6.コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大する

コグニティブ/AIシステム市場は、2017年にはまだPOC(実証実験)の段階にあったと考えられる。「コグニティブ」とは、自ら理解・推論・学習し、人間を支援するシステムだ。

2018年以降、適用分野を決め、導入が進むとみられる。導入分野としては、大規模なデータ分析に対する集計の迅速化と異常値の検出、金融機関での不正検知、業務と製品品質の向上を目指す製造プロセスの改善、チャットボットへの適用による流通業での自動受注プロセスの実行、サイバーセキュリティ対策へのAIの利用などがある。

オラクルの「Oracle Autonomous Database」は、AIを活用し、自律的に修正パッチやアップデートを行う。ルネサス エレクトロニクスの「e-AI開発環境」は、工場のラインコントローラーで稼働している組込型CPU(MPU)をそのまま使って、新たな機器投資をせずとも、学習済みの深層学習プログラムを実行できる。

消費者向けのAI利用も拡大が進み、AIスピーカー、AR/VRへの適用や、消費者向けロボット、自動車など「誰でも、どこでもAI」に触れる環境が整うとみられる。

AIがその適用範囲を拡大し、広く普及することを「パーベイシブAI」と呼ぶ(pervasive=普及する)。働き方改革の本格化を迎える2018年~2019年には東京オリンピック/パラリンピック向けの投資と共に普及が拡大し、2019年には1,000億円を超える規模になると予測している。

「パーベイシブAI」は、第2のプラットフォーム(クライアント/サーバーシステム)から、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)への移行を促進する。移行できないIT企業の脱落が予測されている。

7.GDPRによるデータ主権の脅威に企業がさらされ、データ保護に対するブロックチェーンの有効性が試される

2018年5月に、EUの一般データ保護規則(GDPR)の施行が予定されている。これは、「海外のパーソナルデータを移動させたとしても、パーソナルデータの所有者の居住場所の法律が適用される」という、データ主権の概念に基づいた法規制だ。

EUの住民のパーソナルデータが含まれている場合は、EU圏外の地域であってもEU GDPRが適用される。

プライバシー保護に対して厳しくなり、企業は顧客や社員のパーソナルデータの取り扱いの厳格化が求められる。サイバーセキュリティとデータ保護のテクノロジーの導入が必要となるが、データ保護のテクノロジーでは、ブロックチェーンが注目されている。

ブロックチェーンは、P2P(Peer to Peer)ネットワーク、分散台帳、暗号化、スマートコントラクト、コンセンサスアルゴリズムなどの複数の技術を組み合わせた、完全性と可用性が高い堅牢な分散型記録管理システムで、情報セキュリティ対策として有効なテクノロジーと考えられる。

課題も残り、ブロックチェーンの匿名性は、身元確認と開示、情報公開などの適法性が問題となっている。法的な課題について議論、検証が進むことで、データ主権に対するブロックチェーンの有効性が試されることになる。

8.エンタープライズインフラストラクチャ支出モデルの多様化が進むと共に、ベンダー間の競争力の差が広がる

国内エンタープライズインフラストラクチャ市場の支出額(サーバー、ストレージ、イーサーネットスイッチ)は減少傾向にある。減少する中で支出モデルが多様化し、最新テクノロジーの採用がエンタープライズインフラストラクチャ市場の構造を変え、ベンダー間の競争力に差がつくと予想されている。

支出モデルが多様化しているのは、専用ハードウェアとそのハードウェアのみで稼働する専用ソフトウェアが密結合したアプライアンス(カスタムされた専用コンピュータ)の登場による。従来型エンタープライズインフラストラクチャでは対応することが困難なものだ。

DXに取り組む企業は、自社のDXを支えるインフラストラクチャに最適な支出モデルを選択しなくてはならない。一方、ベンダーにとっては、多様な支出モデルの提供能力が問われる。

