2022年ワールドカップ開催予定地カタールの「ドローン&テック」事情

2022年のサッカー・ワールドカップ開催が予定されているカタール。国交断行、招致不正疑惑など混乱状態が続いているようであるが、現時点では予定通りワールドカップは開催される見込みだ。

カタールでのワールドカップ開催まであと4年以上あるが、インフラ整備は現在急ピッチで進められている。そのインフラ整備でドローンが導入され、大活躍しているという。

ドローンが導入されたのはカタールの首都、ドーハ市内に建設されている「Orbital Highway」。片側7車線・両側14車線の巨大ハイウェイだ。

カタールで進むインフラプロジェクト、ドローン導入も


Orbital Highway(HLG Contracting

建設プロジェクトを率いるのは、地元建設大手Qatari Diar Vinci Construction(QDVC)。QDVCから建設デザイン・プロジェクトマネジメントを引き受けたのが、オランダ拠点のArcadisだ。このArcadisが土木測量にドローンを導入し、目覚ましい成果を収めることに成功したという。

Arcadisが使用したのは3DR社のドローンとクラウド分析サービス。ドローンで撮影した写真をクラウドに送信、その写真がクラウド上で分析される。3エーカー(約1万2000平方メートル)の広さでドローンを活用すると約20分で測量を終えることができる。

同じ広さを手動で測量した場合、3時間を要するので、時間・人件費を大幅に削減できることが分かる。さらにはドローンを使った場合、取得できるデータポインが圧倒的に多くなり、測量精度を大幅に上げることができる。3エーカーの場合、手動の測量で取得できるデータポイントは約200。

一方ドローンを活用すると、取得できるデータポイントは150万を超える。このプロジェクトを通じてArcadis はドローンを活用することで、測量スピードを10倍速めることができると結論づけている。

カタールではワールドカップだけでなく、2008年から開始されたイニシアチブ「カタール国家ビジョン2030」の実現に向けてもインフラ整備が進められている。今回のハイウェイプロジェクトでドローンの有効性が証明されたことで、今後もドローンを導入するプロジェクトが増えていくかもしれない。


カタールのインフラプロジェクトで活用される3DRドローン(3DR

カタール、サウジ、中東のドローン / テクノロジー環境

カタールを含め、普段あまり耳にすることのない中東のドローン / テクノロジー事情であるが、注意して見ているとこれから大きな変化が起こる兆候が見えてくる。

ご存知のとおり、中東諸国の多くはこれまで石油に大きく依存する経済構造をつくり上げてきた。しかし近年になり、原油価格の低迷などから「脱石油依存」を掲げる国が多くなっている。

「王族粛清」でその動向に注目が集まるサウジアラビア。この粛清は、サウジ次期国王と目されるムハンマド皇太子が推し進める、脱石油イニシアチブ「サウジビジョン2030」実現に向けて、さらなる足場固めのため抵抗勢力を排除する動きとの見方が有力だ。

「サウジビジョン2030」では、ヘルスケア、教育、インフラ、観光など同国産業の多様化を目指し、石油に依存しない経済を生み出すことを目指している。具体的な数値目標も掲げられており、たとえば、国連が発表している「電子政府ランキング」で5位にランクイン(2016年は44位)する、GDPに対する海外直接投資比率を5.7%に高める(現在3.8%)などがある。デジタルインフラやスタートアップインキュベーション環境の整備も進んでいるようだ。

フォーブス誌が2016年に発表した「もっとも期待できるサウジスタートアップ50社」ランキングに、ドローン企業がランクインしていたことも興味深い。

カタールもサウジ同様に産業の多様化を目指している。そのなかでもITテクノロジーを軸にした「ナレッジベース経済」を創出しようとする試みは注目に値するだろう。カタールの人口は260万人ほどしかいない(サウジは約3300万人)。

石油依存から脱却する一方で、持続可能な経済基盤を構築しようとした場合、人口規模から考えるとシンガポール(人口約600万人)やエストニア(人口約130万人)がロールモデルになるのではないだろうか。小国ながら世界経済における重要ポジションを確立したこれらの国々では、「人」への投資が重要視されている。カタールでも教育やナレッジ共有のためのコミュニティやプラットフォームが登場している。

イノベーションコミュニティ「カタール・サイエンス・テクノロジー・パーク」、情報共有・電子政府ポータル「HUKOOMI」などはその好例だ。またスタートアップ育成環境も整備されてきておりDynasoarやn-Gonといった地元ドローンスタートアップが立ち上がっている。

中東というとテロや政治的混乱などでニュースになることが多いが、サウジやカタールが示すようにドローンやイノベーション、そしてテクノロジーといった切り口で見てみるとおもしろい発見があるかもしれない。

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