暑い日や雨の日に、満員電車に乗った時のストレスほど辛いものはない。私が日常的に利用する田園都市線は、首都圏でも屈指の混雑路線と言われている。出勤時間帯の混雑具合は目を覆いたくなる。
2014年に行われた「通勤」に関する実態調査によれば、自宅から会社まで片道の通勤時間は、平均58分。理想の通勤時間は平均35分と回答されている。マクロミルの調査によれば、通勤や通学電車で何かしらのストレスを感じている人は95%にのぼる。そのストレスの要因の1位は「満員電車・混雑」だという。
ただでさえ長時間の通勤や通学だけでも辛いのに、満員電車であればなおさらストレスが溜まる。そこに、電車の遅延や運転見合わせが起きた日には……もうこれ以上語ることはないだろう。
「地獄の夏」を乗り切るため、電車の“遅延“を皮肉るビールが発売!
通勤や通学によるストレスは日本特有の問題でもないらしい。ニューヨークでは日本のような満員電車は少ないものの、電車の遅延や運転見合わせは日常茶飯事だという。
今年の夏、ニューヨークでも有数の規模を誇るペンシルベニア駅の改装工事にともない、電車のキャンセルや遅延が増えていた。その惨状は、ニューヨーク州知事Andrew Cuomo(アンドリュー・クオモ)氏によって、「地獄の夏(Summer of Hell)」と称されるほどのものだった。
ニューヨーカーがその状況を黙って受け入れるわけがない。電車の遅延やキャンセルによるストレスを感じる都市生活者のために、地元のニューヨーク州ロングアイランド島を拠点とするクラフトビールメーカー、Blue Point Brewing Companyがあるビールを醸造した。
それは「‘Delayed‘ Pilsner」と呼ばれるビールだ。パッケージには、ペンシルベニア駅構内にある案内板に「DELAYED」と表示されている様子が描かれている。そのネーミングも、デザインも、ペンシルベニア駅における電車の遅延の多さを皮肉っており、今年の夏に一度でもペンシルベニア駅を利用したことがあるならば、クスっと来るのではないか。
Drink the delay! Join us at the Penn Station Shack on Monday (8/14) to celebrate @bluepointbrewing's new brew: https://t.co/Foq8exmL4k pic.twitter.com/Uazh9I7BSH
— SHAKE SHACK (@shakeshack) 2017年8月10日
現在はペンシルベニア駅にあるハンバーガーレストラン「Shake Shack」にて販売され、徐々に提供店舗を拡大していくという。販売は駅の工事が終わるまでは続くとのこと。
Instagramでハッシュタグ「#DRINKTHEDELAY」を検索してみると、パッケージデザインを褒め称える投稿や、Shake Shackでハンバーガー片手にビールを楽しむ様子が出てきた。(「#SummerofHell」も合わせて調べてみたが、2つのハッシュタグで出てくる写真の差に驚き、そっと閉じた)
地獄の夏をやり過ごすために、ビールは貢献しているようだ。
遅れる電車を待つ間にビールはいかが?
「‘Delayed‘ Pilsner」を販売したBlue Point Brewing Companyは、ニューヨーク市民に愛される牡蠣に合うビールを販売するなど、ニューヨーク市民に寄り添ったクラフトブリュワリーとして知られている。
牡蠣といえば、牡蠣入りのビールを醸造するクラフトブリュワリーが登場するほどに、アメリカのクラフトビール業界は盛り上がりを見せている。
参考記事:“混ぜるな危険”がイノベーションを生む?まさかのフライドチキン入りクラフトビールが誕生
Blue Point Brewing Companyの代表を務めるTodd Ahsmann氏は、今回のウィットに富んだビールが生まれた背景を次のように語る。
「私や私達の会社の従業員がロングアイランド島に戻ろうとした時に、ペンシルベニア駅で足止めをくらい、多くの時間を費やしてしまいました。幸運にも私達の手の中にビールはありましたが。工事中は電車の遅延が続くことが考えられるので、延び続ける待ち時間を完璧に過ごすために、ビールを醸造することにしました」
逆境に置かれてもユーモアを失わないことで生まれたユニークなアイデアだ。日常のいつ、どんなところにもビジネスチャンスは潜んでいるということだろう。
「どうせ待つのなら楽しもう」というメンタリティも見習いたい。いつまで待っても電車が来ない。狭いホームで待たされる。そんなストレスフルな環境から抜け出すために、ビール片手に気晴らしをするのもいいだろう。
「駅」は多くの人々が行き交う空間だ。Blue Point Brewing Companyは、駅という空間の可能性の広さも示してくれた。日本でも京阪電鉄中之島線の終点である中之島駅にて、ホームと電車内でお酒やラーメンなどが楽しめる「中之島駅ホーム酒場」が期間限定で行われた。こちらは鉄道路線のプロモーション目的だが、駅という空間の新たな使い方を提案している。
私たちの身の回りには、視点を変えると新たな価値を生み出すヒントが散らばっている。
img: Shake Shack
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