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「起業を志す20歳未満の優秀な若者20人に、10万ドルずつを与える」
2010年に、PayPalの創業者でFacebookを含む数々の有望企業に投資をしてきた大物投資家ピーター・ティール氏が発表した斬新なプロジェクトは、大きな話題を集めた。
なぜなら参加条件は学校をドロップアウトすることだったからだ。2011年に「20 Under 20」として発足し、現在も「Thiel Fellowship(ティール・フェローシップ)」として続いており、5年以上が経過している。
学校をドロップ・アウトした過去の参加者たちは、現在どうしているのだろうか。
従来の常識をくつがえす、中退が条件のプログラム
ティール・フェローシップは、20歳未満の若者が起業に集中できるように10万ドルの資金を与えるプログラムだ。対象者が20人であることから、「20歳未満の20人」で「20 Under 20」と名付けられた。2年間のプログラム期間中は学校または大学をドロップアウトすることを参加条件としている。
現在は対象年齢が22歳未満に引き上げられ、ドロップアウトの期間も1年に変更されているが基本的なコンセプトに変更はなく続いている。現役生も含めると、これまで104人が参加し、昨年の出願者数は2,800人にのぼる。
フェローシップの構想が最初に明らかにされたのは2010年、Tech系のカンファレンスにピーター・ティール氏本人が登壇した時だ。
その際に「人生の早い段階で、自分が成し遂げたい志について真剣に考える機会を提供すること」「大学の学費が高騰する中で、多くの若者が志よりも負債を心配している現状を変えたかったこと」など、大学教育の常識を変えることがプロジェクトを立ち上げた1つの目的であることを明かしている。
ドロップアウトが条件になっていることに加え、ティール氏自身はスタンフォードの学部とロースクールを卒業していることもあり、プログラムが公表された際は様々な議論を巻き起こした。
そんな状況下でも、初年度の2011年には約400名が応募。そのなかにはハーバードなど有名大学に合格しながら参加を希望する者も多く含まれていた。最終的には小惑星の採鉱を志す者や、14歳でMITに入り不老長寿の研究をしている者など、奇抜なアイデアに情熱を注ぐ“クレイジー”な若者20名が選ばれた。
初年度はバイオ系のベンチャーキャピタリストや、独自の発電方法を生み出した社会起業家を輩出
20名の一期生の中には、参加当時から6年以上が経過した現在も変わらず活躍しているメンバーもいる。
不老長寿の研究を進めるために16歳で大学をドロップアウトし、プログラムに参加したLaura Deming(ローラ・デミング)氏は初年度参加者の中でも大きな成功者の1人だ。
ニュージーランド生まれのデミング氏は不老長寿に興味を抱くようになり、11歳のときに著名な分子生物学者を訪問。その学者の研究室で学び、14歳にしてMITへの入学を果たすという驚くべき経歴を持つ。
自身でいくつかの事業を経験した後、不老長寿の研究開発を行うスタートアップを支援する「Longevity Fund」を立ち上げベンチャーキャピタリストへ転身。バイオ領域に特化した若き投資家として活躍している。
デミング氏と同じく2011年の参加者には新たな発電方法を発明し、発展途上国の問題に取り組むEden Full(イーデン・フル)氏も名を連ねる。
彼女が発明した「SunSaluter」は従来のソーラーパネルの発電効率を高めるツール。水と重力のみを用いた仕組みながら、余計な電力を一切使うことなく発電量を30%増加させると同時に、4リットルの清潔な飲料水を作り出す。
プリンストン大学に通っていた19歳の時にプログラムに参加した後、一度は大学へ戻ったものの、現在はSunSaluterをNPO化しフルタイムで事業に携わっている。
Appleに買収された企業から、話題の暗号通貨。業界へインパクトを与えたインターネットサービスも
フェローシップでは特に領域が限定されていないため、宇宙やバイオなど参加者がチャレンジする分野は幅広い。とはいえピーター・ティールのプロジェクトということもあり、卒業生にはインターネットサービスを手がける起業家が多い。中には多額の資金調達に成功したり、有名企業に買収された企業もある。
2013年の参加者であるインド出身のRitesh Agarwal(リテシュ・アガルワル)氏が立ち上げた「OYO」は、ソフトバンクなどから累計で4.5億ドルを調達している急成長スタートアップだ。
ティール・フェローシップに参加する前から大学を中退して起業していたアガルワル氏は、フェローシップに参加したことをきっかけにサービスの方針を転換。現在手がける格安ホテル予約サービス「Oyo Rooms」へと舵を切り事業を拡大させている。
卒業生のAri Weinstein(アリ・ワインスタイン)氏とConrad Kramer(コンラッド・クレイマー)氏が創業した「Workflow」は、Appleに買収された。Workflowはアプリ上でワークフローを登録することで、iOS端末の様々な作業を自動化できるライフハックアプリだ。
創業者の2人は2014年にティール・フェローシップへ参加し、Workflowの開発に集中。2015年に「Apple Design Award」を受賞した勢いをそのままに、2017年にAppleの子会社となった。
同じく2014年の参加者であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏は現在ビットコインに次ぐ時価総額を誇る暗号通貨「Ethereum(イーサリアム)」の考案者だ。
幼少期から類い稀な知能を発揮していたというブテリン氏は、ウォータールー大学に入学後18歳で情報科学の国際オリンピックで銅メダルを獲得。2014年にフェローシップに参加するため大学をドロップアウトし、2013年に考案していたイーサリアムのプロジェクトにフルタイムで関わった。
インターネットの次の革命としてブロックチェーンが注目される現在、イーサリアムの注目度も日ごとに高まってきており、ブテリン氏はいまや世界中の関心を集める人物となった。
教育の価値観を変えたフェローシップ
これまで100人以上が参加してきたフェローシップにおいて、この5人はかなり成功した部類のメンバーだ。もちろん5人以外にも資金調達をして事業を成長させたり、事業売却に成功したりするメンバーはいる。
だが一方で結果的に事業を断念する、大学に戻るという決断をした者も存在する。一般的なスタートアップがそうであるように、フェローシップに参加したからといって全員が華やかな結果を残しているわけではない。
何を持ってこのプロジェクトが成功したと言えるかは難しいが、少なくとも「従来の大学教育に対する価値観を見直す」という意味では、重要な役割を果たしたと言えるのではないだろうか。
フェローシップに密着取材した内容を元に書かれた『20 under 20 答えがない難問に挑むシリコンバレーの人々』の中で、著者が同プログラムについて言及した以下の内容がとても興味深かったので最後に紹介したい。
「フェローシップ・プログラムでまちがいなく成功したといえるのは、このアイデア自身だ。つまり大組織が人々を型にはめようとする力から、自らを解き放てるという考え方だ。
ティール・フェローシップがスタートして以後、大学進学は以前ほど死活的に重要だとは考えられなくなった。大学をドロップアウトしたり、そもそもまったく大学に進まず起業したりした人間は優れた才能がある、もしかすると天才なのかもしれないと考えられるようになった」
img : The Thiel Fellowship、Ethereum Project
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