、検証が進むことで、データ主権に対するブロックチェーンの有効性が試されることになる。
8.エンタープライズインフラストラクチャ支出モデルの多様化が進むと共に、ベンダー間の競争力の差が広がる
国内エンタープライズインフラストラクチャ市場の支出額(サーバー、ストレージ、イーサーネットスイッチ)は減少傾向にある。減少する中で支出モデルが多様化し、最新テクノロジーの採用がエンタープライズインフラストラクチャ市場の構造を変え、ベンダー間の競争力に差がつくと予想されている。
支出モデルが多様化しているのは、専用ハードウェアとそのハードウェアのみで稼働する専用ソフトウェアが密結合したアプライアンス(カスタムされた専用コンピュータ)の登場による。従来型エンタープライズインフラストラクチャでは対応することが困難なものだ。
DXに取り組む企業は、自社のDXを支えるインフラストラクチャに最適な支出モデルを選択しなくてはならない。一方、ベンダーにとっては、多様な支出モデルの提供能力が問われる。
多様な支出モデルを提供できるベンダーは、より多くのビジネス機会にリーチすることができ、パートナーとしての信頼を獲得できる。
多様な支出モデルの提供能力が、中長期的にはエンタープライズインフラストラクチャ市場におけるベンダーの競争力に大きな影響を与えると予測される。
9.AR/VRの業務利用がIT導入に積極的な企業で本格化し、音声インターフェースの業務活用がスタートする
2017年、VR(Virtual Reality:仮想現実)技術は、マーケティング用途をはじめとした多くの分野で初期的なビジネス利用が見られるようになってきた。Windows 10 Fall Creators Updateにともなって、「Microsoft Mixed Realityヘッドセット」が各ベンダーから発表され、話題になった。
2018年は今後のビジネス利用拡大の基礎を確立するためのUI(User Interface)に関する技術の標準化がスタートする予測される。
AR(Augmented Reality:拡張現実)は、製造難易度や価格の問題があり停滞したが、2018年は初期段階とはいえビジネス利用の展開に弾みがつくと見られている。
2018年は「業務での音声活用」の元年となるかもしれない。2020年までにさまざまなエンタープライズ向けスマートフォンアプリで音声対応のAIが採用され、業務での音声入力が本格化する見通しだ。
Amazon Alexa」、「Googleアシスタント」、「IBM Watson」、「Samsung Bixby」、「Apple Siri」、「Microsoft Cortana」、「LINE Clova」など音声対応AIプラットフォームの出現が背景となっている。2018年には、これら音声対応AIプラットフォームのモバイルアプリケーションでの実装検証が開始される見込みだ。
スマートフォンの出現で、モバイルユーザーは増え、「Amazon Echo(アマゾン・エコー)」などAIスピーカーなどの国内販売開始も追い風になるだろう。
すでに、「LINE」や「Facebook Messenger」などのSNS(Social Networking Service)やメモなどを取るモバイルアプリ上で、音声入力/文字読み上げ/翻訳などで、音声インターフェースが利用できるようになっている。
音声インターフェースの活用は、今後業務での活用が進むとみられる。音声インターフェースが優れていることが認識され始め、2019年以降には、音声による会議議事録作成、ボイスメール、音声による認証システムなどの導入が増える見込みだ。
業務上必要な書類を正確に読み上げる機能など、音声の文字変換、文字の音声変換が、業務において有用になるだろう。
10.企業の情報システム部門/情報システム子会社向けの組織変革コンサルティングのニーズが拡大する
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本格化を迎え、企業の情報システム部門は、対応が迫られている。
これまでは、ITハードウェア、ソフトウェア、サービスを通じ、企業の業務効率化を支援する機能を果たしてきた。しかし企業のDXを進めることにおいては、クラウド、AI、IoTなど新たなデジタルITに対する理解など、新たなスキルや能力が必要だ。
既存の情報システム部門のスキルや能力と、DX推進に求められるスキルや能力とのミスマッチが起こることになる。
現時点で手本となるような組織はすくなく、絶対的な答えもない。そこで、外部の企業、たとえばコンサルティングファーム、ITサプライヤー、他社の情報システム部門などと模索していく動きが強まると見られる。
このような正解がはっきりしない課題には、ITサプライヤーが昨今重視する「共創」のアプローチが有効かもしれない。「共創」とは、外部リソースの活用による専門知識の調達や、サービスの利用者と提供者が双方向で情報をフィードバックしたり、オープンな場で知識を集結して集合知を活躍していくということだ。
企業情報システム部門と、ITサプライヤー、さらには情報システム子会社、経営者、事業部門、DX推進部門などが、一定の時間をかけて議論し、作り上げていくというアプローチである。
企業の根幹に関わるような課題解決を「共創」アプローチによって解決する能力が、ITサプライヤー自身の変革として求められるようになると考えられる。
デジタルネイティブ企業に生まれ変われるかが生き残りへの鍵となる
世界はデジタル化が進み、顧客・市場といった外部エコシステムは、「破壊的な変化」が起きている。
企業は、組織・文化・従業員といった内部エコシステムでの対応が迫られている。それには、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)の導入が不可欠である。
それによって、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立することが可能だ。
2018年は、ITサプライヤーとなるスタートアップには、企業のデジタルネイティブ化を促進する役割が期待されることになるだろう。