2030年には約49億人が「都市」で暮らすようになる──そんな予測が出るほどに、世界規模で都市への人口集中が進行している。都市化に伴う大きな課題の一つが交通渋滞だ。渋滞の慢性化によって人々の移動が滞れば、都市における生活の質や経済にも悪影響が及ぶ。
都市における交通インフラの有り様を見直す動きとともに、車に代わって近距離を効率的に移動する手段への需要が高まっている。
世界で拡大するバイクシェアリング
最寄駅から目的地までを指す「last mile (ラストワンマイル)」の移動を補う手段として、近年広がりをみせるのがバイクシェアリングだ。
バイクシェアリングの成長が最も著しい中国では、主要なバイクシェアリングサービスで利用される自転車の台数は一日1,200万台に上る。また、米国でもシェアされる自転車の合計台数は2010年の1,600台から2016年には42,000台にまで増加した。
日本では、77都市でシェアバイクを導入しており(2016年時点)、平均すると数百台が設置されているという。行政を中心に導入が推進されているが、米国や中国に比べると発展途上といえるだろう。
しかし、今年に入って中国から新たな波が訪れている。7月に日本法人を設立した大手バイクシェアリングサービス「Mobike(モバイク)」につづき、「ofo(オッフォ)」が日本でのサービス開始を発表したのだ。
Mobikeと覇権を争うバイクシェアリングサービス「ofo」
ofoは中国でMobikeに並ぶ大手のバイクシェアリングサービス。2014年に北京で設立され、すでに世界170都市に進出、1日の利用回数は2500万回を超えている。「ソフトバンク C&S」と協業し、2017年9月以降から東京、大阪でサービスを展開していく予定だという。
ofoでは専用アプリを使って自転車の借り受けと返却を行う。以前までは車体にアナログ式の鍵が備え付けられていたが、近年はGPS機能を搭載したスマートロック付きの車体が登場したことで、車体のQRコードを読み込み、アプリで通知される四桁のコードを入力すれば解錠できるようになった。
アプリからは空き自転車の検索も可能だ。特定の駐輪場は設置されておらず、ユーザーはどこでも乗り捨てられる。
一足先に札幌でサービスを開始したMobikeは、本国のような乗り捨ては行わず、セイコーマートなど地元の小売店を駐輪場として利用した。ofoは日本におけるサービス内容の詳細は明らかにしていないが、Mobikeと同様に自治体との連携は不可欠になるだろう。
通信キャリアがバイクシェアリングサービスに取り組む
日本ではソフトバンクと同じく大手通信キャリアのNTTドコモが『ドコモ・バイクシェア』を、東京や横浜、仙台など4つの都市で展開している。
同サービスでは使用する車体にGPS機能が搭載されており、ユーザーはスマホから車体の予約も可能。支払いにはおサイフケータイや交通系ICカードを利用できる。
同社の強みである安定したインフラと技術力を活かし、事業者向けにバイクシェアリングシステムの提供も行う。蓄積した移動データを用いた「新たな付加価値サービスの創出」も視野に入れているという。
Mobikeやofoも中国国内でデータを駆使した交通網の最適化に積極的だ。彼らが日本で強力なプレイヤーとなっていけば、いずれデータの活用にも乗り出していくのかもしれない。
最近ではITベンチャー企業の参入が相次いでいる。先日には株式会社メルカリがバイクシェアリング事業「メルチャリ」を2018年初頭に開始予定だと発表。すでに大きな顧客基盤を有するフリマアプリ「メルカリ」との連携は大きな強みだろう。
さらに「株式会社DMM.com」も2017年末から2018年初頭にかけて、シェアサイクル事業「DMM sharebike(仮)」ローンチを検討していると発表した。外国人観光客の増加に向けて「新たな交通インフラ綱を創造」したいと展望を述べている。
中国でバイクシェアリングが拡大した理由の一つに、自転車の検索、解錠、決済まで全てスマホで完結する利便性の高さが挙げられる。中国に比べてスマホ決済が普及していない日本国内では、決済の仕組みをいかに便利かつわかりやすく設計できるかが鍵となるだろう。
電動スクーターにキックスクーター、ラストワンマイルを支える新たな交通手段
ラストワンマイルを支える新たなモビリティサービスはバイクシェアリングだけではない。例えばBOSCHは、2016年より電動スクーターのシェアリングサービス「COUP」を運営。他にもカナダ発の「Loop」は沖縄県で実証実験も行なっている。
またロシアの「Samocat」は、日本でも馴染み深いキックボードのシェアリングサービス。自転車よりもコンパクトで持ち運びも容易な移動手段として注目を集めている。ベルリンやブリュッセル、パリでサービスを展開しており、今夏にはフィンランドにも進出予定だ。
今後もラストワンマイルを補う交通手段へのニーズは高まっていくだろう。さらに日本では、高齢化や人口減少に直面する地域において、バイクシェアリングが多様な交通サービスを後押しする手段として位置づけられている。
Mobikeやofoといった中国勢は、日本においてもバイクシェアリングを爆発的に普及させることができるのか。進出の結果はどうあれ、これから国内における交通のあり方を語る上で、2017年が大きな転換点となるのは間違いないだろう。
img : ofo、ドコモ・バイクシェア、メルチャリ、Samocat