ロンドンの空き屋問題を組み立て式の「小屋」が解決!都市の住宅価格高騰に効くアイデアとは?

近年、住宅機能がコンパクトに収まった住居、“タイニーハウス”を選ぶ人々が米国を中心に少しずつ広がりをみせている。

米国における平均的な住居が241平方メートルなのに対し、タイニーハウスは9.2平方メートルから37平方メートル。小さな住居をゼロからDIYで作る人もいるという。

ミニマリスト的な価値観やDIY文化と結びついたムーブメントは、経済的な理由だけでなく、より良いライフスタイルを求める人々からも支持を得ている

タイニーハウスに移り住んだ建築者Andrew Morrison氏は、住宅ローンから解放され、「より良い人生を追求するための自由と時間が手に入った」と魅力を語った。

新しいムーブメントの裏にある、都市の住宅価格問題

新たな住居のあり方を探るムーブメントの背景には、住宅価格の高騰という切実な課題もある。IMFの「Global Housing Watch」によると、世界の住宅価格はピーク時の2007年以降の下落を経て、同等の水準まで回復を遂げている。

さらにIMFは近年の住宅価格の高騰について、場所による差が激しい点を指摘。調査の対象となった57ヶ国の間でも差があり、各国内でも特定の都市において著しい高騰が起きているのだという。

例えば、米国のポートランドは2010年以降、クリエイティブな職につき、ライフスタイルにも独自のこだわりを持つ“ヒップスター”の街として発展を遂げてきた。ポートランドに集うユニークで魅力的な若者たちをユーモラスに描くドラマ『Portlandia』も放映され、独自の文化を持つ都市としてその名を轟かせた。

移住を希望する人が増えるにつれ、ポートランドの住宅価格は他都市を凌ぐ勢いで高騰を続けている。数年前にアルバイトで暮らしていた人も今ではフルタイムの職を得なければ生活が成り立たないという

ポートランド在住の音楽家の女性は「住居を確保するために必死で働く必要がなく、自分の仕事を作る自由のあったポートランドは過去のものだ」と街の変化を語る

Oregon Office of Economic Analysisの調査によると、現在ポートランドに移住する若者の多くは、科学や技術、工学、数学分野で高い水準の教育を受けた人々だという。

彼らのようなエリート層の移住が増えると、いずれ地元の低所得者層だけでなく、街の文化を作り出した初期の移住者達の生活も圧迫され、土地を去らざるを得なくなる。この“ジェントリフィケーション”と呼ばれる現象は、ポートランドのみならず米国のブルックリンやドイツのベルリンでも起こっている。

都市研究の著名な研究家Richard Florida氏は2002年に発表した著書『クリエイティブ・クラスの世紀』の中で、専門性のある職能に従事し、「意義のある新しい形態を作り出す」人をクリエイティブ・クラスと位置づけている。彼はいかにこうした人材を惹きつけるかが都市の盛衰を左右すると指摘していた。

彼の指摘通り、ポートランドやブルックリン、ベルリンはクリエイティブ・クラスを惹きつけ繁栄を遂げた。しかし、その繁栄はいずれ安定した収入を持つ高所得者層のみが享受するものになってしまった現状もある。Florida氏自身も近年の著書では、ジェントリフィケーションが経済的格差の広がりを助長している点を認めている

空き物件に小屋を建て、ロンドンに若き才能を集める

都市の繁栄には、新たな挑戦を志すクリエイティブ・クラスの若者を継続的に惹きつける必要がある。その一つの手段として手頃な住宅の提供を行なうプロジェクト「SHED project」がロンドンで進行中だ。

「SHED project」は、若いビジネスパーソンを対象に一時的な住居を提供する取り組み。彼らは市内にある空き物件に着目し、建物内に一風変わった組み立て式の小屋を設置する。対象となるのは商業用の倉庫やオフィスビルが中心だという。

英国のシンクタンク「Policy Exchange」の調査によると、ロンドン市内では全く使われていない商業施設の広さは、およそ500万平方キロメートル(サッカーのグラウンドが750個分)に上るという。高い家賃と住宅不足で知られるロンドンだが、政府が予算をかけて住宅にリノベーションすれば、42万戸の住宅を確保できると発表している。

環境に優しい建築物を手がける「Studio Bark」と共同製作した小屋は、分解して繰り返し使用でき、廃材がほとんど発生しない。組み立てるのにかかる時間はたった一日。用いられる建築材料も、低価格かつ環境への影響を最小限に抑えたものが中心だという。

SHED projectを率いるTim Lowe氏は自身がロンドンで住居探しに苦労した経験から、本プロジェクトを開始するに至った。近年、若いビジネスパーソン達は「従来よりもペースが速く流動性の高い」社会を生きていると指摘し、一日の終わりに一息つけるプライベートな場所を確保したいと展望を述べている

Lowe氏は環境にも優しい住居にこだわり、手頃かつクリエイティブな方法で都市のスペースを活用しようと試みたという。都市を活気づける若き才能を惹きつけるには、安価な住居を確保するだけでなく、よりクリエイティブな解決法を提示できるかが鍵になるのかもしれない。

街のスペースが限られて家賃が高い点は、ロンドンも東京も同じだ。都内の空き家率は2013年時点で11.1%にも達しているという。今後も増えるであろう空きスペースをどのように活用していくのか。魅力的な都市として発展を続けるために、従来にない手法で住居を用意する取り組みが求められていくだろう。

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