ドローン市場に関して欧米や日本など先進国の情報が多く発信されている一方で、アジアやアフリカの新興諸国でも見逃せない展開が多く起こっている。
前回はシンガポールで9月6〜7日に開催されたドローン展を中心に、同国の最新ドローン事情をお伝えした。今回は、シンガポールの隣国インドネシアや他の新興国の最新ドローン事情を紹介したい。
交通インフラや所得レベルなどさまざまな条件が異なる環境下で、ドローンも独自の活用方法が編み出されている。新興国発のイノベーションが先進国で受容される「リバースイノベーション」につながる可能性もあるので注目したいところだ。
新興国ドローン普及で重要な役割を果たす開発支援グループ
シンガポールで9月6~7日に開催されたテックイベント「TECHX Asia 2017」。その一環で催された「ドローン&ロボティクス」部門のプレゼンでは、インドネシアなど新興諸国で活動するひとびとからドローン活用に関する最新情報が共有された。
先端テクノロジー活用によって新興諸国の開発支援に従事する組織「The Development Cafe」のバレンティン・ガンディー氏は、インドネシアやケニアでの活動を紹介。現在、インドネシアでは農村支援のためにドローンを活用した精密農業を取り入れる取り組みを行っているという。
インドネシアは人口2億6000万人と世界4位の人口規模を誇るが、その多くが依然として農村部での貧困生活を余儀なくされているといわれている。首都ジャカルタは比較的近代化が進んだ都市だが、農村部においては近代化が進んでおらず、非効率な農作業によってコストがかさみ、収入増につなげられていない。インドネシアはコメの生産量で世界3位であるが、国内需要を賄いきれず、毎年輸入せざるを得ない状況だ。
The Development Cafeは、農村部でドローンを活用した精密農業のノウハウを地元住民に伝え、生産性の向上を促している。インドネシアの農地面積は国土の4分の1を占めるとされ、その広さは日本の農地面積の10倍以上。ドローンや他の機械を導入することで、農業生産性の大幅な改善が見込める。
新興諸国の農業分野は市場規模という観点から見ると、ドローンビジネスプレーヤーにとっても注目すべきフィールドだ。The Development Cafeが関わるアジア・アフリカの農村地域だけでも非常に多くのコミュニティがあり、それらが潜在的な顧客になる可能性があるということだ。ガンディー氏によると、現時点ですでに中〜大規模な農家はドローンサービスに興味を持ち本格導入するケースや、資金力が乏しい個人・零細農家であっても複数人で協力しながら、ドローンサービスを導入しコスト削減に取り組もうとしているケースもあるようだ。また、広大な土地を持つ国であれば、現地でのオペレーションで、多くのデータを収集することも可能だ。それらのデータから得られたインサイトが、先進国でも活用できることが分かれば、リバースイノベーションのような流れが起こることも考えられる。
続いて「ドローン&ロボティクス」部門のプレゼンに登壇したのは、Humanitarian OpenStreetMap Team(HOT)インドネシアのプロジェクト・マネジャー、ヤンティサ・アクハディ氏。HOTはオープンソースとデータを活用することで、人道支援や開発支援における効率改善・コスト削減を推進する組織だ。
日本に住んでいると想像しにくいかもしれないが、新興国では地図が整備されていないケースは珍しくない。災害時にどこに避難するのか、どこが被害を受けたのか、といった情報を得ることができず大きな課題となっている。そこでHOTは、地域コミュニティの地図データの精緻化を進め、救援物資運搬の効率化や災害時における救出支援の効率化に取り組んでいる。
アクハディ氏によると、HOTインドネシアは地元住民からの情報とドローンなどを使ったアナログとデジタルを融合させた手法で、地域コミュニティの地図の精緻化を進め、2011年から現在まで国内860万戸の建物をデジタル地図に記録することに成功したという。もともと人手で行っていた作業だが、ドローンの登場によって作業効率は飛躍的に高まったという。こうのような地図データは災害時だけでなく、農地開発を含めた地域経済発展のための取り組みにも活用できる。今後もさらにインドネシア国内の地図データをまとめていく計画だ。
アジア・アフリカ新興国では「開発」視点のドローン導入
このように新興国では新興国ならではの課題をドローンを含む先端テクノロジーを使って解決しようとする取り組みが増えつつある。新興国発のスタートアップが絡むプロジェクトもあれば、先進国のドローン企業が試験的に実施するものなどさまざまだ。
ただ新興国のドローンプロジェクトでは、The Development CafeやHOTのような開発支援組織がプロジェクト調整の立ち位置にいるのが特徴的だ。開発支援組織は、もともと地域コミュニティに溶け込み、そのニーズを把握している場合が多い。また地元政府機関とも連携をとっており、ドローン飛行に関する特別許可を得やすいポジジョンにいる。こうした理由から、ドローンサービスと地域コミュニティのニーズをマッチさせることが可能となるのだ。
今後は世界銀行など資金力を持つ国際開発機関が新興国でのドローン導入を推進し始めることも考えられる。そうなれば新興国側もドローン普及に向けて規制緩和に乗り出し、さまざまなドローン企業が集まるフロンティアのような場所になっていく可能性も出てくるだろう。実際、ルワンダがそのような立ち位置を表明しており、ドローンによる緊急メディカルデリバリーを導入するなどしている。先進国に比べ交通インフラが整っていない新興国。だからこそ交通インフラに制約を受けないドローンが本領を発揮するのかもしれない。アジア・アフリカ新興諸国におけるドローンの進化に注目していきたい。