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つい先日、引っ越しのためにIKEAで家具を買った。木目調のテーブルと椅子4脚セット、ダイニングに置く戸棚で、費用は5万円もかからなかった。
安上がりに購入できたと満足はした。だが、その安さと引き換えに、手間はかかる。組み立てに必要な各パーツを巨大な倉庫から探し出し(戸棚に至っては12種類のパーツを集めた)、電動ドリルを使い、自分で組み立てるからだ。
「誰か組み立てて」と、心底思った。
「家具の組み立て」の悩みをアウトソースで解消
家具の組み立てが面倒くさいことは、世界共通の課題らしい。米国では些細な困り事やタスクを依頼できるサービスがいくつか登場している。
その中でも、TaskRabbitは代表的なサービスのひとつだ。TaskRabbitでは、何か頼み事がある人がアプリを通じて、「タスカー」と呼ばれる個人の働き手を自宅などに呼び、少し面倒なことを少額な値段からアウトソーシングできる。
TaskRabbitは2008年に元IBMのソフトウエア・エンジニア Leah Busque氏がボストンで創業したスタートアップ。同社はこれまでに約3800億ドルを調達している。
単発の仕事をする「ギグ・エコノミー」のプラットフォーム
TaskRabbitは、「ギグ・エコノミー」のプラットフォームの一つに分類される。ギグ・エコノミーとは、新しい働き方として注目を集めているテーマだ。単発・短期の仕事を「ギグ」と呼び、色々なギグを組み合わせることで、仕事をする新たなスタイルが生まれている。
ギグ・エコノミーのプラットフォームとして挙げられるのは、UberやAirbnbなどのプラットフォームだ。人々はこうしたプラットフォームを活用することで、組織に所属することなく、個人で仕事を得て働く。
TaskRabbit上にも様々な「ギグ」が頼みごとという形式で掲載されており、食料品の買い出しや大量の洗濯物の折りたたみなどがある。
The Vergeが2013年に発表したインフォグラフィックによれば、TaskRabbitで最も依頼されるタスクは、家具の組み立てだったという。
IKEAが企業買収でサービス領域を拡大
もちろん、TaskRabbit上で依頼された家具の組み立てには、IKEA以外で買われた家具も含まれる。だが、IKEAは「家具の組み立て」というサービスに注目した。
2016年11月にIKEAはロンドンの店舗でTaskRabbitと提携を結び、家具組み立てサービスの試験運用を開始。このサービスの試験運用は好反応だったようで、両社の関係は協業に留まらず、さらに進展。2017年10月に、IKEAはTaskRabbitを買収した。
IKEAはTaskRabbitを手中に収めたことで、家具の販売だけではなく、家具の組み立てというサービスにまで事業領域を拡大した。
「メーカーは製品を販売するだけでなく、サービスを提供するべきだ」と言われて久しい。だが、いきなりサービス業への転換を迫られても、打ち手を決められないメーカーもいるだろう。
IKEAは、自社製品に関する「ギグ」が多く集まっているプラットフォームに目をつけ、買収することでサービス領域へと進出した。
販売している自社製品の周辺に、関連するサービスを提供しているプレイヤーがいないかどうか、確認してみることで、新たなサービスの提供やビジネスチャンスの発見につながるかもしれない。
Img : Nathan Fertig