狙うは2,000億ドルの市場。ミレニアル世代に照準を絞ったクレジットカード企業4社の動き

あなたはクレジットカードのポイントを気にする方だろうか?

私見では、10・20代の若者に比べ30・40代以上の世代の方がよりポイントに敏感な印象がある。

そもそもベイビーブーマー世代の70%以上がクレジットカードを利用しているのに対し、ミレニアルズは1/3しか利用していない。クレジットカード会社は若者のさらなるカード普及率低下を恐れ、特典内容やカード利用シーンの戦略転換を余儀なくされている。

北米のミレニアルズは2,000億ドルの購買力を持ち、6,600万人を超える人口を誇る。ジェネレーションZは未だ440億ドルしか購買力を持たないが、人口数はミレニアルズを上回る6,900万に至ると予想がされている。一方、1940年代半ばに生まれたベイビーブーマー世代は7,000万人を超えているが、2050年までに1,600万人ほどまで激減すると見込まれている

ミレニアルズの87%が少なくとも2台以上のスマートフォンを日常的に扱い、92%が何らかのサブスクリプションサービスを利用。今回はこうしたデジタル環境に沿ったカード提供の事例をいくつかを紹介したい。

AI審査で、ミレニアルズへのリーチ課題を解決

クレジットカード申請を行うには、数千ドル分のお金をデビットカードで支払った証明である「クレジットヒストリー」が必要とされる。一定額以上の支払い能力があるかを確かめ、それに沿って毎月の支払い限度額を決めるのだ。

特に北米では支払い能力がないにも関わらず、クレジットカードの使い過ぎで利用停止されるケースも目立つため、バックグラウンドチェックは必須となる。

一方、クレジットヒストリーが十分でなくとも、これから購買力を持ち始める次世代に向けてカードサービスを提供したい企業側のニーズが存在するのも確かだ。

Deserve(ディザーブ)」はクレジットヒストリーをなかなか貯めることが出来ないジェネレーションZ世代の大学生に対してクレジットカードを提供するスタートアップ。

従来のクレジットカード会社との違いは機械学習を用いた審査方法だ。「Deserve」はクレジットヒストリーの代わりに学歴や現在の貯金額を基に、学生の支払い能力をAIを通じた事前予測でカード発行査定を行う。特典はUberと同じくサブスクリプションサービス割引などを提供。

NetflixやSpotifyなどサブスクリプションサービスとの連携したクレジットカード特典

次に紹介したいのは、配車サービス「Uber(ウーバー)」のクレジットカード特典。従来のクレジットカード同様に1-4%の範囲で旅行や食事で使えるポイント特典が付いている。

大きな特徴は2つ。1つは、年間5,000ドル以上同社サービスを使えば50ドルのオンライン・サブスクリプション割引を受けられる。もう1つはスマートフォン修理でカードを使えばポイントが貯まる点だ。

2017年のデータでは、過去60日以内に約25%のミレニアルズがUberを利用しており(前年度比8%増)、特典内容も単にUber内でしか使えない閉ざされたものではなく、ミレニアルズが利用するであろうNetflixyやSpotifyのような他社サービスとの連携を幅広く行い利用価値を高めている。

盛り上がりを見せるモバイル投資。特典の代わりに投資報酬で稼ぐ

モバイル上で簡単に少額から投資を行えるサービスとして主にミレニアルズから人気を博し、今では企業価値1,000億円を超えるユニコーン企業となった「Robinhood(ロビンフッド)」。

モバイル投資ブームを背景に、投資リターンをカード特典として提供するのが2018年ローンチ予定の「Jiko(ジコ)」である。同社はデビットカードを発行しているが、クレジットでないにも関わらず0.5%の特典ポイントが付く。

満期の年数が1年またはそれ以下の短期米国債のやり取りをモバイル上で簡単に行うことができ、自分が設定した目標投資リターン額を手にすることができる仕組みが一番の特徴だ。

一定額以上を利用しないと特典を手にできない手法を捨て、リスクの少ない短期国債で得られるリターンをカード利用特典として訴求する。こうした狙いがミレニアルズにどの程度受け入れられるかは定かではないが、デジタル世代を睨んだ次世代戦略と言えるだろう。

簡単な設定をするだけで、自動投資取引を行ってくれ、最終的には少額ポイントを貯め続けるより大きなリターンを得る方が魅力的に映るかもしれない。

モバイルで支出管理。親と子供を繋ぐ新しいデビットカードの形

アメリカではキャッシュレスが当たり前だ。筆者は6年ほどアメリカに住んでいたが、現金を持ち歩くことはなかったし、同世代の友人はクレジッド及びデビットカード5-6枚をポケットの名刺ケースに忍ばせ手ぶらで歩いていた。

キャッシュレス文化が浸透した社会において、デジタルネイティブなティーン世代を狙ったカード会社に「Current(カレント)」が挙げられる。

ティーンはEコマースで買い物をしたり、Netflixのようなオンラインサブスクリプションサービスを利用するニーズを強く持っている。しかし当然クレジットヒストリーもなければ、そもそも銀行口座を持っている人も少ないので、親のお金に頼るしかない。

親から渡されるのは現金で、オンライン決済をする際は毎回カード番号を聞いたり、購入の許可をもらうのは面倒だ。一方、親も子供が自分のカードを悪用して多額の支出をしていないか不安になる。

このような親と子供のギャップを専用デビットカードサービスの提供で埋めているのが「Current」だ。同社はティーン向けのデビットカードを提供するが、親がモバイルで子供の支出状況をリアルタイムで監視できる。口座は親の口座と連携されており、支出上限も設定できるので安心。

子供は銀行口座を開くことなくキャッシュレス生活を楽しむことができ、親は子供の支出管理をモバイルで手軽にできる点が人気を博し、500万ドルの資金調達に至った。

ちなみにミレニアルズカップルが共同で口座管理をするアプリ「Honeydue」も登場しており、「マージファイナンスアプリ」市場は益々盛り上がりを見せている。

ミレニアルズ、ジェネレーションZが市場の担い手となるのは時間の問題だ。FinTech市場もAIの導入や投資機会が開かれたことで大きな変革を遂げつつある。

特にAIを通じたクレジットカード審査のあり方はカード普及率を上げるであろうし、特典内容を若者のライフスタイルに合わせることでカードのエンゲージ率も高まるであろう。

一方、依然としてベイビーブーマー世代から離れられない既存カード会社や銀行は、ここまで紹介してきたスタートアップによるディスラプションの波に飲み込まれる日もそう遠くはない。

img : 401(K) 2012, Uber, Deserve, Jiko, Current, Thomas Kohler

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