2018年に10周年を迎えるAppleのiOS App StoreとGoogle Play(旧Android Market)。これらのアプリは現在、小売、銀行、旅行、ファストフード、消費財、メディアとエンターテインメントなど、ほぼすべての業界で重要な役割を果たしている。
さらには、現在も新しいアプリがどんどんリリースされている。2017年10月の1カ月間にリリースされた新作アプリは、iOS App Storeで約5万本、Google Playで15万本を超えた。
アプリ市場データを提供するApp Annieは、調査ブログ「2018年のアプリ市場を見通す10のポイント」を発表した。今回は、レポートの中から5つのポイントを抜粋し、App Annie Japan代表滝澤氏のコメントとともに紹介していこう。
2018年には消費支出が前年比で30%増加。1,100億ドルを突破するか
まず1つ目のポイントは、アプリのマネタイズが拡大を続けていることである。このトレンドは2018年も継続すると思われる。2018年には、世界の全モバイルアプリストアを合計した消費支出が前年比でおよそ30%増加し、1,100億ドルを突破する見込だ。支出の大半を占めるのは、やはりゲームであると同レポートでは指摘している。
しかし、ゲーム以外のアプリは2018年に支出に占める割合が増加し、増加ペースがゲームアプリを上回るという。この変化は、主にサブスクリプションによるもので、アプリ市場の成熟化が進み、アプリがユーザーに提供する価値が高まっていることを強く示しているとしている。
ARはエンタメのみならず実用面も普及を後押し
2番目のポイントは、ARである。2017年にPokémon GOやSnapchatはARに対する消費者の関心を高めた。しかし、今までのARは、ARの持つさまざまな可能性の一部分に過ぎないという。
2018年から、ARはさらにさまざまな用途に拡大し始めると同レポートでは予測している。この動きのベースとなったのは、Facebook、Google、Appleなどの企業だ。各社、2017年の開発者向けカンファレンスで、さまざまなAR関連のプロジェクトを発表した。3社以外にも、Alibaba、Baidu、Tencentといった中国企業もARプロジェクトを発表。
こうした取り組みで、パブリッシャーがARアプリの開発をより簡単に手早くにできるようになり、また消費者の関心がさらに高まることで、ARの導入はさらに加速すると予測している。
米国ではiPhoneアプリが「Augmented reality(拡張現実)」という検索キーワードでアプリストアの上位にランクインしており、ダウンロード数は、2017年9月以来、大きく伸びており、2017年9月以降、iPhoneでは、ARアプリのダウンロード数が大きく増加した。これは、新しいAR関連アプリが増えたこと、および既存のアプリにAR機能が追加されたことが要因だとしている。
これらについて、滝澤氏は
「ARはSNOWやインスタグラム、Pokemon Goなどのエンターテイメントの利用に限らず、実用的な側面も普及を後押ししている。日本でも話題になったGoogle翻訳では、AR技術を使って検索や入力などの手間を上手く削減している。」
とコメントしている。
始まったばかりの家庭向け音声エージェント市場。日本でどう市場拡大するか
3つ目のポイントは家庭向け音声エージェント市場である。
同市場は2014年にAmazonによる第1世代Echoのリリースにより登場した。その後、第2世代となるEcho Dotが発売されたことで、市場の可能性は大きく伸びた。
2016年には、ホリデーシーズンの間際に発売されたEcho Dotが、49.99ドルという低価格設定と相まって、販売増を記録した。さらに、2017年7月12日のAmazonプライムデーには、Echoデバイスの大幅な値引きにより、市場は再び大きく拡大した。
米国では市場の盛り上がりにより、音声対応スピーカーと連携するAmazon Alexaアプリのダウンロード数が、50ドル弱のEcho Dotが発売された2016年10月から上昇傾向になり、ホリデーシーズンとAmazonプライムデー時期に急増している。
