アマゾン、フェイスブックが「10代」にアプローチ、次世代市場でデジタル戦開始

アマゾンがティーン市場に本格参入(アマゾンの新サービスサイトより)

アマゾンは10月11日、13~17歳のティーンエイジャーが直接買い物できるサービスを開始した。これに引き続き、5日後にはフェイスブックが高校生に大人気のアプリケーション「tbh」の買収を発表。ITジャイアントとされる2社が相次いで次世代市場に本格参入したことで、同市場の重要性がクローズアップされる。

アマゾンアプリでティーンエイジャーにもアカウント、プライム会員にも巻き込む

アマゾンの新サービスでは、13~17歳のティーンエイジャーがスマートフォン(スマホ)のアプリでアカウントを作成し、家族で管理しているアカウントにログインすることで、商品を購入できるようになった。

両親は子どもが商品を買う際にテキストメッセージやメールで知らせを受け、商品の詳細やコスト、配送先、支払い情報などをチェックし、承認またはキャンセルするというシステムだ。この承認プロセスを省き、事前に子どもの購入限度額などを設定することも可能。ティーンエイジャーが自由に買い物できる場を提供しながらも、最終的には親も関与できるようになっている。

さらに、同サービスに登録すると、親がプライム会員になっている場合、子どもも「プライムビデオ」や「ツイッチプライム」などのサービスを追加料金なしに利用できるという。

アマゾン・ハウスホールズのヴァイス・プレジデント、マイケル・カー氏は新サービスの発表にあたり、

「自分もティーンエイジャーの親なので、彼らが独立を強く望んでいるのが分かるが、同時に利便性や、親が望む信頼とのバランスを取らなければならない。家族の要望を聞いた上で、ティーンエイジャーと親の双方にとってすばらしい体験を作り出した」

と述べている。


子どものオーダーはメールやテキストメッセージで送られてくる。最終的には親の承認が必要(アマゾンのプロモーションビデオより)

産業情報メディアの「Retail Dive」によると、アマゾンの狙いはティーンエイジャーを早いうちから取り込み、ロイヤルティを確立すること。特にアマゾンの上客であるプライム会員への取り込みで、生涯にわたるロイヤルティを見込んでいると分析している。消費者情報「リサーチパートナーズ」によると、プライム会員の年間平均購入額は1300ドルで、非会員の700ドルの約2倍という。

米投資会社「パイパー・ジェフリー」が米44州のティーンエイジャー6100人を対象に行った調査では、今年秋、「一番お気に入りのショッピングサイト」として、アマゾンが49%で首位となり、2位のナイキ(6%)を大きく引き離した。ティーンエイジャー向けの新サービスにより、ティーン市場でのアマゾンの地位が一段と強化されることが予想される。

フェイスブックは「tbh」買収、ティーン市場をテコ入れ

アマゾンに続いて10月16日には、フェイスブックがティーンエイジャー向けの携帯電話アプリケーション「tbh」の買収を発表した。「tbh」は「to be honest(正直言って)」を意味しており、ユーザーは「最も~なのは誰?」という質問に匿名で友達に投票して盛り上がるというもの。

例えば「一番パーティに連れて行きたい人は誰?」「いちばん笑顔が素敵なのは誰?」といった質問に4人の候補者名とともに投稿すると、友達が匿名で投票する。投稿も匿名だが、ポジティブな投稿しかできないのがルールとなっている。


高校生に人気のアプリ「tbh」。「一番笑わせてくれるのは誰?」といった質問に4人の候補者から匿名で友達を選んで盛り上がる(tbhのホームページより)

