頭の中で念じて飛ばすマインドコントロール・ドローンの登場

映画『スターウォーズ』の「フォース」や漫画『ドラゴンボール』の「気」など、これまでSF映画や漫画の世界で表現されてきた「目に見えない力」。手を触れずに念力だけで自分の思った通りに何かを動かすパワーにあこがれたひとは多いだろう。

そんなSFや漫画の世界が、近い将来現実になるかもしれない。自分の思った通りに、念力だけでさまざまなものをコントロールできるテクノロジーが急速に発展しているからだ。

その1つがブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)と呼ばれるテクノロジー。これは一言でいうと脳とコンピューターをつなぐ技術。脳に取り付けられたセンサーが脳から発せられる電気信号をキャッチし、それらをコンピューターが解読できるコードに変換、コンピューターを通じてさまざまなデバイスを操作することができるのだ。

もちろんドローンも例外ではない。コントローラーを使わずに、脳波でドローンを操作する技術はすでに研究開発されている。2016年4月、米フロリダ大学では脳波コントロールドローンを使ったレースが実施された。

パイロットは脳波(EEG)センサーヘッドセットを頭に着用、パソコンスクリーンに映し出されたキューブを動かそうと念じると、その脳波に連動してドローンを操作することが可能となる。脳波のパターンはひとぞれぞれであるため、パイロットごとにキャリブレーションが必要であるが、ある程度ならコントロールできることが実証された。


フロリダ大学、脳波コントロールドローンを操縦するパイロット

一方、アリゾナ州立大学の研究チームはさらに一歩進み、脳波を使って1人で複数のドローンを操作する技術を開発している。これは以前お伝えした「ドローンスワーム」技術であるが、プログラムされて決まった動きではなく、脳波でリアルタイムにドローンスワームをコントロールできるのだ。まだ研究開発段階ではあるが、実用化されるとそのインパクトは非常に大きなものとなりそうだ。

たとえば、広大な土地でのデータ収集で1人のパイロットが複数のドローンを一度に操作できると、生産性は単純計算でドローンの台数分上がることになる。レスキューや警備などの分野でも期待できるところだ。


アリゾナ州立大学の研究チームが開発したマインドコントロール・ドローン

Mind Drones from ASU Now on Vimeo.

脳とマシンがつながる未来、加速するBCI研究開発

脳とコンピューターをつなぐ研究は米国立科学財団や米国防高等研究計画局(DARPA)の資金援助を受け、1970年頃から米国内の大学で実施されるようになり、これまでに数多くの成果を残している。

BCIには、大きく頭蓋骨に穴をあけ脳の部位に電極を直接差し込む侵襲的手法と、頭蓋骨の外から脳波を検知する非侵襲的手法の2つがある。前出のマインドコントロール・ドローンで利用されているのは後者の非侵襲的手法だ。

侵襲的手法に関わる研究では、盲目患者の視覚野(視覚情報を処理する脳の部位)に直接電気信号を送ることで「見る感覚」を生み出したり、手足が麻痺した患者の脳に埋め込まれたチップによってロボットアームを動かしたりといった成果が報告されている。

一方で、非侵襲的手法に関しては、安全性や使いやすさで優れるEEG(脳波)デバイスを活用した研究が盛んに行われている。ドローン操作のほかにも、感情分析やバイオメトリクスに応用されているようだ。数百ドルという低コストEEGデバイスが登場したことも、BCI研究の裾野を広げる要因になっていると考えられる。

いまや脳波は誰もがカジュアルに測定できる時代になったともいえる。実際「OpenBCI」や「NeuroTechX」などの脳科学・BCIコミュニティーが立ち上がり、活発に知識共有やイベントが行われている。


低価格脳波測定(EEG)デバイス(Emotiv社ウェブサイトより)

また、今年はフェイスブックが独自のBCIプロジェクトを発表したり、イーロン・マスク氏が新たなBCI事業「Neuralink」を公開したりと、BCIを取り巻く状況はさらに活発になっている印象だ。

フェイスブックのBCIプロジェクトでは、非侵襲的手法を使って、頭で考えたことを手を使わずにタイピングする技術の開発を目指すとしている。マインドタイピングすることで、タイピングスピードは手を使うときに比べて5倍速くなるという。さらには、VR・ARを頭で操作できるレベルまで実現したい考えだ。

一方でNeuralinkは、短期的にはBCIを使った脳治療法の開発を行い、長期では人間の能力強化を可能にする技術に発展させる狙いがあるといわれている。

このようにBCI研究と実用化の取り組みが加速しており、誰もが「フォース」を使えるようになる未来は予想以上に早く到来するのかもしれない。

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