自転車、電動バイク、両者をかけ合わせたアシスト走行を実現する折り畳み式電動ハイブリッドバイク「glafit(グラフィット)バイク」。「人々の移動をもっと便利で、快適で、楽しいものにする」というビジョンのもとにつくられたガジェットが、1億2800万4810円という、国内クラウドファンディングによる支援金史上最高額を達成した。
開発チームを和歌山県に置き、地方からのイノベーションによって事業を成功へと導いたのは、glafit株式会社のCEO・鳴海禎造氏の計算された戦略と信念によるものだった。
- 鳴海 禎造 (なるみ ていぞう)
glafit(株) 代表取締役/(株)FINE TRADING JAPAN 代表取締役/和歌山電力(株) 取締役
「なぜ今回のプロジェクトが成功したのか……。僕は『トレンド4乗』と呼んでいますが、EVバイク×自転車×クラウドファンディング×地方というのがキーワードです。いわゆる、事業や会社ビジネスモデルのライフサイクルは創業、成長、成熟、衰退というフローを辿ります。そこで結局、成長期が1番すごい伸び方をするわけですよね。
現状、『EV』と『電動アシスト自転車』は年々需要が伸びてきています。『クラウドファンディング』も今年は伸び率が200%を超えてるらしいですが、うなぎ登りですよね。『地方』はというと、言うまでもなく、“地方創生”というワードが飛び交っている。つまり、それだけのトレンドが全部掛け合わさっているんですよ。
商売の成功ってシンプルに考えると、消費の力と、それを売る販売力。販売力とは『伝える力』で、つまり『発信力』と考えたときに、4つの大きなトレンドが入っている。これでヒットしないはずがないのかな、と考えました」
さらにクラウドファンディングを選ぶ際には、集客力と提案力を兼ね備えた「マクアケ」を選択。運営会社のサイバーエージェントが企業マッチングまでしてくれるところが魅力だと言う。
人生の転換期に出会った一冊の本
しかし、意外なことに人気の「glafit」について、鳴海氏はこれ以上の販売について一旦のオーダーストップという判断を下した。
「もっともっと売れるんですが、もう止めました。ご存知かもしれませんが、オートバックスさんと業務提携して、全国の店舗で買えるようにしたんです。8月の頭で1000台が埋まり、毎日10件ぐらい問い合わせが来ていますが、『それは全部オートバックスさんでお願いします。お待ちください』ということに。マクアケさんとも話して一旦このくらいにしましょう、と」
単純に考えると、多くの台数が売れれば、それだけ会社の利益も増える。利益を追求しない考えなのか、その真意をたずねると、鳴海氏はこう答えてくれた。
「2011年、ある本に出会ったんです。大久保(秀夫)さんという日本のベンチャーの第一人者が書かれた本で、1980年に25歳でたった1人で資本金もなしに“打倒NTT”という旗を挙げた人。20代のころの孫正義さんとタッグを組み、電話やインターネットの自由化を果たしました。この本に感銘を受けて、僕は大久保さんに弟子入りしたんです。今は東証1部上場の『フォーバル』という会社の創業会長をされており、30個くらい会社を所有しています。
どんなに凄いことを教えてくれるのかと言う淡い期待があったんですけれども、実は最初の1年で習ったことってほぼ二つか三つくらい。その一つが“ビジョンを持て”ということでした。単なるビジョンではなく『100年ビジョン』だと。六本木ヒルズに入りたいとか、そんなビジョンではダメだし、“社会性”というものを軸に置いて、“独自性”があり、”経済合理性”がある。しかも、100年経って自分がいなくなった後も、会社としてそこを目指すようなの志のあるビジョンを持て、と。
それから初めて真剣に考えて、自分たちは“乗り物”という業界で世界中に向けて発信していけるような存在になりたい。そのためにどうすればいいかと考えたんです」
glafitが目指す100年先の未来とは?
つまり、今回のプロジェクトは「glafit」という存在を世の中に発信することが目的だった、と鳴海氏は続ける。
「僕が一貫して大事だと言いたいのは社会性→独自性→経済合理性、この順番で考えることに尽きると思います。その事業にまず『社会性』があるか、というところが1つ。次に競合他社があるのかどうか。1社2社ぐらいだったらいいかもしれない、もしくは競合でもどこか違うという部分があればいいんです。つまり『独自性』ですね。それを持てるかということ。
すると次は、事業を継続させるためにマネタイズできるか、つまり『経済合理性』を何で担保するのかという問題になってきます。この順番が大事で、ほとんどの人は“これ儲かるかなぁ、儲からないかなあ”という『経済性』が先にくるんですよ。経済性がきて、次に他でやってないという『独自性』がきて、最後に社会的にこれオーケーだよねという『社会性』の順番になることが多い。自分も20代のころはそう考えていました。
しかし、これだとスタートが“儲かる儲からないか”という設計なので、儲からなくなるとすぐに辞めちゃうんです。儲からなくなったら人を切って利益を守ろうかとか、商品の品質を落として利益を守ろうという方向に行くんですね。『社会性』から始めると、なんとかして利益を成り立たせるためにはどうすればいいのか、と考える。だから、この思考の順番がすごく大事だと思います」
鳴海氏の言う「100年ビジョン」、glafitはどこを目指すのか。
「今の自動車メーカーって戦後、自転車にエンジンをつけた自転車バイクから全部スタートしてるんですよ。『人々の移動をもっと便利で、快適で、楽しいものにする』をモットーに、僕らは乗り物メーカーとして“21世紀のホンダ”を目指します」
photograph:taguchi yousuke