「近い将来、人間は、労働を奴隷に任せてたかつてのアテネの市民のように、労働や家事はロボットやAIに任せて、哲学的な議論と子育てをすることが生活の中心になる日が来るかもしれない」

MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏は、7月29日に開催された『9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために』出版記念イベントにて、こう語っていた。

この話を聞いて、正直戸惑った。有識で知的なコミュニケーションができる人間が尊ばれる日が来るとしたら、自分の老後はまだしも、自分の子に何を学ばせれば良いのか、わからない。

共働き世帯の女性が家事に費やすのは、1日に4.5時間

家事代行サービスの登場や時短家電の進化によって、人間が家事に費やす時間は減ってきた。それでもまだ、家事をすべてロボットやAIに任せる社会にはなっていない。

共働きで夫も妻も働く世帯が増えているが、依然として家事の負担は女性が引き受けるもの――平成 23 年の「社会生活基本調査 生活時間に関する結果」によると、共働き世帯で女性が家事に使う時間は1日4.53時間、男性は0.39時間だそうだ。

私もそのうちの1人だ。今年1月に第一子を出産、DINKSだった頃より家事の量は約2倍に増えたにもかかわらず、平日は、仕事・家事・育児のすべてをひとりで回す「ワンオペ育児」も珍しくない。

朝6時台からオムツ替え、授乳、保育園の登園準備、朝食の準備、自分自身の身支度。会社を16時過ぎに急いで出て、17時に保育園のお迎え、離乳食の準備、仕事のやりとりをしながら、子供の食事、お風呂、自分たちの夕食の準備、掃除・洗濯、寝かしつけ。

22時過ぎにようやく落ち着くが、この頃には気力がなくなっていることも多い。元気があれば仕事にとりかかる。上記の調査結果の、家事に使う時間「女性4.53時間」「男性0.39時間」は、概ね合っている気がする。

テクノロジーの進化が人間の家事負担を減らしてきた

未だに人間は多くの時間を家事に費やしているが、技術の進化は少しずつ人間の家事負担を減らしてきた。

箒でホコリやゴミを取り除く手仕事が、掃除機によって軽減された。今ではルンバのようなロボット掃除機の登場で「掃除機をかける作業」も無くなった。お米も炊飯器が美味しく炊いてくれるようになったし、食器を洗う作業も食洗機が代行してくれるようになった。

衣服の洗濯も洗濯板で手で洗って干していたものが、今は洗濯乾燥機のおかげで洗って乾燥するまでをボタンひとつでできるようになった。 洗濯物を入れるだけで、ロボットアームが綺麗にたたんでくれる自動衣類たたみ機「ランドロイド」も登場した。

経済評論家の勝間和代さんが上梓した『勝間式 超ロジカル家事』では、勝間さんはヘルシオ2台・圧力IH鍋2台を使って調理し、コンロを使わないことで、時短と美味しさの両立を実現、徹底的に家事の効率化を追求しているそうだ。

これらの製品が登場した当時は「ホコリくらい自分で取れ」「米くらい自分で鍋で炊け」「洗濯物くらい自分で干せ」「食器くらい自分で洗え」と言われてきたに違いない。むしろいまだにそう思っている人も多いだろう。

数々の家電のイノベーションのおかげで、家事労働の時間が激減し、そのおかげで女性の社会進出が促進されている側面もあるだろう。

クリーニングも自宅でできる家電「LG styler」

洗濯、乾燥、畳むところまで自動化され、アイロンやクリーニングもほぼ自宅で自動化できるという、衣類における新ジャンルの家電も登場した。

今年3月LGエレクトロニクスから、ホームクリーニング機「LG styler」が発売された。本体にスーツや制服などの衣類を入れると、振動で衣類のホコリを振り落とし、スチームで匂いの除去、除菌、服のしわのばしなどができるという、これまでになかった製品だ。

不動産の賃貸管理などを行うプロパティエージェント株式会社は、8月9日、同社が販売する銀座の分譲マンションの全戸に「LG styler」を日本ではじめて標準導入すると発表した。

同マンションは、働きながら都内に住まう単身者や少人数世帯をターゲットにしている。「LG Styler」が自宅にあれば、衣服をクリーニングに出しに行く手間と費用が軽減され、家事にかける時間が減るという。

日本で徐々に広がる家事代行、ベビーシッターサービス

家事の負担を減らすための方法は、新しい家電の導入だけではない。これまで日本では「家事は専業主婦が全てこなすものである」という考え方が強く支持されており、海外のように一般家庭がハウスキーパーを利用するなど、家事をアウトソースするという考えはあたかも邪道のように捉えられてきた。

昨今、家事代行サービスは、認知度も上がり利用者数も増加傾向にある。野村総合研究所の調査で、2011年時点で300億円だった家事代行サービスの市場規模は今後、約6倍の1,720億円まで膨らむとの試算も出ている。

DMMおかんタスカジなど、1時間1500円から、オンラインで依頼できる家事代行サービスが普及し始めてきた。スマートシッターキッズラインなど、ベビーシッターをオンラインで安価に頼めるサービスの認知も広がっている。

東京都では、今年度より家事代行サービス活用に取り組む中小企業に助成金を支給する「家事サービスを活用した両立支援推進サービス」をスタートした。クラウド家事代行サービス「CaSy」は2017年6月より、企業向けの福利厚生プランをスタート。従業員の家事負担をなくすことにより生産性を向上させたい企業が対象だ。

家事や育児をアウトソースすることで、共働き世帯の女性の負担を軽減し、女性の可処分時間を増やし、ワークライフバランスを整えようという流れは加速している。

家事は“趣味“のように楽しむ世の中になる?

料理が好きで、洗濯は嫌いな人がいれば、その逆の人もいる。好きな家事は自分でこなし、嫌いな家事は代行サービスに依頼すればいい。何もかも自分でやる必要もなければ、何もかもアウトソースする必要もない。

重要なのは、家事をするかどうかを自分で選べる時代が到来するということだ。全ての家事をアウトソースして、その分の時間を仕事や趣味に費やしてもいいし、好きな家事は自分で行ってもいい。本来やらなくてもいい作業を、好きだから、やりたいからという理由で行うのは、“趣味“に近い。

「誰かが掃除や洗濯や料理を代わってくれたら楽なのに」

そう思ってきた人は多いだろう。家事における悩みを解決するテクノロジーが発達し、家事の領域でもイノベーションが起きてきている。今も、家事の負担を減らす製品やサービスは着実に成長を続けている。

未来にも「家事」が残り続けるとしたら、趣味のような位置づけとしてになるのではないだろうか。

img : LG Styler, Catt Liu