ITは人の健康、医療をも変えていく。

今、サンフランシスコのヘルスケアスタートアップ「Forward」が注目を集めている。

2017年1月、サンフランシスコにオープンしたForwardのクリニックは、病気になってから治療する対処療法よりも、病気の予防を重視しているのが特徴だ。それをサポートするのは訓練された医師、リアルタイム血液検査、遺伝子スクリーニング、センサー、機械学習といった最先端技術。

患者は月額149ドルで契約し、提供されるウェアラブルデバイスや様々な検査とともに、医師と相談の上パーソナライズされた計画を立て、健康増進に取り組んでいくという。データにはいつでもアクセスでき、医師や看護師とのコンタクトも常時行える。

移動型の最先端医療サービス「トレーラークリニック」

そんなForwardが次に乗り出したのが、移動式のクリニックだ。

近年、医療分野では通院困難者や高齢者、または僻地・離島などでも診療が受けやすくなるような取り組みが模索されている。

インターネットを活用した遠隔医療、ライド・シェアリングサービスと連携した医療機関への送迎、医師が自ら定期的に患者のもとへ出向く訪問診療もある。

しかし、Forwardがこの度始めた「最先端技術を搭載した病院そのものが移動する」というトレーラークリニックは、ありそうでなかった試みだといえよう。

同社は2017年夏にトレーラークリニックを公開。血液検査と遺伝子検査をのぞき、サンフランシスコに構えるクリニックとほぼ同じサービスを提供する。医師も帯同しているため検査結果に基づいた専門的アドバイスを受けることもできるという。

トレーラークリニックはForward会員向けに提供されているが、会員以外も利用可能だ。訪問した非会員はボディースキャンのみができ、その状況を画面で確認できる。引き続きサービスを利用したいと考えれば、正規の会員料金である月額149ドルから割引された99ドルで登録できる。

このシステムから見るに、長期的には移動困難者や過疎地でのサービス提供と同時に、新規会員獲得のためのタッチポイント増加やプロモーションの役割も担っていることが推測される。

トライアルの結果によって、同社は今後さまざまな都市にこのトレーラークリニックを展開する予定だという。

GoogleとUberの遺伝子が、次の医療を作る?

Forwardの創業者でありCEOのAdrian Aoun氏は自身のスタートアップをGoogleに売却し、その親会社であるAlphabetの都市生活改善チーム「Sidewalk Labs」の創設者でもある人物だ。共同創業者のIlya Abyzov氏は、Uberの初期メンバーであり、一般ドライバーと乗客をマッチングする“白タク2.0”とも言えるUberXを立ち上げた人物である。

「Sidewalk Labs」は、スマートシティの実現のため、テクノロジーを通して都市のイノベーションを設計、テストして構築する企業だ。ニューヨーク市の副市長だったダニエル・L・ドクトロフがCEOを務めている。

同社はシェアリングエコノミーやIoT等を駆使し、交通機関の最適化やエネルギー問題への取り組み、行政の運営を支援することを目的としている。都市への新たなアプローチとして、このForwardのトレーラークリニックを捉えることもできそうだ。

同社は現在、6人の医師を含む80人の従業員を抱えている小さな規模の企業だ。だが、彼らが所属していたGoogleとUberは、ビッグデータやテクノロジー、モバイルを組み合わせることで、調べ物からオフィスワーク、交通やデリバリーまでも変えてきた。

彼らが辿った道筋を思えば、ForwardがかつてのAppleやGoogleのように医療を変えていく可能性は十分に考えられるだろう。

img : Forward, Twitter,