「売る」だけがECの価値じゃない。O2O戦略のプロ・パルコが挑む新たな価値

時価総額が1兆円を超えたことで話題になったZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ。1兆5,297億円と言われるアパレルEC市場において、ZOZOTOWNの取扱高は2,000億円を超えるとも言われ、市場の10%超がZOZOTOWN経由という計算になる。

ZOZOTOWNのみならず、Amazon、楽天など、アパレルEC市場で話題になるのはECモールばかりだ。直営のECサイトは、ブランドにとって注力すべき対象ではないのだろうか?

直営ECに潜む「売る」以外の意味

2017年9月に公開されたANREALAGEの直営EC

ZOZOTOWNがマーケットプレイスとしてさらなる成長を続ける中、パルコを運営する株式会社パルコはファッションブランド直営ECサイトの運営代行サービスを発表した。

第一弾として2017年9月に「ANREALAGE(アンリアレイジ)」のECサイトをオープン。順次ブランドを増やしていく予定だという。

ANREALAGEはすでにZOZOTOWNや海外のラグジュアリーEC・Farfetch(ファーフェッチ)に出店しており、ただオンラインで買い物をしてもらうだけなら直営ECをもつ必要はない。

マーケットプレイス経由の購入は販売の度にマージンが発生するとはいえ、一般的なブランド内のEC化率が5〜10%と言われる中で、多額の予算をかけて直営ECをもつ意味は何なのだろうか。

その答えのひとつは、実店舗とECのシームレスな買い物体験だ。

例えば、ECでチェックしたものを実店舗で試着できるサービスを提供したい場合、すでに仕様が決まっているECモールのプラットフォームで展開するのは至難の技である。しかし、自由度の高い直営ECであれば、ブランド体験を軸にECと店舗の関係を設計できる。

また、ECと実店舗を連動させた施策を打てるのも、直営ECならではの強みだと言える。

アメリカではEC発のブランドが続々とショールームとしての実店舗をもちはじめている。EverlaneもWarby Parkerも、オンラインでの販売はあくまで自社ECのみにこだわり、店舗で体験したあと自社ECへ誘導し決済してもらうという形式をとっている。

こうしたオンラインとオフラインをつなげる施策は、AmazonがAmazon Booksで実験的にはじめているものの、他のマーケットプレイスでは手付かずになっているのが現状だ。O2Oやオムニチャネル施策に力をいれるためには、自社ECへの注力が必要不可欠になってきている。

なぜパルコはEC運営代行に乗り出すのか

パルコが運営するミツカルストア。インフルエンサーとのコラボなど、新しい取り組みにチャレンジしている

一方で、ECの運営代行という市場はすでに専門業者が乱立している。

ZOZOTOWNも、モール事業とは別に直営ECの運営代行を展開しており、運営先のひとつであるUNITED ARROWSの直営EC構成比率は20%という高水準だ。

すでに競合がしのぎを削る市場で、後発としてパルコがECの運営代行に乗り出した意味はどこにあるのだろうか。

パルコの公式リリースによれば、ANREALAGEの直営ECでは下記のポイントに注力している。

しかし、実店舗をもつパルコの一番の強みは、EC運営だけに止まらないO2O施策への知見の蓄積だろう。

O2O戦略に強みを持つことがEC時代の価値となる

「ショップスタッフのおすすめが買える」が売りのカエルパルコは、スタッフにファンをつけて購買につなげる施策の走りとして注目されてきた

パルコは商業施設の中でも特にO2O施策に力をいれてきた歴史がある。

たとえばショップスタッフのおすすめを買えるECとしてスタートしたカエルパルコでは、オンライン上で実店舗へ「取り置きリクエスト」を送ることができる。この仕組みにより、購入前に実物を見たいというニーズに応え、来店を促している。

それ以外にも、ビーコンを活用した動線分析に力を入れたり、2013年にZOZOTOWNと提携してバーコードスキャンを使ったECへの誘導施策が話題となったことも記憶に新しい。

パルコの資産である実店舗という武器に加え、こうしたO2Oへの取り組みの蓄積は、直営ECの運営でも大きな強みになる。

従来の「ECはEC担当、店舗は店舗担当」という縦割りの役割分担ではなく、ECとリアルをシームレスに結ぶ仕組みづくりの担い手として、パルコの運営代行は大きな需要がありそうだ。

ZOZOTOWNやAmazonといったモールばかりが注目されがちなファッションEC市場。だが、「売り」の効率化のみに注力してプラットフォームに頼り切ってしまうのは、こうしたシームレスな取り組みに乗り遅れるリスクをはらんでいる。

直営ECも実店舗と同じく、ただの「売る場所」ではなく、顧客にシームレスなブランド体験を提供する場所としての価値がますます上がっていくのではないだろうか。

img: ANREALAGE, ミツカルストア, カエルパルコ

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