日本人は先進国の中でも貯金をする人の割合が多い国民だといわれる。2017年に日本銀行調査統計局は、個人金融資産に占める現預金の比率は51.5%で米国の13.4%やユーロ圏の33.2%を上回ったと発表した。
一方で、多くの人は能動的に貯蓄を選んでいるわけではないようだ。東京スター銀行が行った調査では、日本人の8割が「特に明確な目的や使用用途がなく念のために貯蓄」していると回答。
私たちが何となく銀行に預けたままのお金は、どこかの知らない企業や個人に貸し出されている。その使い道を気にしたことがあるだろうか。
預金をより良い社会づくりのために届ける「CNote」
米国では無目的に口座に置かれた資金を、社会的な事業に投資できるFinTechサービス「CNote」が注目を集めている。
CNoteは、ユーザーから預かったお金を地域開発に投資し、2.5%の金利を還元する。社会も個人もメリットを得られる仕組みが高い評価を集め、世界規模のテクノロジーカンファレンス「SXSW Conference & Festivals」で、世界500社を超える応募から最も優れたスタートップにも輝いた。
(SXSWでピッチを行うファウンダーのCat Berman氏)
低所得者コミュニティーの支援を行う「CDFIs」とは?
CNoteが預かったお金を投資するのは、地域の支援活動に融資を行う「Community Development Financial Institutions(CDFIs)」という団体だ。
CDFIsは米国内の低所得者コミュニティーの開発支援を目的に設立された機関。1994年に米国財務省によって設置されて以来、その数は米国内で1,000を超える。
米国では特定の人種が住むエリアに対して、融資における不当な差別が行われていた歴史がある。そのため地域によって享受できる金融サービスに差が生まれ、資金の集まらない地域が経済的に衰退する現象が多く見られた。
1970年代以降は政府も是正に乗り出し、CDFIsを含む複数の民間・政府組織が低所得者コミュニティーの振興に向けた金融的な支援を実施してきた。
CDFIsはローンファンドやクレジットユニオン、ベンチャーキャピタルファンドなど、地域によって異なる形態を採る。主たる支援の内容は、通常の銀行で金融サービスを受けられない低所得者向けの貸付、NPO法人や社会的事業への融資。他にも低所得者向けの住宅供給プログラムや雇用機会の提供も担う。
2016年にCDFIsが行った出資・融資額は21億円相当に上り、28,000件もの雇用を生んだ。
高金利とソーシャルインパクトを両立するために
CNoteが画期的である理由は、社会的な事業への支援が行えるだけでなく、2.5%という高い金利を両立している点だ。Forbesによると伝統的な米国の銀行では金利が0.06%程度といわれる。
安定して高い金利を実現するため、CNoteは「信頼に足る財務実績のあるCDFIsのみ」と連携、投資を行うそうだ。また複数のCDFIsに分散して投資を行い、リスクを最小限に留められるようポートフォリオを組んでいる。
実際にCNoteと連携しているCDFIsは、同サービスのテスト開始以降は一切の損失を出していないという。また、CDFIs全体でも貸し倒れとなった債権の割合は、サブプライムローンの直撃した時期においても比較的安定している。
休眠預金を活用するべく国内で進む新たな動き
ファウンダーであるCat Berman氏は自身の貯金残高をみて「口座に置いてあるだけのお金を人助けのために使えないか」と考え、サービスの立ち上げに至ったという。その仕組みは、昨年日本でも話題となった「休眠資産」の活用と近いといえるかもしれない。
米国では一定期間放置された預金口座や保険・投資信託を「休眠資産」と呼び、政府が公的な支援を行うための財源として利用してきた。
National Association of Unclaimed Property Administrators (NAUPA) の調査によると、2015年に77億6,300万ドル(約8,680億円)の休眠資産が発生している。そのうち元の預金者に変換されたのは32億3,500万ドル(約3,617億円)だった。
米国では休眠状態と判断する期間が3〜5年と州によって異なるが、日本では10年以上にわたり放置された場合に休眠預金となる。休眠預金は2010~13年度の平均で約1,050億円、預金者に返った金額を差し引いても約620億円に上るという。
日本でも2018年1月より休眠預金活用推進法が施行され、米国と同様に休眠預金がNPO法人や自治会の活動支援に充てられる予定だ。
割り当てられる分野としては、「子ども・若者への支援」や「日常生活等を営む上で困難を有する者の支援」、「地域活性化等の支援」が想定されている。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2017年に実施した調査によると「休眠預金」という言葉の認知度は6割を超える。
「子ども・若者への支援」や「日常生活等を営む上で困難を有する者の支援」、「地域活性化等の支援」といった主たる活用先についても、6〜8割が肯定的に捉えている。また留意すべき点としては7割以上が「資金の活用の透明性を確保すること」を選択した。
日本人のおよそ8割が「特に明確な目的や使用用途がなく念のために貯蓄」している一方、休眠預金が社会的意義あるプロジェクトに利用されることへの抵抗は少ないようだ。
CNoteのように投資先が明確かつリターンが見込める仕組みであれば、日本においても社会貢献につながる投資を行う人が増えていくかもしれない。