ここ最近、アメリカでは18歳から34歳ぐらいのミレニアルカップルを対象とした「マージファイナンスアプリ」が相次いで市場に投入されている。
マージファイナンスアプリは、カップルで銀行口座やクレジットカードの取引情報をシェアし、家計を共同で管理するというもの。しかし、シェアする口座を自分で選択でき、独立性とプライバシーを保てるのが特徴である。
「経済的独立」に価値を置く、ミレニアル世代の結婚観を反映したサービスとなっている。
家計をシェア、独立性とプライバシーは保持
マージファイナンスアプリの一つが、2017年8月初頭にローンチされた「Honeydue 」だ。
ユーザーはスマートフォンでアプリをダウンロードし、銀行口座やクレジットカードなどの情報を入力。その際にパートナーとシェアしたい口座や取引を選び、パートナーと毎月の財務状況を共同で管理できる。支払いリマインダーの設定や、支出項目の分類のほか、相手の支出に対して疑問を持ったときにコメントしたり、絵文字でリアクションしたりする機能もある。
同サービスを立ち上げたEugene Park氏は、多くの若いカップルが別々の銀行口座を持っている一方で、75%が家計を共同管理していることを発見。「お金を一緒に管理して、一緒に金融リテラシーを高めるべき」との考えから、このアプリを思いついた。
Honeydueで2人の支出と共同残高を確認(Honeydueのホームページより)
ターゲットユーザーはアメリカで3200万人と言われるミレニアル世代で、同アプリのユーザー登録数は2017年8月現在で2万人。このうち6割が女性だという。
面白いのは、ユーザーが登録した口座のうち60%は一部または全部がパートナーとシェアされているが、残りの40%はシェアされていないという点。「こうやって、アプリに登録したカップルは、自立性とプライバシーを保っているのです」(Park氏)。
翌週に競合アプリが登場、家計で妻と揉めた経験から着想
Honeydueの発表から1週間後には「Honeyfi 」という別のマージファイナンスアプリが登場した。
これもスマートフォン専用のアプリで、カップルはそれぞれ銀行口座やクレジットカード口座をリンクさせ、パートナーとシェアしたい口座と自分だけで管理したい口座を選別できる。
支出項目を分類したり、パートナーとコメントをシェアしたりと、機能的にはHoneydueに似ているが、同アプリでは支出の履歴から予算が提案される点が特徴的。予算を立てることは多くのカップルの難題となっているため、これを解決する機能が加えられたのだ。
Honeyfiの創業者の1人、Remy Serageldin氏は、結婚して数年後に家計のことで妻と揉めた苦い経験から、このアプリの開発に取り組んだ。夫婦とも金融サービスの分野で働いていたにも関わらず、家計や予算について2人で話し合ったことがなかったという反省も、このアプリの開発につながったという。
Serageldin氏は、「すべての家庭にはCFOがいる」と指摘した上で、「Honeyfiの目的は、家庭のCFOが物事を決めるための情報を与えるのを助けること。そして非CFOにも分かりやすいフォーマットで情報を共有できるようにした」と説明している。
Honeyfiのターゲットユーザーは、高年齢のミレニアル世代。経済的基盤が確立し始め、「ライフスタイルの転換期」にある層だ。
アプリは無料で、これまでのところ方々から集めた資金で事業を賄ってきたが、今後は関連サービスを提供する第三者がユーザーに有料でアクセスすることを許可し、これを収益源とする計画。単に予算を立てるためのツールから総合的なファイナンシャルプラン作成のツールに発展させたい考えだ。
このほかにオンライン銀行のスタートアップ、「Simple 」もマージファイナンスアプリを提供している。
カップルでシェアされた銀行口座は、アプリ上で予算、預金、支出などを管理でき、例えばパートナーが共同口座から支出すると、その内容が相手にリアルタイムで送られる機能がついている。旅行や家具購入などの目的に向けて日割りで預金をしていくシステムも好評で、顧客の間からは「2人の生活をマネジメントしやすくなった」との声が上がっている。
「結婚と家庭」よりも「教育と仕事」
こうしたマージファイナンスアプリには、ミレニアル世代の結婚観や経済観念が反映されている。
ミレニアル世代はサブプライムローン問題やリーマンショックの影響をもろに受け、グローバル化に伴う貧富の格差を目の当たりにしてきた世代。大学を卒業しても多額の学生ローンを抱えていたり、親と同居していたり、経済的に厳しい状況にある人が多い。
このような状況の中では、結婚せずに同棲する人も増えている。アメリカ国勢調査局によると、全米で同棲している成人の数は2016年に1800万人に達し、2007年当時から29%増加した。
このうちの約半分が35歳までの若いカップルで、彼らのほとんどは結婚した経験がない。ミレニアル世代の専門家は、「彼らの多くは経済的にもっと基盤を築いてから結婚しなければと思っている」と説明している。
同調査によると、ミレニアル世代の若者は「成人として重要な要素」として「教育」と「経済的な成功」を挙げており、過半数は「結婚して子どもを持つことはさほど重要でない」と考えている。1975年当時は、10人に8人が30歳までに結婚していたのに対し、現在は10人に8人が45歳までに結婚している状況で、晩婚化も進んでいるという。
この背景には女性の社会進出もある。アメリカ国税調査局によると、専業主婦の割合は現在14%に過ぎず、1975年当時の43%を大幅に下回っている。女性の収入が増加したことで、「経済的に結婚する必要に迫られなくなった」との声も多く聞かれる。
パートナーがいくら貯金をしているか、知らないことも
結婚前の同棲生活では、2人のファイナンスが共同で管理されることが多い。
ファイナンス・サービス会社のCredit Karmaが経営マネジメントのQualtricsと共同で行った調査では、ミレニアル世代の約半数が結婚前にパートナーと共同口座を作り、ファイナンスをシェアしているということが分かった。ベビーブーマー世代では、結婚前に共同口座を作っていたのは3人に1人だった。
例えば、ニューヨーク市在住のあるミレニアルカップルは、それぞれが収入の60%を共同口座に入金。残りの40%は各自がキープするシステムを取っている。家賃や光熱費、そして旅行などの2人のレジャー費は共同口座から支出される。
一方、別のミレニアルカップルも収入の何%かを共同口座に入金しているが、その割合は各自の収入に応じた累進性が適用されている。つまり、収入の多いほうがより多く共同口座に貢献しているのだ。
しかし、どちらのケースも2人でファイナンスをシェアしながら自分の「自由なお財布」を確保している点は共通だ。パートナーがいくら貯金をしているか、クレジットスコア(信用度を測る基準)がいくらなのか、お互いに知らないケースも珍しくない。
家庭を築くよりも教育や経済的成功を重視するミレニアル世代は、自己実現に向けた自分の資金が必要なのかもしれない。離婚率が高まる中、両親の世代が離婚するときにファイナンスについてゴタゴタしたのを見てきたことが2人の財布を分ける行為につながった、と指摘する声もある。
いずれにしても、彼らのニーズを汲み取ったマージファイナンスアプリの登場は、ミレニアル世代の経済基盤が固まりつつある現在、当然の流れと言えるだろう。これからミレニアム世代がさらに消費パワーの中心を担う年齢に突入する中、彼らをターゲットとしたファイナンスアプリはさらに進化する可能性を秘めている。