「車に乗れないくらいおばあさんになったとき、歩いていける距離にお店がなかったら寂しいじゃないですか」
これは最近、とある飲食店の代表の方をインタビューした時に言われ、ハッとした言葉だ。
彼女は生まれた街に今でも住み続け、飲食店を立ち上げ、その材料を街のお肉屋さんや八百屋さんから仕入れている。その理由を「地産地消を志しているからですか?」と聞いたときに、冒頭の言葉が返ってきた。
何にハッとしたかというと “寂しい” という感情の部分だ。“地産地消” という言葉の持つ今っぽさではない。もっと根本的な心の動きとして、地元の商店が無くなることへの不安や、商店の店主とのコミュニケーションの楽しさがあるから、地元の町で仕入れを行っているということだった。
僕たちは、買いたいものが明確な時には地元のお店ではなく、Amazonに頼りがちだ。なぜなら、Amazonならば比較検討がしやすく、ワンクリックで家に届けてくれる。
Amazonは便利だが、冒頭のインタビューの “寂しさ” にも共感できる。僕は、Amazonを使ってものを購入するときの最後のクリック時に、モヤモヤしたものが残ってしまう。
地元のお店で買おうかなと考えることもある。だからといって、家にいながら、地元のお店に在庫があるかを知るすべはない。
検索上位にAmazonよりもローカルの店舗があらわれる「Pointy」
このサービスなら、そんなモヤモヤを解決できるかもしれない。ローカルなお店の在庫をWeb検索の上位に表示し、ローカルな店舗での購入機会を増やすサービス「Pointy」だ。
店舗で必要な作業は、「Pointy Box」と呼ばれる小型のデバイスをレジに接続して、バーコードを読ませるだけ。デバイスを通じて商品がオンラインに登録される。299ドルを一度支払えばそのあと料金はかからない。
商品が登録された後に、在庫管理システムを使わずに商品在庫の有無を確認するため、Pointyは独自のアルゴリズムを開発している。在庫があるかどうか、問い合わせることなくある程度推測できる仕組みのようだ。
ユーザーは、いつもどおりに欲しい商品を検索するだけ。検索の上位にPointyのページが出てくるようにページが最適化されており、ユーザーの位置情報を元に商品を取り扱う最寄りのお店を案内する。
その後、実際にお店に行って商品を購入する。
Pointyの店舗のページには、店舗の商品一覧とともに、電話番号とアクセス情報、営業時間が記載されている。商品の詳細ページには在庫があるかどうかの確認と関連商品へのリンクが用意されている。お店まで足を運んだのに、お店自体が閉まっていたり、在庫切れであったりといった不確実性を排除できるようにデザインされている。
同サービスは、ユーザーを地域店舗に足を運ばせるように設計されている。Forbesによれば「カリフォルニア州ロス・アルトスに住んでいて、LEDライトを探していたら “GE indoor LED Los Altos” とGoogleで検索すると、検索1位に出てくる。」という。
検索キーワードを正確に打たなければ、検索上位には出てこないようだ。検索に慣れていない層がPointyのページに辿り着くためには、まだハードルが高く、今後の課題となるだろう。
ユーザーが商品を検索した際に、どのような仕組みで検索エンジンの上位にPointyのページが表示されるかも明らかにされていない。公式サイトによれば、PointyのページがGoogleや他の検索エンジンに最適化されているため、検索の上位に表示されやすいと書かれている。だが、Amazonに検索順位で勝つのは容易ではないだろう。
どう検索でヒットするようにしていくのかは気になるところだが、同サービスが目指す未来は応援したくなる。
Amazonよりも“便利な体験“を提供できるか?
ローカルの店舗を積極的に使うことでローカル経済は潤い、街を持続させることに寄与できる。Amazonの商品を遠くから運ぶよりも環境負荷が低いし、サステナビリティの観点で言えばローカルのお店を使いたいというユーザーも少なくないだろう。
だが、全てのユーザーがこのように考えるわけではない。Pointyは、Amazonを使うよりも地域商店を使うほうがユーザーにとってメリットが大きくなるように、サービスをデザインしている。
たとえば、「今すぐ欲しい」というニーズに応えられることが、Pointyのメリットだ。洗剤や調味料など日用品は配達を待つよりも、家から50m先の店舗に売っていれば、そこに買いに出かけたほうがいい。一度店舗に足を運べば、次に日用品が必要になった時に、その店舗を想起しやすくなる。
店舗からすれば、商品登録の手軽さや在庫を推定するアルゴリズムなどによりサービスを利用するハードルは低い。ITリテラシーが高くないローカルの店舗にとっても使いやすいサービスだ。
ユーザーが一度でも購入のために来店してくれれば、接点ができる。Amazonへの対抗策として、アフターサービスを充実したり、販売した商品のリペアを請け負ったりと、次の購入機会や接点につなげる施策はいくつか思い浮かぶ。
経済合理性を追求した揺り戻しが起きている
Amazonのほうが便利なことも多い。だが、合理性に振り切れた世の中において、揺り戻しが起きているのではないか、とも思う。
レコードや使い捨てカメラのリバイバルを観察すると、揺り戻しの力は、想像以上に大きいと思う。ローカル経済が萎んでしまうのは寂しい。ローカルにしかない付加価値を大切に育てていけば、Amazonと同じ土俵で戦うことなく、生き残りが可能なのではないかと思う。
そんな中でPointyは、Amazonよりも地域商店でものを買うことが合理的であり、効率的な仕組みをデザインしようと試みている。このサービスが成功すれば、地域経済への貢献意識を持たない人にも、地域商店を利用してもらうことができる。
サービスを使い、地域商店の人々と交流する中で、ローカル経済への貢献意識を持ってくれると良いのだが。