2018年には、49ドルのGoogle Home Miniを始め、AppleやSamsung、中国のAlibabaやBaiduといった新規参入組によって、家庭向け音声エージェントの販売はさらに拡大する見込みだ。しかし2018年の時点では、音楽の再生、基本的なウェブ検索、実用的な用途などまだ限られたままだと予測している。
今後、技術に詳しいユーザーが家庭向け音声エージェントの照明、空調、AV機器の操作などといった新しい使い方を模索するなかで、他のコネクテッドホームデバイスの導入が増えていくとApp Annieは予測している。
滝澤氏は
「音声エージェントが日本で一過性の話題として終わらないためには、日常生活で続けられる機会をメーカー側がいかに提供できるかが重要。音声入力の精度はもちろん、他サービスとの連携を強化して、いかに日常生活にとけこめるかがポイント。また、このデバイスは複数サービスを使い分けるものではないので、早期参入して最初にシェアを獲得することが大事になる。」
とコメントしている。
小売業のカスタマージャーニーがモバイル中心へ。オンラインで買い物が完結するための布石
4つ目のポイントは、小売業のカスタマージャーニーがモバイル中心へなってきていることである。
主に実店舗内で買い物をする際のツール(価格、商品情報、レビューなど)からスタートしたモバイルは、今やそれ自体でショッピングを完結できるチャネルになった。
加えて、従来の実店舗型の小売業者が、カスタマージャーニーをさらに発展させるためにアプリを採用している。
これまで、実店舗&オンライン併用型の小売店と、デジタルファーストの小売店を区別することは簡単だった。しかし、買収、提携、イノベーションによって、その境界線はすでにあいまいなものになっている。こうした動きは、店舗での買い物、自宅での買い物、商品の配達など、小売カスタマージャーニーのあらゆる次元に影響を与えているのだ。
2018年には、こうした変化のために消費者の買い物習慣が変化して、小売店と消費者の関係が見直されるだけでなく、既存の小売チャネル(モバイルアプリ、ウェブ、実店舗など)の存在意義も変化し始めるはずだ。
例えば、中国のように欧米市場でも、モバイルで購入した商品の受取場所として実店舗が使われるケースが増えるという。また、レジの役割が縮小し、場合によってはモバイルに置き換えられる可能性もある。
これから数年の間に、信頼、価値、利便性に対する人々の期待が少しずつ高まり、いずれ小売も新しいステージに入ると考えられ、App Annieは、モバイルは今後も購入チャネルにかかわらず、ショッピングの中心となると予測される。
滝澤氏は
「ショッピングのオンライン化が叫ばれて久しいが、アプリは顧客体験のオンライン化を加速させている。最近ではZOZOSUITSが話題になった、オンラインで買い物が完結するための布石といえる。」
とコメントしている。
ファイナンスアプリは個人間送金アプリで決済がさらに多様化
5つ目のポイントは、個人間送金アプリで決済がさらに多様化するということである。米国で人気のVenmoなどの個人間(P2P)送金アプリは、フィンテックの中でも目立つ存在だ。
P2P送金アプリは現金や小切手に取って代わり、ミレニアル世代を中心とする消費者の支払い方法を一変させた。2018年にはそのサービス範囲を拡大することで、収益機会を増やし、従来の銀行との競争激化に対抗し、ユーザーエンゲージメントの強化を図るとみられる。
またこの分野には、メッセンジャーやSNSなど、自社の大きなユーザー基盤に対するサービス、マネタイズ、エンゲージメントの新たな手法を模索している他のカテゴリーから、成功企業の参入が増えることが予想される。
なかでもWeChatは、多くのユーザーにとって、さまざまな目的の拠点であり、中国におけるサービス配信チャンネルの定番となっている。
滝澤氏は
「電子マネーの普及はまだまだだった。しかし、現金文化を支える見えないコストがあり、消費者が結果的にそれを負担している。モバイル決済や現金を全く受け取らないサービスの台頭で、そういったコストが顕在化していくだろう。」
とコメントしている。
アプリのこれまでとこれから
2018年のアプリ市場の動向のカギを握ると予測される5つのポイントを挙げてきたが、これらは今後拡大が期待される分野のごく一部に過ぎない。こうして振り返ると、アプリ市場は誕生から10年の間に大きく発展した。
今後もイノベーションと技術進化はさらに加速すると思われる。次の10年、20年後、アプリがどのように進化するか、今後の動向が注目される。