最近、「SNSに一度も触れなかった日」はあるだろうか?

今やインフラとして日常生活になくてはならない存在に近づいているSNS。特にインターネットとともに育ってきたミレニアル世代では、SNSの利用率が高い。

総務省が行った調査では、スマホユーザーのSNS利用率が20代では99.5%、30代では98%という結果もでているほどだ。

日常に溶け込んでいるSNSは災害時や緊急時にこそ、真価を発揮する。2011年の東日本大震災、2016年の熊本大震災ではTwitterやLINEが重宝された。

安否確認や被害状況の発信・確認をほぼリアルタイムでできるのはSNSの大きな特徴で、災害時にSNSを活用することはもはや珍しいことではない。

2017年8月にアメリカで起こったハリケーン災害の裏でも、アメリカ発のSNS「Snapchat(スナップチャット)」のある新機能が思わぬ形で活躍し、話題をあつめた。

Snapchatのマップ機能が変えた、情報収集の形

2017年6月、Snapchatは位置情報を活用した新機能「Snap Map」をリリースした。Snap Mapでは、友人の居場所を地図上で確認したり、友人以外のユーザーの投稿でも公開設定されたものであれば地図上で閲覧できる。

リリース当初は「現在地付近にいる友人をマップ上で見つけ、コミュニケーションをとってリアルの場で会う」といったように、友人同士がオフラインでつながるための機能として取り上げられていた。

ところが、8月末にハリケーン「ハービー」がテキサス州に直撃した際、被害情報を発信・確認する手段として使用量が急増。複数のメディアで言及されるに至った。

なぜSnap Mapが重宝されたのだろうか? その理由は、位置情報とSNSを組み合わせたことによって実現された「情報収集スピード」にある。

Snap Mapはヒートマップのような仕組みを採用しているため、投稿数の多さによって地図の背景色が変わる。たとえばハリケーン発生時に地図を開くと、どの場所で投稿数が増えているのかが一目瞭然だ。そして気になる場所をタップすると、現地ユーザーの投稿を介して現場の状況がわかる。

つまり、SnapMapを使うことでユーザーは「被害が大きそうな場所」「安全な場所」「電源が使える場所」といった情報をリアルタイムで、かつ短時間で収集できたのだ。

特定の場所の状況や、家族の安否を確認したいのであればTwitterやメッセンジャーツールで十分だろう。ただし広範囲の情報を収集したい、現在地付近の情報を知りたいという場合には位置情報と地図、そしてユーザーの情報を組み合わせたSnapMapの機能は利便性に優れている。

プライバシーの観点から問題視する声もあったSnap Map

ある意味、予想外の形でその知名度を広げたSnap Map。そもそもこの機能がリリースされた背景には、Snapchat運営元のSnapによるパリ発のソーシャルマップサービス「Zenly」の買収があると言われている。

Zenlyは位置情報から友人の居場所がマップ上でわかるサービスとして人気を集め、ダウンロード数は400万を超える。Snap MapはこのZenlyをコピーしたと揶揄されるほど、非常に似ているのだ。

Snap Mapは基本的に友人間で位置情報を共有するものだ。ただし「みんなのストーリー」に投稿した場合、全ユーザーに自分の情報が公開される可能性がある。

Snapchatを開いている時のみマップが更新されるため、仲のいい友人間で使用する場合には現在の情報が正確にわかり便利だ。一方で公開設定を間違えてしまうと大きな事件につながる危険性もあり、当初はプライバシー保護の観点から問題視されているという報道もあった。

ただ今回は、多くのユーザーが各地の状況を「みんなのストーリー」に投稿したからこそ、Snap Mapで被害状況をリアルタイムで把握できた。個々人が使い方を理解し、リスク管理を行うことが前提ではあるが、SNSでの情報発信に位置情報が紐づくことで、緊急時にはより便利なツールになりえる好例となった。

災害時のインフラとして期待が高まるSNS

今回のSnapMapを含め、災害時にSNSを活用するという考え方は当たり前になってきている。

日本では2017年3月に内閣官房が「災害対応におけるSNS活用ガイドブック」を公開した。主に地方公共団体向けに、各団体のSNS活用状況や災害時の活用方策、過去の活用事例などを詳しく解説。災害対応におけるSNS活用を推進している。

また総務省が所管する情報通信研究機構(NICT)では、指定したエリアに関するTwitterの投稿を分析し、そこで発生している災害に関する情報を自動的に抽出する「DISAANA(ディサーナ)」を提供。SNS上の情報を効果的に収集できるツールを開発している。

Twitterは情報の「発信」に優れたツールである一方で、「収集」には改善の余地がある。DISAANAのように、今後地方公共団体が積極的に活用するようになれば、フォローすることである程度の情報は収集できるかもしれない。

ただリアルタイムに現地の様子を知るためには、現地にいる情報発信者を探した方が早いだろう。

とはいえTwitterから情報を得る場合、その「信憑性」を十分に吟味する必要がある。熊本大震災の際には、「動物園からライオンが逃げた」というツイートが市民を混乱させた。後に神奈川県に住む会社員によるデマツイートであることが発覚したが、ツイートを見て瞬時に正しい情報かどうかを見極めるのは簡単なことではない。

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その点、SnapMapの場合は投稿者の位置情報に紐付いているため、少なくとも現地にいるユーザーが発信した情報かどうかは判断できるだろう。情報を収集するという側面において、位置情報やマップを組み込んだSNSは革新的だ。マップを動かしタップするだけで現地の情報にたどり着ける。

自治体が使えば、より迅速に避難勧告や避難場所の誘導ができるだろう。救助を求めるユーザーの場所を位置情報から特定し、救助に向かう時間を短縮できる可能性もある。もちろん災害が起きないに越したことはないが、起こってしまった際には最小限に被害を食い止める必要がある。その際には位置情報を活用したSNSが大きな活躍をするのではないだろうか。

img : Snapchat, Youtube, NICT

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