テラドローンなどの国内ドローンスタートアップやドローンファンドの登場で、加速し始めている日本のドローン市場。一方で、「スマート国家」構想を掲げるシンガポールやその隣国のインドネシアなどでもドローン市場は独自の発展を遂げようとしている。
今回は、シンガポールで9月6〜7日に開催されたドローン展を中心に、シンガポールと隣国におけるドローン市場の最新動向を前編・後編の2回にわたってお伝えしたい。
前編では、シンガポールにおけるドローン最新事情をお伝えする。
アジアのドローン展に異変?
2015年、2016年と続けて開催されてきた東南アジア最大級のドローンイベント「Commercial UAV Show Asia」。今年も楽しみにしていたイベントであるが、今回は「TECHX Asia 2017」というイベントに吸収される形で開催された。
「TECHX Asia 2017」は、デジタルテクノロジー全体を網羅しながら、それらのテクノロジーと産業の関わりについての最新動向を知ることのできるイベントといっていいだろう。製造業、公共サービス、ロジスティクス、交通、都市などの分野におけるデジタルテクノロジーの活用事例が紹介され、またIoT、ロボティクス、3Dプリントなどテクノロジー別の切り口でも最新動向が紹介されていた。
ドローンは人工知能やブロックチェーンなどと並びテクノロジー分野の1カテゴリーとして設定されており、2015年、2016年の「Commercial UAV Show Asia」と比べ、ドローンに対する認知が変化していることを物語っていた。
Commercial UAV Show Asia 2016の様子 コンシューマ向けドローンYuneec
2015年、2016年のイベントでは、コンシューマー向けドローンが大々的に展示され、ドローンメーカー最大手DJIやYuneec、そしてParrotなどが注目を集める存在だった。一方、今年のイベントではこれらのコンシューマ向けドローンを主力とするメーカーは皆無だった。今年はドローンのLTE通信制御や画像解析ソフトウェアなど、ハードウェアではなくソフトウェア寄りのドローン関連テクノロジーの展示が多かった印象だ。
「TECHX Asia 2017」LTEを活用することで長距離フライトを可能にするGlobe UAVドローン
ドローンに関する基礎的な情報は広く知れ渡り、次のステップとして他のテクノロジーとともにドローンをどのように活用していくべきなのか、という認識が強くなっていることが反映されたイベントだったといえる。シンガポールでは以前から政府主導でドローン活用の取り組みが進められてきた背景があり、それが市場の認識に影響を与えているのかもしれない。次のセクションでは、シンガポール政府によるドローン関連取り組みについて概観してみたい。
TECHX ASIA 2017の様子 さまざまな産業における先端テクノロジー活用の最新情報が紹介された
政府主導でドローン導入の取り組み加速するシンガポール
シンガポール政府は、2014〜2015年頃からすでにドローン活用について模索し始めていた。たとえば、シンガポール市民防衛庁による消防活動におけるドローン利用の有用性実験計画や環境水資源省による蚊の生息域調査でのドローン活用計画などが挙げられる。また、情報通信開発庁(現:情報通信メディア開発庁)は2015年に国内郵便会社シングポストと共同で、離島へのドローン郵送実験を実施し、世界で初めて成功させている。
政府によるドローン導入の取り組みは2017年に入ってさらに加速している印象だ。
シンガポール運輸省は3月、同国で人間が乗ることのできるドローンを「空飛ぶタクシー」として利用する実証実験を行う計画を明らかにした。すでにそのようなドローンを開発している企業数社と交渉しているともいわれている。同国の交通産業は、狭い土地と労働力において大きな制約を抱えているため、それらの制約を受けない「自動運転空中タクシー」のようなソリューションが必要とされているようだ。
また、シングポストは4月に欧州航空大手エアバスと提携し、ドローンによる配達実験をさらに進める計画を明らかにしている。この実験では、離島ではなく都市部上空での飛行も含まれるとされており、安全性の実証など実験結果次第では、シンガポール都市部におけるドローン飛行の規制緩和が一気に進む可能性もあると期待されている。
さらに5月シンガポール政府は、ドローン規制に関する国際組織「無人航空システム(UAS)アドバイザリー・グループ」に加入。同組織は、米国、フランス、中国など国家だけでなく、国際パイロット団体などが加盟しており、ドローン宅配サービスや空飛ぶタクシーが普及することを念頭におき国際的な枠組み作りを目指す団体だ。
シンガポールがここまでドローン導入に熱心なのは、同国が掲げる「スマート国家」構想をいち早く実現したいという思いが強まっているからかもしれない。
「スマート国家」は2014年に発表された構想。社会の隅々に先端テクノロジーを導入し、生活をより便利にしようというもの。先端テクノロジーが普及しやすい環境を整えることで、海外から優秀な人材を集め、さらには投資資金や企業誘致などにもつなげたい考えだ。シンガポールは少子高齢化に直面しており、海外人材の獲得は喫緊の課題となっている。しかし、エストニアなど若い優秀人材を魅了する新興国家が続々出てきているため、海外に向けて国家主導で先端テクノロジー導入にコミットする姿勢をアピールする必要性が高まっているとも考えられる。
そのコミットする姿勢は、今年の独立記念日に開催されたナショナル・デー・パレード(NDP)にも見てとることができる。毎年8月9日に開催されるNDP。今年は、中心部マリーナ地区にある浮遊式ステージ「ザ・フロート@マリーナベイ」で開催された。
今年のNDPの目玉が、300台のドローンを使ったドローンショーだったのだ。以前お伝えしたことのあるIntelのドローンスワームだ。LEDの光をまとった300台のドローンが夜空でシンガポールの象徴「マーライオン」などさまざまな形に姿を変え、多くの観客を魅了した。
NDPで実施されたドローン300台を使ったショー
NDPは、現地での参加者とテレビ視聴者を含めると国民のほとんどが参加・視聴する同国最大級の国家行事。また、ネットメディアなどを通じて海外にも広く発信されている。そのような国家行事でのドローンショー実施は、同国が先端テクノロジーに本気で取り組み、さらには「スマート国家」構想をさらに力強く推進しようとするメッセージと受け取ってもよいのではないだろうか。