10年で利用者は2億人。「Airbnb」の成長を支えた15社の買収事例

きれいで平均的な価格で宿泊できる変わりに、これといった特徴もないホテルは好奇心が旺盛なミレニアル世代にとっては少々退屈だ。

そんなミレニアル世代がごく普通のホテルでは決して味わえない人とのつながりや、特別な体験をもたらすAirbnbに惹かれたのは必然だったのかもしれない。

2007年10月、失業して家賃の支払いに困っていた2人のデザイナーは自宅の余ったスペースにエアマットを敷いて貸し出すことにした。

「エアベッド&ブレクファスト」という名称で始まったこのアイデアは、わずが10年で世界191カ国以上、6万5,000を超える都市に広がった。物件数は400万件を超え、累計のゲスト数は2億人を突破。投資家や金融機関から40億ドル以上もの大金を集め企業価値は300億ドルにまで及ぶ革新的な企業へと急成長を遂げている。

Airbnbがユニークなのはスタートアップながら積極的に他社の買収に踏み切っているということ。2017年10月時点で15社を買収しており、それが同社の成長にも一役買っている。

ではAirbnbはこれまでどのような企業を買収してきたのだろうか。その歴史を振り返ってみよう。

1社目 : ドイツの民泊プラットフォーム「Accoleo」(2011年7月)

Airbnbの最初の買収先となったAccoleoはドイツ発の民泊サービス。Airbnbではヨーロッパ初となる拠点をハンブルクに開設し、ここから本格的なローカル展開が始まった。

当時すでに世界181カ国、13,000都市に展開していたAirbnbだが、同時に各地で模倣サイトが立ち上がり始めていた。特にヨーロッパで勢いのあった「Wimdu」に対抗する術としてAccoleoの買収に至っている。この辺りはAirbnbの成長物語を記した書籍『Airbnb Story』に詳しい。

2社目 : イギリスの民泊プラットフォーム「Crashpadder」(2012年3月)

Crashpadderはロンドン発の民泊プラットフォームで、1社目のAccoleo同様にヨーロッパ展開を進めることも目的とした買収だ。2012年3月の買収後はCrashpadderのアカウントはAirbnbへ移行され、多くのホストの獲得に貢献。

2012年の夏にはロンドンオリンピックが控えていたこともあり、近隣エリアのホストを増やしておくことはAirbnbにとって重要な指標であった。

3社目 : 観光情報サイト「NabeWise」(2012年7月)

NabeWiseはニューヨークやサンフランシスコなど特定の場所に特化したローカル観光情報メディア。Airbnbにとって同業他社以外では初の買収となった。

同年11月にAirbnbは「Neighborhoods」という新たなプロダクトを発表している(日本版では「人気都市ガイド」)。人気都市の魅力を写真やテキストで紹介したWebメディアのようなもので、NabeWiseの買収はNeighborhoodsを強化する目的であったと考えられる。

4社目 : 写真共有SNS「DailyBooth」(2012年7月)

DailyBoothを一言で表すと「写真版Twitter」という表現が一番しっくりくる。テキストを投稿するのではなく写真を投稿するという気軽さがティーンを中心に評判になり、急速にユーザーを集めた。Instagramよりも約2年近く前にリリースされている、この領域の先駆者のような存在だ。

Airbnbは2012年7月にDailyBoothを買収しているが、これは事業の関連性ではなく人材採用が目的であるという報道が多い。Airbnbでもモバイル経由のトラフィックが増えている中で、人気アプリを手がけてきたDailyBoothの技術力を欲して買収に至ったということだ。

同年11月にはサービスの閉鎖が発表された。

5社目 : 飲食店レビューサイト「Fondu」(2012年10月)

Fonduは「Yelp」などに似た飲食店のクチコミ投稿サイト。50万ドル以上を調達しており、事業転換の末にこのアイデアに行き着いた。

この買収も人材採用が目的と言われていて買収後にサービスは閉鎖されている。

6社目 : 地域Q&Aサイト「Localmind」(2012年12月)

Localmindは特定の地域に特化したQ&Aコミュニティサービスだ。たとえば「このバーは今日空いている?」と質問を投稿すると、その地域にいるユーザーが回答してくれる仕組みになっている。

Airbnbは2012年12月にLocalmindの技術とチームを買収したことを発表。NabeWiseと同様にNeighborhoodsの強化を通じて、旅行者が観光地で楽しめるようにサポートする目的だと考えられる。現在Localmindは閉鎖している。

7社目 : スケジュール管理アプリ運営「Pencil Labs」(2014年12月)

Pencil Labsはスケジュール管理アプリ「Wyth」を提供していたスタートアップ。Wythはカレンダーとメッセージ機能を搭載していて、日程調整中に場所や時間を提案するなど余計な時間をカットできることが特徴だった。

現在サービスは閉鎖しており、こちらも人材採用を目的とした買収といえるだろう。

8社目 : フライト予約アプリ「Vamo」(2015年9月)

Vamoは航空券の情報を中心に交通手段やホテル情報の検索・予約ができる旅行サイトだ。投資家から160万ドルを調達しサービスの機能拡張を目指していたところで2015年9月にAirbnbに合流。買収の発表と合わせてVamoのサービスも閉鎖している。

Vamoの創業者Ari Steinberg(アリ スタインバーグ)氏はFacebookに約7年エンジニアとして務めた後でVamoを起業した人物。現在もエンジニアマネージャーとしてAirbnbで働いている。

