「電子国家エストニア」の起業文化を育む、大自然–観光PRでも先端テクノロジーを駆使【連載:電子国家エストニア】

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「世界最先端の電子国家」と呼ばれるエストニア。Skypeが誕生したことでも知られており、ITスタートアップ関連の情報がさまざまなメディアに取り上げられることが多くなってきた。本連載では少し視点を変えて、スタートアップ文化を育むエストニアの周辺環境・要因について紹介していきたい。

エストニアと聞いてまず思い浮かぶのは「電子国家」や「Skypeが誕生した国」など、ITや起業に関連するイメージではないだろうか。エストニアと聞いて「自然」「観光」「旅行」などのワードが思い浮かぶひとは少ないはずだ。

しかし、エストニアは小さな国土(九州ほど)ながら、地理的に北欧に位置づけられ、北欧の国らしい妖精が出てきそうな神秘的な森林や湖に加え、断崖絶壁の崖や高原などさまざまな表情を持つ自然を有している。

そんな観光資源を生かして、観光産業を盛り上げようとエストニア観光局が実施したユニークな観光PRが注目を集めている。今回はこのエストニアらしさを前面に出した観光PRを中心に、起業文化を育むエストニアの美しい自然を紹介していきたい。

エストニア観光局のPR、画像認識でストレス度合いをチェック

エストニア観光局がこのほど実施したのは、画像認識テクノロジーを駆使した「ストレス・バスター」PR。

都市の忙しい生活でストレスを抱えているなら、自然のなかでストレスを取り除こうというメッセージを発信する動画だ。単に自然や観光地を紹介する観光PRではなく、そこにテクノロジーを組み入れるエストニアらしさが前面に出たユニークなPRといえる。

動画は「成人の43%がストレスから健康上悪い影響を受けている(米国心理学会)」という問題提起から始まる。

そこからロンドン、ベルリン、オスロなどの都市部でストレスを抱えたひとびとをターゲットに、エストニアの癒やしの自然に誘うための施策を実行していく。

街行く人びとのなかからストレス度合いが高い人を見つけていくわけだが、そこで登場するのがベルリン・フンボルト大学感情・心理解析のエキスパート、アンドレ・バインレイク(André Weinreich)博士が開発した画像から感情を分析するソフトウェアだ。

街行くひとびとの感情を検知(ストレス・バスターのYouTube動画より)

このソフトウェアは目の位置と表情からリアルタイムに感情を検知することができる。検知する感情は、「怒り」「喜び」「かなしみ」「驚き」の4要素。街行く人から、「怒り」ゲージが高い人をピックアップし、その人にエストニア旅行をオファーする流れだ。

自然のなかに身を置くことでもたらされる健康的効用は数多くある。そもそもストレスを抱えている状態が長く続くと、やる気がなくなり生産性が落ちたり、記憶力が悪くなったり、自信がなくなったりと、ビジネスをする上で深刻な影響を与える。またストレス状態が悪化すれば、無気力やうつといった状態にもなりかねない。

しかし、これまでに発表された数多くの研究からも分かるように、自然のなかで過ごす時間があると、ストレスレベルが下がり、上記で示したようなストレスが要因となる多くの症状を予防することが可能となる。

英エクスター大学医学部のマシュー・ホワイト(Mathew White)博士は、自然環境と健康の関係を研究している研究者。ホワイト氏が2013年に発表した論文では、自然と精神的健康の関連を分析し、人があまりいない森など自然が豊かな場所を週に1度、30分ほど訪れるだけで、精神的健康に劇的な改善が見られたと報告されている。

エストニアの美しい自然が「世界最先端の電子国家」で暮らし、盛り上げる人びとを支える要素の1つと考えても間違いではないかもしれない。


エストニア観光局による先端テクノロジーを駆使した観光プロモーション動画「ストレス・バスター」

 

自然を満喫できる「電子国家エストニア」

エストニアは国土が九州ほどある一方、人口は約130万人と人口約1300万人の九州の10分の1しかいない。そのため人口密度は非常に低い。国土の約40%が森林で覆われており、湖、湿地帯、海岸などまだ手付かずの自然が多く残っている。

このセクションでは、海外観光客にはまだ広く知られていないエストニアの自然を満喫できる穴場を紹介したい。

「ソルグ島(Sorgu Island)」
エストニア西部の沿岸都市パルヌから沖に20kmほどのところに位置する小さな無人島。エストニア観光公式サイトがエストニアでもっとも人のいない場所ランキングで1位と評価する場所でもある。渡り鳥保護のため4月15日から7月1日までは立ち入り禁止となるが、その期間以外はボートで来ることができる。1904年に赤レンガで建てられた灯台がランドマークとなっており、カヤックやセーリングの目的地としても人気がある。

エストニア、ソルグ島(エストニア観光公式ウェブサイトより)

「ソフルブ半島の最南端(Tip of Sõrve)」
エストニア東部の離島サーレマー島南西部にあるソフルブ半島。その最南端はバルト海に面しており、自然を満喫したい人やバードウォッチングを楽しみたい人が集まる場所となっている。ソフルブ半島は歴史書物を遡ると、その名前が1234年には登場したとされており、歴史好きが気なる場所でもある。

エストニア、ソフルブ半島(エストニア観光公式ウェブサイトより)

「ラヘマー国立公園(Lahemaa National Park)」
ラヘマー国立公園は1971年、エストニア北部の自然生態系の保護・研究を目的に制定された国立公園。エストニアの首都タリンから東に60kmほどの位置にあり比較的手軽に来ることができる。公園内では、湿地、森林、そして海岸とさまざまな自然を体感することができる。

エストニア、ラヘマー国立公園(エストニア観光公式ウェブサイトより)

「マー二キアフ・ハイキング・トレイル(Männikjärv hiking trail)」
首都タリンから南東130kmほどに位置するマー二キアフ湖、そしてその周辺の湿地帯や森林を散策できる全長2.2kmのハイキングコース。湿地帯では辺りを神秘的な空間に変えてしまう霧が発生することもあり、都市生活のストレスから開放される場所として密かに人気となっている。マジックアワーには湖に反射する夕焼けに遭遇するチャンスもあるので、写真好きにも注目される場所だ。

エストニア、マー二キアフ・ハイキング・トレイル(エストニア観光公式ウェブサイトより)

これらはエストニアで自然を満喫できる場所のうちのほんの一部。日本ではまだ知られていない場所も多くあり、開拓の余地は非常に大きい。

今後も先端電子国家として進化を続けるエストニア。その進化を担うのは人であり、そうした人びとが心身ともに健康であることが進化のカギになるのは間違いない。エストニアを通して美しい自然とテクノロジー進化の関係を考えてみるのもよいのではないだろうか。

【連載】電子国家エストニア

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