米カリフォルニア州オークランドに拠点を置くtbhは、2017年8月に創業したばかり。アプリはこれまでのところアメリカの一部の州で、iOSのみの対応であるにも関わらず、わずか2カ月ほどの間に500万人のユーザーを獲得した。高校生を中心にティーンエイジャーの間で絶大な人気を誇り、過去何週にもわたって無料アプリの中でダウンロード数トップを維持した。

tbhの成功のカギは、「人びとをポジティブな交流で結びつけた」という点にある。フェイスブックやインスタグラムなどのSNSでは、「いいね!」の獲得競争になったり、ライフスタイルの自慢合戦になってしまう傾向があり、「本物のつながり」とは言えない側面もあるが、tbhはポジティブな共感を生み出すのに成功しているという。

tbh買収にあたりフェイスブックは、「tbhとフェイスブックはコミュニティを作り、人びとがもっと近づけるようなシェアを可能にするという共通の目標を持っている。われわれは、tbhが投票とメッセージでこれを実現しているのに感銘を受けた」と説明。一方のtbhは、「フェイスブックがわれわれのビジョンを実現し、より多くの人びとにアクセスするのを助けてくれる」と期待感を示している。

パイパー・ジェフリーの調査によると、ティーンエイジャーの「一番お気に入りのSNS」はスナップチャットが47%で首位。その後にインスタグラム(24%)、フェイスブック(9%)が続いている。

デジタルマーケティングの市場調査大手「Emarketer」は、若いフェイスブックユーザーがインスタグラムやスナップチャットに流れていることを指摘。12~17歳のフェイスブックユーザーは、2017年通年で3%減少すると予想している。

今回フェイスブックが創業したばかりのtbhを異例の速さで買収した背景には、次世代市場でシェアを奪われている危機感の表れと見ることもできるだろう。

消費パワーに台頭するZ世代

アマゾンやフェイスブックが次のターゲットして選んだティーンエイジャーは、「ジェネレーションZ(Z世代)」と呼ばれ、ミレニアルに次いで消費パワーとして台頭してきた世代として注目されている。1990年代半ば以降に生まれた彼らは、生まれたときからインターネットがある「真のデジタル・ネイティブ」と言われており、彼らの生活には常にスマホやコンピュータ、オンラインゲームがある。

ニールセンによると、メディア・オーディエンスに占めるZ世代の割合は26%と、世代間ですでに最大勢力に成長しているという。また、バンク・オブ・アメリカが2017年8月に行った調査では、Z世代の5人に4人が「スマホがインターネットに接続されているなら、テレビをあきらめてもいい」と回答したほか、約30%のZ世代が「お金や友だちを捨ててもスマホをキープしたい」とまで答えているという。


Z世代は真のデジタルネイティブ。生活にスマホが欠かせない(筆者撮影)

コンサルティング会社アーンスト・アンド・ヤングによると、彼らは問題に直面したときも、誰かに質問するのではなく、常にオンラインで答えを探し出すし、リアルライフよりデジタルを通じたコミュニケーションの方を好む傾向にある。また、その性格は自意識が強く、自立的でイノベーティブ。彼らの購買力は米国で440億ドルに達したと言われており、新たな市場として脚光を浴び始めている。

大手IT企業に限らず、Z世代へのアプローチはさまざまな企業の間ですでに始まっている。例えば、あるファーストフードチェーンはティーン市場をメインターゲットと想定したアプリを開発。アプリでオーダーと会計を済ませられるもので、従来のメニューセットにはない独自のメニュー組み合わせを可能にした。

この取り組みは自分でイニシアティブを取りたがるZ世代の心を掴み、彼らは自分で作りだしたコンビ・メニューを「HacktheMenu.com」などのサイトでシェアするという行動に出た。これにより、同チェーンのオンラインオーダーは、従来のカウンターでのオーダーを20%上回ったという。

また、あるフードデリバリー・チェーンは、オンラインオーダーのプロセスを5回のクリックでできるように簡略化し、オーダー完了後はスナックを追跡できるシステムを追加した。これによりオーダーしてからスナックを受け取るまでのプロセスが透明化され、待ち時間のイライラを解消。Z世代の信頼を勝ち取ることに成功している。

アマゾンやフェイスブックが本格的にZ世代市場に乗り出したことから、今後は同市場での競争がさらに激化することが予想される。スマホを中心としたティーンエイジャーのデジタルライフの中に、いかに自社製品やサービスを合わせていけるか、マーケッターにその力量が問われている。

img : tbh , Amazon

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