先日、ブルーボトルコーヒーを取材した際に「ブルーボトルはなぜ“体験“を大切にするのか」と問いかけると、次のように答えてくれた

「世の中が便利になり、効率化が進む中で、『カフェ』という空間が提供できる価値は何か。それは『体験』だと考えています。(中略)未来にも残り続けるブランドであるために、ブルーボトルコーヒーは空間にもこだわり、『体験』を提供していきます」

ブランドがリアルの場で提供するべき価値は“体験“だ。このようなメッセージはカフェや小売を筆頭に、様々な場所で耳にする。

テクノロジー企業も、自社のプロダクトや、扱う製品を体験できる場を提供し始めている。

メルカリはメルカリの世界観を伝え、サービスをより身近に感じてもらうためのポップアップストアを展開。Amazonは銀座に期間限定で「Amazon Bar」をオープン。Amazonで買うことができる豊富なお酒の品揃えを伝え、Amazonでお酒の購入を促すことが狙いだ。

体験することで、プロダクトをより深く理解してもらい、ブランドのファンを増やしていく。このような取組が増えつつある中で、インターネット業界の巨人Googleも新たな体験の場の提供に乗り出した。

スマートスピーカー市場でも激戦を繰り広げるGoogleとAmazon

Googleが手がける、Googleアシスタント搭載のスマートスピーカー「Google Home」の小型版として、「Google Home Mini」が2017年10月に発売された。

Google Homeの上陸と共に、「Google Home Mini」も日本に上陸。通常のGoogle Homeの価格が1万4000円(税別)なのに対し、Google Home Miniは6000円(税別)と、かなりお手頃な価格での提供だ。

それに続くように、2017年11月には「Amazon Echo」の日本上陸が発表された。GoogleとAmazonに先駆けて、LINEは日本市場にスマートスピーカー「Clova WAVE」を投入している。日本でもスマートスピーカーの競争が表面化し始めているようだ。

世界では、AmazonがAmazon Echoの小型版「Amazon Echo Dot」をリリースし、スマートスピーカーの売上を伸ばした。2016年の第4四半期には、Google Homeの販売台数はAmazon Echo Dotに辛うじて勝っていたが、2017年第1四半期には追い抜かれている

Googleも負けじと低価格帯のスマートスピーカーを提供することで、普及に向けて拍車をかける。そんなGoogle Home Miniをプロモーションするために、Googleはユニークな施策を打ち出した。

Googleがオープンする「ドーナツショップ」とは?

Googleは「Google Home Mini Donut Shop」をオープンした。各店舗は期間限定のポップアップストアで、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴなどの全米11都市を順番にまわっていく。

「ドーナッツ」を扱うのは、Google Home Miniとドーナッツが同サイズということに起因しているらしい。一般的なドーナッツを思い浮かべれば、Google Home Miniがいかに小さいかが想像しやすい。

店舗を訪れたユーザーは、用意された定型文を用いてGoogle Home Miniに話しかけると、店舗内にあるコンベアベルトが箱を運んできてくれる。その箱は、開けてからのお楽しみだ。多くの場合はドーナッツが入っているが、稀にGoogle Home Miniが入っているという。

同店舗にはSprinke Boothも併設されており、紙吹雪のシャワーを浴びながら踊ることができる。

Googleのドーナツショップが日本に上陸!

Google Home Miniのコーラルカラーを採用。ひときわ目を引く建物であった

そんなGoogleによるドーナツショップが、日本にも上陸した。11月8日から11月13日までの期間限定で、ZeroBase表参道に「Google Home Mini ドーナツショップ」がオープンした。

11月8日のオープンと同時に足を運んでみると、既に20~30人程度の行列ができていた。並んでいる方も、若い方から年配の方まで幅広い。表参道を歩いている中で偶然立ち寄り、並んでみたという方も多い印象だった。

実際にブースに入ってみると、そこにはコーラルカラーのGoogle Home Miniが置いてあった。ドーナッツサイズということもあり、手のひらにすっぽりと収まりそうな大きさだ。

ブースには「OK Google, 今日の天気は?」や「OK Google, 今日の●●座の運勢は?」のように、話しかけるための定型文が12種類用意されている。その中からどれかひとつのフレーズを選び、Google Home Miniに話しかけると、適切な答えを返してくれる。

Google Home Miniが答えている間に、左側にあるレーンから箱が出てくる。日本でもドーナッツか、稀にGoogle Home Miniが入っているとのこと。残念ながらGoogle Home Miniは当たらず、ドーナッツを美味しくいただいた。

各メディアへの露出や、来場者のInstagramやTwitterなどのソーシャルメディアでの拡散を考えると、効果的なプロモーション方法のように思える。筆者のソーシャルメディアのタイムラインにも、何人かがドーナツショップに来たことをポストしていた。

「体験」がスマートスピーカー普及のカギを握る?

Googleがリアル店舗をオープンしてプロモーションに取り組む背景には、スマートスピーカー自体の認知向上や、実際に体験してもらう狙いがあると考えられる。

日本市場へのスマートスピーカーの投入はここ数ヶ月の出来事だ。11月8日にはAmazon Echoの販売開始が発表され、遂にLINE、Google、Amazonの3社のスマートスピーカーが揃うことになる。

当然ながら日本におけるスマートスピーカーの認知度はまだ高くない。MMD研究所の調査によれば、その認知度は31.2%と報告されている

スマートスピーカーのように一般家庭で使われるデバイスは、老若男女問わず、その存在を認知してもらうことが大切だ。インターネットでのプロモーションという手段では、リーチできる層に限界がある。地道にアメリカ全土をまわり、ポップアップストアを展開していくことは新しいチャネルを開拓するという意味で有効ではないだろうか。

また、百聞は一見にしかずという古くからの諺があるように、「知る」と「体験する」には大きな隔たりがあるように感じられる。Googleも「OK Google」と話しかけて、Google アシスタントとコミュニケーションをとるCMを打っているが、機械に話しかけるという体験自体が、まだ新しいものだ。

実際に体験することで、スマートスピーカーと対話することがどのようなものかを感覚的に理解できる。ポップアップショップにて、まずは「OK,Google」と話しかけ、体験してもらうことが、購入のハードルを下げるためには大切ではないだろうか。

テクノロジー企業のプロモーション施策の一つとして、ポップアップショップを展開する手法は徐々に浸透してきたように思える。「体験の提供」と一言で表現するには惜しいユニークな取り組みが今後も増えていくのだろうか。

img : Google Home Mini Donut Shop