親世代とは異なる価値観を持ち、モノではなく体験に価値を見出すといわれるミレニアル・Z世代。この次世代層が求めるものは、これまでにない斬新で刺激ある体験といえる。
そんなミレニアル・Z世代の好奇心をくすぐるものの1つが「ドローンレース」だ。欧米では大手スポンサーが付き、大手放送局がライブ中継するなど、年々規模と視聴者数が拡大する注目の未来スポーツとして捉えられている。日本でも少しずつではあるが着実に広がりを見せている。
今回は、この未来スポーツ「ドローンレース」がミレニアル・Z世代を魅了する理由を探るとともに、市場としてどれほどの可能性を秘めているのか考察してみたい。
2015年頃から注目され始めた「ドローンレース」
「ドローンレース」が注目され始めたのは2014年末頃。フランスのラジコンコミュニティがYouTubeにアップロードした動画が話題となり、それがきっかけで徐々に世界中でユーザー数を増やしていったといわれている。
2014年末頃、YouTubeで話題となったドローンレース動画
当初はコアなラジコンコミュニティの間で広がっていったが、その斬新さからエクストリームスポーツファンやストリートカルチャー系のひとびとが参入し裾野を広げていった。この間に The New York Times 紙などの大手メディアに取り上げられ、2015年末頃にはYouTube動画で多いものであれば数十万〜100万ビュー以上の視聴数を稼ぐほどの注目度となっていった。
2014年末頃から増えだした「ドローンレース」検索(グーグルトレンドより)
そんななか2016年3月にドバイで賞金総額・参加人数ともに最大規模となるドローンレース世界大会が開催され、BBC、ブルームバーグなどが大々的に報じたため、さらに注目度が高まることになる。100万ドルという賞金総額だけでなく、優勝したのが当時15歳の英国の少年であったことが一般層の関心を引いた。
ドバイ・ドローンレースにて実況解説するBBCレポーター(筆者撮影)
この少年ルーク・バニスターさんの活躍が世界中のメディアで紹介されたことが、ドローンレースのその後のデモグラフィーに大きな影響を与えたといっていいかもしれない。バニスターさんがドローンレースを始めたのはドバイ大会の1年ほど前。
約1年で世界チャンピオンになったストーリーは多くの10代、20代に刺激を与え、ドローンレースへの参戦を促したはずだ。ドローンレースが新しいスポーツであり、斬新さと刺激を求める若い世代に刺さったとしても不思議ではないだろう。現在活躍するドローンレース・パイロットのほとんどが10代、20代である。
ドバイ・ドローンレース世界大会優勝者ルーク・バニスターさん(筆者撮影)
シャンゼリゼ通りでも、拡大するドローンレースイベント
ドバイ大会を前後して、欧米を中心にドローンレースを、スポーツとして、そしてビジネスとしてより本格化する動きが加速している。
米国ではレース運営団体ドローン・レーシング・リーグ(DRL)やDR1が発足。DRLは、2016年1月に800万ドルを、2017年6月に2000万ドルを調達。ウォルトディズニー傘下のスポーツ専門チャンネルESPNと提携し、シリーズ化したレースイベントを放映するなどしている。
最近では世界有数の保険会社アリアンツを冠スポンサーとしたチャンピオンシリーズ開始したり、アマゾン・プライム・ビデオと提携したりと、ドローンレースの認知向上に向けた取り組みを加速させている。
一方、別のレース運営団体DR1もDHLを冠スポンサーとしたチャンピオンシリーズを開始。CBSやFOXなど大手メディアでの放映を計画している。レースの模様は100カ国以上で放映される予定だ。
欧州ではドローン・チャンピオンズ・リーグ(DCL)が発足。オーストリアの遺跡やフランス・シャンゼリゼ通りなど欧州における象徴的な場所でレース大会を催し注目を浴びている。
これら最近のレースイベントを見ているとやはり10代、20代の活躍が目覚ましい。
フランス・シャンゼリゼ通りで開催されたDCLドローンレース大会
デジタル空間への融合がミレニアル・Z世代の参入をさらに促す?
少し前まではドローンレースにおいてバニスターさんに勝てるパイロットはほとんどいなかったが、最近になりパイロット全体のレベルが上がり、バニスターさんに匹敵するようになってきている印象を受ける。パイロットたちがレース慣れしてきたことや、マシンの性能が上がっていることなどが要因と考えられる。
しかし、レースにおけるもっとも重要な要素は「練習量」だろう。多くのパイロットたちがバニスターさんに匹敵する練習量を積んでいると考えられるのだ。通常、ドローンレースの練習にはある程度の広さの空間が必要になる。バニスターさんは自宅の庭に小さなコースを作り毎日何時間にも及ぶ練習を繰り返していたようだが、他のパイロットたちが同様の環境を整備するのは非常に難しい。
では、どうやって十分な練習量を確保するのか。その1つがシミュレーターを使ったトレーニングだ。2015年頃からドローンレースの人気の高まりとともに、市場にいくつかのドローンレース・シミュレーターが登場している。なかには優れた物理演算アルゴリズムが組み込まれ操縦感覚は実機とほぼ変わらないものもある。そのようなシミュレーターを活用することで、操縦の感覚やコツを短時間で習得することが可能となる。
またシミュレーターにはマルチプレーヤーモードがありインターネットを介して世界中のプレーヤーと対戦できる「オンラインゲーム」としての側面もある。
このオンラインゲームとしての側面が、今後ドローンレース市場がさらに拡大するカギになるかもしれない。シミュレーターは、ドローンレースという現実世界のものをオンライン世界でも楽しめるようにするツールであり、デジタルネイティブであるミレニアル・Z世代がオンラインゲームを始める感覚でドローンレースに参入する環境を整えると考えられるからだ。
ドローンレース市場の議論でよく引き合いに出されるのが「Eスポーツ(オンラインゲーム)」市場だが、このEスポーツ市場は2020年頃までに10億ドル(約1200億円)市場に拡大する可能性があるともいわれている。
もし、ドローンレースがオンライン世界にもドメインを拡大するのであれば、Eスポーツ市場とのオーバーラップも生まれ相互に影響し合うこともあるのかもしれない。いずれにせよドローンレースは誕生して間もない新スポーツ。ミレニアル・Z世代を中心として、どのような進化を見せてくれるのか今後が非常に楽しみだ。
img: DRL