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食べるなら、誰だって身体にいい物がいい。しかし人は身体に悪いことがわかっていても、ついファストフードを食べてしまう。
「よくないってわかっているのについ…」という背徳感が味付けになってしまっているのかもしれないが、“代替案”が弱いことが原因だとも考えられる。
たとえば、「ビーガン料理」は身体に良いはずだ。だだ、「ビーガン料理」と聞いて、人は何を思い浮かべるだろうか?「美味しい」や「手頃に食べられる」という印象を持つ人は多くはないはずだ。これでは、人々がついファストフードに手を出してしまうのも仕方がない。
しかし、もし手頃に楽しめて、ファッショナブルで、リーズナブルで、美味しいビーガン料理があれば食べてみたいと思うし、人々はもっと健康になれるかも、とは思わないだろうか。少なくとも、私は好奇心がくすぐられる。
ベジタリアンを超える完全な菜食主義者「ビーガン」
肉を食べないベジタリアンの中でも完全な菜食主義者である「ビーガン」をターゲットにしたお店がアメリカで注目を集めている。
10店舗以上を展開するビーガン料理のチェーン店「Veggie Grill」や、ニューヨークにあるビーガンのクレープ屋「Little Choc Apothecary」など、ユニークなお店が次々と登場している。
2016年にはビーガン発祥の地イギリスにて、「ビーガンの人口が過去10年間で360%増加した」というニュースがあった。
NPO法人日本ベジタリアン協会によると「ベジタリアン (Vegetarian) という言葉は英国ベジタリアン協会が発足した1847年に生まれた言葉で、(英国では)畜肉を食べない人を『広義なベジタリアン』とする」のだという。
対して、ビーガンは乳製品や卵も口にすることはない。同協会は、ビーガンをこう定義している。
「ビーガンは動物に苦みを与えることへの嫌悪から、動物の肉(鳥肉・魚肉・その他の魚介類)と卵・乳製品を食べず、また動物製品(皮製品・シルク・ウール・羊毛油・ゼラチンなど)を身につけたりしない人たち。」
“インスタジェニック“なビーガン料理「By Chloe」
ビーガンの盛り上がりとともに、ビーガン料理を美味しく提供するお店も増加傾向だ。日本では食生活に出汁文化が根付いていることから、厳密なビーガン料理店が少ないとも言われている。だが、ニューヨーカーの間では、いまビーガン料理店が人気となりつつある。
料理店の名前は「By Chloe」。同店では、ハンバーガー、サンドイッチ、パスタといったファストフードやカフェでよく見る料理がメニューに並んでいるが、デザートまで含めて、それらすべてが卵や乳製品すら含まれないビーガン料理だ。
ニューヨークのウェストビレッジにある店舗のメニューを見てみると、ハンバーガーやサンドイッチを約10ドルで楽しめる。ファストフード店よりは高価格帯だが、どのメニューも、一般的なビーガン料理店よりは安い印象を受ける。
料理の提供方法はファストフードと近い。レジで注文した後に小さなブザーを渡され、料理ができるまで席で待つというスタイルだ。
ビーガン料理本を出版する“シェフ起業家“が創業
「By Chloe」を手がけているのは、No.1のカップケーキを競う料理番組「Cupcake Wars」にてビーガンシェフとして初めて優勝したことで話題となったChloe Coscarelli(クロエ・コスカレリ)氏。同氏は、ビーガン料理本を複数出版していることから、味のほうも太鼓判を押せるだろう。
「By Chloe」は、2015年7月にニューヨークのウェストヴィレッジに1号店をオープン。その後わずか2年程度でニューヨーク、ボストン、ロサンゼルスに8店舗を展開するまでに成長した。2018年にはアメリカを飛び出し、イギリスはロンドンに出店する計画だ。
注目されている背景には、ビーガンやベジタリアンへの注目の高さだけではなく、影響力の強いファッション業界関係者を中心に話題となったという理由がある。
そして「By Chloe」は、ニューヨークが拠点の世界的に有名なステーキレストラン「BLT STEAK」などの飲食店を展開するEsquire Hospitalityとのコラボレーションによる店であること、同社のクリエイティブ・ディレクターであるSamantha Wasserが前面に立ってプロデュースを行っていることが大きく作用しているだろう。
同氏はフォトジェニックなルックスも含め、各種ファッションメディアにも大きく取り上げられている。
店舗やメニュー、パッケージのデザインに徹底的にこだわり、“インスタジェニック“なその世界観を、By ChloeのInstagramアカウントで覗くことができる。
ファッショナブルな「ビーガン」の台頭の背景には何がある?
ベジタリアンやビーガンであることを公言するセレブリティが多いことも、ビーガンの流行を後押しする要因のひとつだ。
レディオヘッドのトム・ヨークやポール・マッカートニーといったミュージシャン、そしてグウィネス・バルトローといった映画女優などがベジタリアンやビーガンであると公言していて、ミレニアル世代が憧れを抱くことは自然なことのように思える。
ただ、「セレブへの憧れ」だけでミレニアル世代が動くわけではない。「グローバルな環境問題」への意識の高さや、健康意識の高まりも彼らの行動に影響を与えているだろう。ミレニアル世代の約80パーセントが「環境問題や社会課題への取組を会社選びの際には考慮する」と回答している。
新たなユースカルチャーとなりつつあるビーガンだが、栄養学の観点からは必ずしも健康につながるものではないという指摘もある。ニューヨーク市にあるコロンビア大学メディカルセンターの栄養医学部門ディレクターを務めるDavid Seres(デービッド・セレス)氏は次のように語る。
「ビーガンの人々は穀物や豆類から、必要なタンパク質全てを摂取できるが、健康でいるためには動物性食品に含まれるビタミンB12の補充が必要だ」
新種族「気楽なベジタリアン」が登場?
しかし、このような専門家の心配は杞憂に終わるかもしれない。完全なビーガンになるわけではなく、普段の食生活にときどきビーガン食を取り入れる柔軟な菜食主義者「フレキシタリアン」がミレニアル世代を中心に生まれているのだという。
ビーガンやベジタリアンの考え方に共感を覚えながらも、栄養面で不安があったり、外食に困ってしまうなど、その理由は様々だろうが、こうしたフレキシブルな考え方が登場している。まるでハッシュタグ感覚ともいうべき新たなトレンドがミレニアル世代の中にできあがりつつあるのかもしれない。
彼らは「By Chloe」での食事でトレンド感を楽しみつつ、普段は肉の入ったハンバーガーを食べ、インスタ映えするカラフルなアイスクリームを片手に散歩する。そんな柔軟なライフスタイルの普及が、ビーガン料理店の増加を後押ししている数ある理由のなかでも、大きな一つなのではないだろうか。
img : By Chloe
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