“See now, Buy now”のその先へ。Amazonのパリコレ参入が変えるファッションショーの未来

華やかなランウェイと奇抜な服、すらりとしたモデルたち——。

「パリコレ」と聞いた時、私たちがイメージするのはそんな非日常空間ではないだろうか。

パリをはじめ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークで開催される4大コレクションは、これまで各ブランドが業界関係者に半年先のルックを発表する場だった。

しかし、ここ数年でコレクションの役割が変わろうとしている。

ファッションショーの新しい潮流 “See now, Buy now”

コレクションの存在を脅かしているのは、SNSとファストファッションの台頭だ。

ランウェイで紹介された洋服はSNSを通して瞬時に世界中に拡散される。同時にファストファッションは一斉に模倣をはじめる。半年経ちブランドの商品が店頭に並び始める頃には、ブランドが作ろうとしたトレンドは、ファストファッションによって、すでに消費されたものになってしまっている。

この動きに対抗するようにブランド各社が最近注目しているのが “See Now, Buy Now”という考え方だ。通常では発表から半年ほど先に販売されていたコレクションを、すぐに購入できるというトレンドが生まれている。

2016年には、Burberryがロンドンでのコレクション発表直後にオンラインで購入できる仕組みを整え、Ralph Laurenはニューヨークコレクションで発表したアイテムを店舗でそのまま販売した。

これまで、コレクションを通して最先端の情報に触れられるのは、バイヤーやファッションエディターといった限られた人々だけだった。

しかし、今やファッションエディターと同等かそれ以上の力を持つインフルエンサーが現れ、ショーの生配信も当たり前。ファストファッションの商品開発の速度も早く、10年ほど前と比べると情報の伝達スピードもデザインを模倣するスピードも、格段に上がってきたのだ。

さらに、消費者である私たちが日々受け取る情報量も爆発的に増えた。
「欲しい」と思った瞬間に買ってもらわなければ、次々と現れる別の誘惑に消費者の関心を取られてしまう。

こうした時代の変化によって、「欲しい」と思った瞬間にすぐオーダーしてもらう“See Now, Buy Now”の潮流は、コレクションの流れを大きく変えようとしている。

もともとオートクチュールのオーダーをとるために見本市としてはじまった「コレクション」が、プレタポルテ全盛となった1960年代から50年以上の時を経て、改めて「その場でオーダーする」という原点に立ち返りつつあるのだ。

ECの巨人・Amazonの参入で、 “See now, Buy now, Delivery now”へ

この流れを好機と捉えるのはファッション業界だけではない。ECの巨人で「“Delivery now”を得意とするAmazonもこの流れを上手く活用しようとしている

Amazonは2017年9月にファッションブランド「Nicopanda」と提携。コレクションで発表されたアイテムの即日配達を開始した。ショーを見て、ほしいと思ったものをその日に手にすることができるようになる。

Amazonがこうした事業提携をはじめる背景には、近年力をいれているファッション分野でのイメージを上げたいという思惑が感じられる。プライベートブランドをはじめ、積極的にファッション分野に乗り出しているが、今のところ「Amazonで洋服を買うことがクール」という風潮まではほど遠い。

そこで、コレクションの大きな潮流である “See Now, Buy Now”に自らの強みである “Delivery now”を持ち込み、顧客データの取得から、ファッション分野でのイメージをアップを狙おうとしている。

購入情報を自社のプライベートブランドに生かすことはもちろん、ユーザーの好みを分析して、他事業へフィードバックすることも可能だ。

Amazonならではの武器がファッションを変えるか

Amazonにはあるが、ファッションブランドには持ち得ないアセットは数多く存在する。

巨大な配送網はもちろん、プロダクトからウェブサービスにいたるまで。Amazonならではのテクノロジーは、ファッション業界を変化させる力があるのではないだろうか。

例えば、“See Now, Buy Now”の流れをAmazonオリジナルのレンタルサービス「プライム・ワードローブ」と組み合わせてみよう。

コレクションで見たアイテムをその場で注文し、自宅で試着するために「借りる」ことができる。試着したアイテムはAmazon Echo Lookのカメラで記録し、「似たアイテムを探す」機能で、Amazonのプライベートブランドで安価に似たデザインの商品を手に入れる。

——そんな未来もありうるかもしれない。Amazonの参入は、こうした「ファッション帝国」を目指すための、小さな足がかりなのではないだろうか。

img: Nicopanda, unsplash

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