「この5年ほどでクラウドなしのビジネスは考えられない世界になった。ドローンもクラウドのように今後5年ほどで必要不可欠な存在になっていく」。
こう語るのはドローンなどのロボティクス技術とビジュアルコミュニケーション技術を組み合わせたソリューションを展開するブイキューブロボティクス(VRJ)の代表取締役社長、出村太晋氏だ。
2015年10月に設立されたVRJ。出村氏が同社代表取締役社長に就任したのは2016年4月。それ以前は総合電機メーカーや戦略系コンサルティング会社でモバイルデバイスやデジタル関連の新規事業に携わってきた。市場拡大期に情報通信、モバイル に関連する新規事業を仕掛け、それらの爆発的普及を目の当たりにした経験を持つ人物。
そんな出村氏にこれまでのデジタルテクノロジー普及の文脈で、ドローンがどのように位置付けられるのか、そのなかでVRJがどのような事業を展開しようとしているのかについて聞いた。これまでのテクノロジー普及の文脈を踏まえると、ドローンの未来がより明確に見えてくるはずだ。
携帯電話やクラウドの爆発的普及から見るドローン
VRJはもともとWeb会議サービスを提供しているブイキューブの社内新規事業として始まった経緯を持つ。この新規事業は、ブイキューブが強みとするWeb・テレビ会議システムなどの遠隔ビジュアルコミュニケーション技術とドローンを組み合わせて新しいソリューションを作り出せないかと始まった。新規事業は2015年1月に開始され、実証実験を経て事業化の目処が見えたタイミングで、VRJとして戦略子会社化された。その後、事業化スピードを加速させるため、外部からの人材雇用や外部資本受け入れなどの施策を打ってきた。
実はこのブイキューブの新規事業が始まった頃、出村氏はグリーで新規事業領域責任者 としてゲーム領域外の事業に従事していた。この頃ドローンとの接点はほとんどなかったが、約1年後にVRJ代表取締役社長に就任することになる。どのような経緯があったのだろうか。
「グリーに入る前、リクルートで中途採用事業の戦略立案や新規事業立ち上げを担当していました。その頃、仕事の関係でブイキューブの間下さん(ブイキューブ代表取締役社長)に会いまして、それがきっかけでときどき情報交換をするようになりました。2015年冬に、ブイキューブの新規事業の話を聞いて、そこで初めてドローンを活用した事業を始めようとしていることを聞きました。ただ、そのときは『おもしろそう』で終わったんですよ。
それから数カ月経ち、2016年初めに再度話をする機会があって、そこで外部人材雇用や外部資本受け入れなど、本格的に事業化を始めるということを聞きました。ちょうどその頃、自分の経験や肌感からドローンが今後モバイルやクラウドのように社会に不可欠な存在になっていくというシナリオが頭の中で明確になってきていて、それならばということでVRJ代表に就任する流れとなりました」(出村氏)
出村氏はドローンを知るにつれてそのポテンシャルに惹かれていくことになるが、その心境の変化には自身が過去に携帯電話や光ファイバーどのデジタル関連事業に直接携わっていた経験が大きく影響している。1995年、新卒で入社したのは総合電機メーカー 。当時はNTTドコモの携帯電話「ムーバ」発売や、1999年には「iモード」サービスが開始されるなど、携帯電話が広く普及しつつある時代だった。出村氏は総合電機メーカー で商品企画担当として国内外の携帯電話関連事業に携わった。
その後2000年に、総合電機メーカー から戦略系コンサルティング会社に転職し、メディアや通信関連の新規事業立ち上げに数多く携わることになる。携わったプロジェクトは、IP通信、VPN、光ファイバー、地デジ、ワンセグなどまさに世の中のデジタル化を加速させる分野だった。
そんな経験から出村氏はドローンについて「肌感ではこれらと近い感じがする」と語る。
「もっと直近の例でいうとドローンはクラウドに近いと思います。6〜7年前 、クラウドと聞くと『セキュリティ上心配だから、そんなもの誰が使うんだ』というひとは多かったと思います。しかし現在クラウドなしには成り立たない世の中になっています。おそらくドローンもこれから6~7年 かけて世の中に無くてはならない存在になっていくでしょう。
