仕事が忙しくて、毎日の食事はついつい手を抜きがち。
それでもたまには、美味しいものを自宅で作りたい。
ちょっぴり自慢できるような一皿を作りたい。
そんな人の欲求を叶えてくれる新たなサービスジャンルが、「ミールキット」だ。
競合ひしめくミールキット市場では、差別化が進む
ミールキットとは、すぐに調理ができるよう、レシピに合わせて必要な分量の食材と調味料が届くサービスの種類。レシピに従って調理をすれば、自宅でもレストラン並みの食事を簡単に楽しむことができる。
食品市場リサーチ会社Packaged Factsによると、アメリカのミールキット宅配市場は、2016年に約20億ドルの売上高を記録したと推計されており、5年後には数十億ドル規模の市場に成長すると見込まれている。
アメリカのミールキット宅配サービスの最大手がBlue Apronだ。同社は、数百種類のレシピを公開しており、その中から気に入ったレシピがあれば、食材とレシピを注文することができる。
レシピは、ウェブサイトからも確認することができ、調理方法の説明に、テキストだけではなく動画も活用している。契約農家から直接仕入れたこわだりの食材を使っていることから、健康志向の消費者に人気だ。2012年の創業以来、1億5900万食以上を宅配している。
Amazonによる生鮮食品配達サービス「AmazonFresh」もミールキットの取り扱いを開始した。同サイトには、元カリスマ主婦のMartha Stewart(マーサ・ステュワート)氏とミールキットのMarley Spoonがコラボレーションした「Martha&Marley Spoon」などが掲載されている。
これらのサービスに追随するように、世界中で類似サービスが数多く登場している。アメリカには「Plated」、ヨーロッパには「Hello Fresh」、カナダには「Chefs Plate」というサービスがある。Blue Apronはアメリカ国内でのみサービスを提供しているため、直接の競合関係にはない。
様々なプレイヤーが登場するに連れて、各社間の差別化も進んでいるように思える。スーパーモデルやプロスポーツ選手、セレブなどがプロデュースしたミールキットも登場している。「22 Days Nutrition」というビーガン専用のミールキットでは、Jay ZとBeyoncéがプロデュースしたミールキットが提供された。
大手企業の参入も進む、日本のミールキット市場
日本でも、ミールキット関連サービスが登場している。「kit Oisix」は主菜と副菜が20分で作れるレシピが特徴的で、賞味期限の長いフローズンタイプも用意。忙しい人でも簡単に毎日の食事を作れるようにしてくれるサービスだ。
ミールキットが日本でも注目されている背景には、共働きの世帯の増加がある。共働き世帯数は2016年で1129万世帯と、10年前に比べて16%増えた。帰宅後、夕食の調理で手間をかけたくない家庭が多いのだろう。
「Kit Oisix」のようなサービスは、自然派志向が強く、鮮度の高い食材を求めている一方、買い物や料理の時間が十分に取れないユーザーのニーズを満たしているわけだ。夕食のメニューを考える時間や買い物の手間を省けるのもいい。外食することを考えればリーズナブルな値段で、家族構成に合わせた注文ができるのも魅力だろう。
一方で、「Tasty Table」や「Chefy」は、毎週末にミールキットが配達される仕組みだ。これらのサービスは、日常利用ではなく、休日に料理を趣味的に楽しむ消費者のニーズを満たしていると考えられる。
ミールキットは、健康的で美味しいだけではなく、料理の見栄えもいい。Instagramにミールキットで作った料理を投稿しているユーザーも多い。ハッシュタグ「#tastytable」で検索すると2,400件以上の投稿があり、「手抜きだけど美味しいごはん」などといったコメントが寄せられている。
手間をかけたくないが、ハレの空間を彩るような料理をつくりたい。あわよくば、それをInstagramにポストしたい。そんなユーザーの欲求に応えているのが、Tasty TableやChefyだろう。
ミールキットは、ユーザーの様々な欲求に応えてくれる。忙しく働くビジネスパーソンが平日に利用するものがあれば、休日に趣味的に料理を楽しむためのものもある。
日本には上陸していないが、アメリカにはハリウッドセレブやスポーツ選手のライフスタイルを真似たいという欲求に応えたミールキットも存在する。市場が成長していくに連れて、日本でも多様な楽しみ方ができるミールキットが登場していくだろう。
Img : Tasty Table, Kit Oisix,