多様な支出モデルを提供できるベンダーは、より多くのビジネス機会にリーチすることができ、パートナーとしての信頼を獲得できる。

多様な支出モデルの提供能力が、中長期的にはエンタープライズインフラストラクチャ市場におけるベンダーの競争力に大きな影響を与えると予測される。

9.AR/VRの業務利用がIT導入に積極的な企業で本格化し、音声インターフェースの業務活用がスタートする

2017年、VR(Virtual Reality:仮想現実)技術は、マーケティング用途をはじめとした多くの分野で初期的なビジネス利用が見られるようになってきた。Windows 10 Fall Creators Updateにともなって、「Microsoft Mixed Realityヘッドセット」が各ベンダーから発表され、話題になった。

2018年は今後のビジネス利用拡大の基礎を確立するためのUI(User Interface)に関する技術の標準化がスタートする予測される。

AR(Augmented Reality:拡張現実)は、製造難易度や価格の問題があり停滞したが、2018年は初期段階とはいえビジネス利用の展開に弾みがつくと見られている。

2018年は「業務での音声活用」の元年となるかもしれない。2020年までにさまざまなエンタープライズ向けスマートフォンアプリで音声対応のAIが採用され、業務での音声入力が本格化する見通しだ。

Amazon Alexa」、「Googleアシスタント」、「IBM Watson」、「Samsung Bixby」、「Apple Siri」、「Microsoft Cortana」、「LINE Clova」など音声対応AIプラットフォームの出現が背景となっている。2018年には、これら音声対応AIプラットフォームのモバイルアプリケーションでの実装検証が開始される見込みだ。

スマートフォンの出現で、モバイルユーザーは増え、「Amazon Echo(アマゾン・エコー)」などAIスピーカーなどの国内販売開始も追い風になるだろう。

すでに、「LINE」や「Facebook Messenger」などのSNS(Social Networking Service)やメモなどを取るモバイルアプリ上で、音声入力/文字読み上げ/翻訳などで、音声インターフェースが利用できるようになっている。

音声インターフェースの活用は、今後業務での活用が進むとみられる。音声インターフェースが優れていることが認識され始め、2019年以降には、音声による会議議事録作成、ボイスメール、音声による認証システムなどの導入が増える見込みだ。

業務上必要な書類を正確に読み上げる機能など、音声の文字変換、文字の音声変換が、業務において有用になるだろう。

10.企業の情報システム部門/情報システム子会社向けの組織変革コンサルティングのニーズが拡大する

DX(デジタルトランスフォーメーション)の本格化を迎え、企業の情報システム部門は、対応が迫られている。

これまでは、ITハードウェア、ソフトウェア、サービスを通じ、企業の業務効率化を支援する機能を果たしてきた。しかし企業のDXを進めることにおいては、クラウド、AI、IoTなど新たなデジタルITに対する理解など、新たなスキルや能力が必要だ。

既存の情報システム部門のスキルや能力と、DX推進に求められるスキルや能力とのミスマッチが起こることになる。

現時点で手本となるような組織はすくなく、絶対的な答えもない。そこで、外部の企業、たとえばコンサルティングファーム、ITサプライヤー、他社の情報システム部門などと模索していく動きが強まると見られる。

このような正解がはっきりしない課題には、ITサプライヤーが昨今重視する「共創」のアプローチが有効かもしれない。「共創」とは、外部リソースの活用による専門知識の調達や、サービスの利用者と提供者が双方向で情報をフィードバックしたり、オープンな場で知識を集結して集合知を活躍していくということだ。

企業情報システム部門と、ITサプライヤー、さらには情報システム子会社、経営者、事業部門、DX推進部門などが、一定の時間をかけて議論し、作り上げていくというアプローチである。

企業の根幹に関わるような課題解決を「共創」アプローチによって解決する能力が、ITサプライヤー自身の変革として求められるようになると考えられる。

デジタルネイティブ企業に生まれ変われるかが生き残りへの鍵となる

世界はデジタル化が進み、顧客・市場といった外部エコシステムは、「破壊的な変化」が起きている。

企業は、組織・文化・従業員といった内部エコシステムでの対応が迫られている。それには、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)の導入が不可欠である。

それによって、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立することが可能だ。

2018年は、ITサプライヤーとなるスタートアップには、企業のデジタルネイティブ化を促進する役割が期待されることになるだろう。

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