912日(現地時間)、アップルは新製品「iPhone X(テン)」を発表した。発表会では、ティム・クックCEOが、iPhone Xのことを「未来のスマートフォン」と自慢げに語っていたのが印象的であった。デザイン的には、ホームボタンを廃し、エッジ部分も極端に細くなるなど、まるで画面だけを持つ感覚になれる筐体に仕上がっている。

しかし、アップルは単に見た目が「未来のスマホになった」と言っているわけではない。重要なのはデザインではなく「中身」だ。ここに、未来のスマホとしての“タネ”が植えられている。アップルはiPhone Xと同時発表となったiPhone 8から、「GPU」と呼ばれるチップセットを自社設計のものに切り替えた。GPUとは、画像を処理するためのチップセットなのだが、ここ最近は人工知能的に動くための部材として注目されている。

現在、iPhoneには、パーソナルエージェントとして「Siri」が搭載されている。今後、Siriをさらに賢く、便利なものにしていくには、CPUGPUといったチップセットの進化が重要となる。これまでアップルはCPUは自前で設計していたが、GPUは他社から調達していた。そこで今回から思い切って自社設計にしたのだった。

スマホは今後、「人工知能」での戦いが加速すると言われている。すでに、中国・ファーウェイは、自社グループで「Kirin 970」というチップセットを開発。人工知能的に画像処理などを高速でこなすスマホが作れるようになるという。もちろん、人工知能において、優位な立場にいるのはグーグルだ。ユーザーからの情報をビッグデータとして集め、クラウドで処理していくのはグーグルの得意技と言える。

例えば「Google Photo」という写真サービスを使えば、撮影した被写体に何が写っているかをクラウドが判断。自動的にタグ付けし、あとから簡単に検索して写真を抽出することも可能だ。ユーザーから集めた膨大なデータを処理、そして機械学習することで分析し、検索やユーザーの行動支援に役立てるのは、グーグルが最も得意とするところだろう。

目と耳と口、そして頭脳を備えるためにスマホは進化を続ける

実は、グーグルとアップルは、スマホのプラットフォームを作っていても、考え方が大きく異なっている。

グーグルはスマホを窓口として、ユーザーのデータをクラウドに上げて処理していくというスタンスだ。ネット企業としてスタートしたので、“クラウドファースト”な考え方なのは自然なことと言えるだろう。一方、アップルはユーザーのデータを集めるということを極力、嫌っている。「ユーザーのプライバシーは徹底的に守るべき」という考え方で、iPhoneiOSを開発している。例えば、今回発表されたiPhone Xには顔認証機能となる「Face ID」が搭載されている。

本体前面にカメラや赤外線センサーなどが内蔵されており、顔を3万の点で識別することで個人を特定し、ロックを解除するという仕組みだ。この機能は、自社設計のGPUが機械学習を行うことで、ユーザーの顔の変化なども判断して、的確に認証を行なっている。この機械学習のデータも、クラウドに上げることなく、iPhone本体内部だけで処理をする。そのため、CPUGPUには高度な処理が求められるが、アップルとしてはクラウドに頼ることなく、端末だけでの処理に徹しているというわけだ。

iPhoneでは、写真の選別などもクラウドベースではなく、本体内での処理に任せている。そのため、自社設計でiOSに最適化された高機能なチップセットが必要となる。今回、iPhone 8ならびにiPhone Xに搭載されているCPUである「A11 Bionic」は、一説にはノートパソコンの「MacBook Pro」よりも高速に処理する能力を持つという話がある。つまり、このA11 BionicGPUを組み合わせることで、ノートパソコン以上の能力を秘めているのだ。

また今回、アップルは「ARkit」という、空間を認識しCGなどを重ね合わせられる技術をiOS11に搭載した。まさに、iPhoneに人間の「目」が載ったようなイメージだ。また、iPhoneにはマイクがあり、声や音を聞き取ることもできる。つまり「耳」があるのと一緒だ。すでにiPhoneは目と耳、さらにスピーカーである口を持っていると言える。あとは、頭脳さえ賢くなれば、人間のような賢い振る舞いをできるようになるだろう。

アップルが「未来のスマホ」と語ったiPhone Xは、まさに「人工知能スマホ」の先駆けでもあるのだ。アップルは、今後も自社製のチップセットを進化させることで、人工知能ではどのスマホメーカーにも負けないiPhoneを作り出していくことだろう。

img:Apple