クラウドのときもそうでしたが、新しいテクノロジーが登場したばかりのときはバブルのように『なんでもできる感』が出てきます。それが時間の経過とともに、できることとできないことが明確になり、バブル感が抜けてきたとき、市場の期待値が調整され、市場が立ち上がる準備が整うのです。ドローン市場はいままさに期待値が調整され、立ち上がる準備ができつつあると考えてよいでしょう」(出村氏)
実際、VRJにはこれまでに「ドローンで何かしたい」という引き合いは数多くあったが、ニーズが明確になっていない場合が多かった。しかし今年に入ってから、ユーザー側のニーズは明確になり、実用化を進めやすい状況になってきているという。
逆算思考で考えるドローン市場の未来
VRJがまず目指すのは 、ドローンを含むロボティクスとコアの強みであるビジュアルコミュニケーション技術を融合させたソリューションを普及させることだ。つまり、空飛ぶクアッドコプター(ドローン)以外もその範疇に入るということ。しかし、当面はドローンを使ったソリューションに注力していく方針だ。出村氏は、ドローン自体もまだ進化の余地があると考えている。
「携帯電話を考えてみると、革新的な出来事の1つとしてバッテリーがニッカド電池からリチウムイオン電池に移行したことが挙げられます。この期間がほぼ5年でした。ドローンも同様に5年ほどのスパンで革新的な進化があると考えています。その先にはドローンの2極化が起こると思います。
1つはセンサーやバッテリーの小型化によってドローン自体が高性能ながら非常に小さくなっていく方向。もう1つは、モーターやバッテリーのパワー・持続性などが向上し、そしてより重いものを運べるようになる大型化の方向です。こうしたドローンの進化が3〜5年くらいで起こると想定し、そこから逆算してどのようなソリューションが可能なのか考える。そうしないと、ドローン市場が一気に拡大するときにその中心にいることができないと思います」(出村氏)
このようにドローンの進化を想定した逆算思考で、現在VRJはソリューション実用化に向けてさまざまな実証実験を進めている。実証実験から得られたインサイトをもとに、スピーディーにさらなる実験を繰り返すことで、2~3年での実用化を目指す計画だ。
2016年11月には仙台市でドローンを使った津波避難広報の実証実験を実施。ドローンから撮影した映像をVRJの映像共有システムを介して、災害情報センターへリアルタイム転送、またドローンに搭載した高出力スピーカーで避難広報を行い、人員が危険区域に近づくことなく避難広報が実施可能であることを実証した。このほかにも、保守点検業務、水難救助活動、防犯・警備などでも実証実験を実施している。
また実証実験に加え国内外のドローン関連企業との連携を通じて、ソリューションを充実させていく方針だ。VRJが9月に公開した全自動運用ドローン「DRONEBOX」を開発するのはシンガポール発のドローン企業。世界初となる 「DRONEBOX」商用サービスを日本で展開し、市場ニーズを探るとともに、全自動運用ドローンサービスに関する知見を深めていく。
VRJが9月に公開した全自動運用ドローン「DRONEBOX」
現在さまざま企業がドローン市場に参入しようと計画しており、VRJがソリューション実用化を目指す数年後には、市場での競争が激しくなっているかもしれない。しかし出村氏は「ドローン市場はまだ黎明期で、市場を拡大するためには、さまざまなプレーヤーと競合するのではなく、パートナーシップを強めていくことが重要と考えています」と市場黎明期における連携の重要性を説明する。
出村氏のいうようにこれからが成長・拡大フェーズとなるドローン市場。ビジュアルコミュニケーションという強みを生かしドローン市場にどのような化学反応を起こしてくれるのか。日本市場、そして世界市場におけるVRJの活躍に注目していきたい。