9社目 : ハードウェアスタートアップ「Lapka」(2015年9月)

Lepkaはロシアに拠点を置くハードウェアスタートアップ。スマホと連動して呼吸からアルコール含有量を測定できるデバイスや、自分がいる空間の粒子やイオン、放射線量などを測定できるパーソナル環境モニターなどユニークなデバイスを開発していた。

ただ現時点でAirbnbからガジェットが発売されているわけでもなく、この買収もLepkaの持つ技術力やデザインセンスといった資産を獲得することが目的だと考えられる。

10社目 : ビットコイン決済サービス「ChangeCoin」(2016年4月)

ChangeCoinはTwitterなどのプラットフォーム上でビットコインを活用した少額送金ができるサービス「ChangeTip」を提供していた。Airbnbは2016年4月にChangeCoinを買収するにあたって、開発者の多数を雇い入れたと言われている。

背景にはブロックチェーン活用の可能性が考えられる。たとえばシェアリングエコノミーサービスでは利用者の本人確認がサービスの安全性を保つ上で必要不可欠だが、各サービスごとに本人確認手続きをするのは面倒だ。そこでブロックチェーンを活用することで、サービス間で本人確認情報を共有するという実験は日本でも行われている。

本人確認情報に限らず、各サービスにはレビューなどユーザーごとのデータが蓄積されている。これをサービス間で共有できればさらに安全なプラットフォームを構築できる可能性もあるだろう。

11社目: 体験型アクティビティのプラットフォーム「Trip4real」(2016年9月)

Trip4realは現地の人が企画したツアーやアクティビティを予約できるC2Cのプラットフォーム。2016年9月の買収時点で約4万のユーザーを抱え、1万以上のアクティビティが掲載されていた。報道では買収額は500万ドル〜1,000万ドルほどだと言われている。

Airbnbでは2016年6月からTrip4realのコンセプトに似た「シティホスト」プログラムのテスト版をリリースするなど、宿泊以外の旅行領域にも事業を広げようと目論んでいたフェーズだった。その構想は同年11月に「トリップ」として正式に公開され、Trip4realやシティホストのコンセプトは「Experiences」に継承されている。

12社目 : 富裕層向けAirbnb「Luxury Retreats」(2017年2月)

Luxury Retreatsは高級な別荘や住宅をシェアする富裕層向けのAirbnbだ。買収時点で世界100カ所に4,000件以上の物件を所有しており、コンシェルジュサービスなどと合わせることで何年も黒字を達成していた。それ以前の買収に比べると金額も高く、約3億ドル相当になると報道されている。

Airbnbに買収された後もサービスが継続している唯一の事例で、Luxury Retreatsの物件はAirbnbにも掲載されている。Airbnbで予約できる物件のバラエティ拡大に寄与しているかたちだ。

13社目 : マイクロ決済「Tilt」(2017年2月)

日本でも個人間で気軽に決済や送金できるアプリが話題になっているが、Tiltはその草分け的な存在だ。個人間に加えてグループで利用ができ、複数人に対する請求書の発行から集金までをオンライン上でスムーズに行えることが特徴。過去に6210万ドルを調達しており、買収金額は非公開ながら6億ドルを超えるという報道もあった。

Tiltのサービスは6月で終了していることから、人材採用を目的とした買収である可能性が高い。Tiltのサイトでは「ソーシャルペイメントの経験をAirbnbのエコシステムに組み込んでいく」と書かれている。

14社目 : デベロッパー向けの開発環境を手がける「Deco Software」(2017年5月)

Deco Softwareはモバイルアプリの開発者の負担を減らすことを目的に、React Native用の統合開発環境を開発するスタートアップ。買収前からAirbnbの開発パートナーを務めていた。

2017年5月にチームメンバー5人全員がAirbnbに移る形で買収が完了していることからも、目的は人材採用だといえるだろう。Deco Softwareが開発していたDeco IDEはAirbnbには引き継がず、現在フリーのオープンソースとして提供されている。

15社目 : 身元調査サービス「Trooly」(2017年6月)

Troolyはデータ分析力を強みとしたスタートアップで、公共のデータやソーシャルメディアの情報を解析した結果を様々な企業に提供している。Airbnbも2015年からTroolyと連携し、ユーザーがAirbnbの外で取引する行為など違反行為のチェックを行ってきた。

Troolyを社内に取り込むことで、不正利用をなくし健全なプラットフォームを構築することを目指しているのだろう。

Airbnbの成長に影で貢献した買収企業

買収した15社を見ると富裕層向けのLuxury Retreatsを含めても同業は3社しかなく、大半がAirbnbのサービスには関係のないものだ。実際ほとんどのサービスが買収後に閉鎖されている。一方で「Acqui-hire」と呼ばれる採用を目的とした買収が目立つ。

サービスを眺めているだけでは分かりづらいが、Airbnbは裏側の技術力に強みを持つテクノロジー企業だ。Airbnbのコアとなる決済やレビュー、本人確認システムを始め、様々なツールを独自で開発している。

3人の共同創業者のうち2人がデザイナーということもあり、Airbnbでは当初からプロダクトの設計や使い勝手にはこだわってきた。そのこだわりが同様のツールが存在する中でもAirbnbが飛び抜けた存在になったひとつの要因であり、その裏には買収した企業の人員を含めAirbnbを裏で支える技術者がいたからであろう。

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