人と人の相性を測ることが難しいように、人と企業の相性を測ることは難しい。

人と企業の相性を測らなければいけない領域のひとつに、企業における採用活動がある。採用活動では、求職者がその企業にフィットしているのかどうかを測らなければいけないが、その中には企業風土やスキルなど、様々な構成要素がある。

企業の人材育成や採用活動、人事評価などの人事業務をテクノロジーの活用によって変える動きを「HR Tech」と呼ぶ。同領域の中でも、人と企業の相性を測ることに挑戦しているスタートアップが存在する。

採用時にスキルや性格特性を測定するサービスの登場

リクルートワークス研究所が2017年8月に発表した研究レポート「世界の人事が注目する28のHRテクノロジー」では、「HR Tech」領域のサービスを28に分類して紹介している。

28の分類のなかでも、採用候補者の心理や性格特性を測定する「Psychometic Assesment」や、プログラミングなど職種特定のスキルを測定する「Skill Assesment」などは、人と企業の相性を測るために重要な項目だ。

「Psychometic Assesment」の領域では、求職者の仕事上のパフォーマンスに関わる注意力や、やる気といった特性をロールプレイングゲーム(RPG)形式で測ることができる「Persona labs」、スマホアプリで2択クイズに答えることで、求職者の性格にマッチする企業を提案してくれる「GOOD & CO」のようなサービスがある。

「Skill Assesment」では、プログラミングスキルの測定やトレーニングができる「TrueAbility」や、事務、HR、マーケティング、営業、IT、法律、財務などの多岐にわたる職種のスキル別に100種類以上のテストを提供する「Wellhire」などのサービスがある。

これらのサービスを活用すれば、人と企業の相性を測り、マッチングの精度を高めることができる。

求人検索サービス「Indeed」がスキルアセスメントツールを獲得

人と企業の相性の中でも、スキル面での相性はとても大切だ。いざ求職者を採用したとしても、その人が就くポジションに対してスキルが不足していれば、業務を円滑に進めることが難しくなる。

スキル面での相性を測るためには、求人を出す際にどのようなスキルセットの人材を求めているのかを言語化すること。そして、求職者のスキルがそのポジションに対して適切かを見極める必要がある。

人と企業の相性をスキル面で測ろうとするスキルアセスメントの領域で、大きな動きがあった。

2017年8月にリクルートの子会社Indeedが、採用プロセスにおけるスキル評価をオンラインで行える「Interviewed」を提供するPrehireを買収したのだ。

「Indeed」は毎月2億人以上がアクセスする求人情報検索プラットフォーム。オンライン採用全体の58パーセントは「Indeed」から生まれているというデータもあるように、世界中の求人情報を網羅し、人と企業が出会う機会を提供している。

Indeedが買収したPrehireは、2015年にサンフランシスコで設立されたスタートアップだ。2015年に200万ドル(約2億1,800万円)のシードラウンド調達を実施しており、IndeedもPrehireの初期フェーズで投資を行っている。

Prehireが提供する採用アセスメントサービス「Interviewed」は、プログラミングテスト、職業技能テスト、語学スキル、パーソナリティなどをオンラインで評価できるツールだ。

ジョブスキルテストには、教育、保険、製造業などの産業ごとの分類と、会計、営業、翻訳などの職業の種別ごとの分類によって、異なるテストが用意されている。職種ごとに測るべきスキルの項目が細かくカスタマイズされており、テストの中には実務に近いシミュレーションを通じてスキルを計測するものもある。

同サービスを活用すれば、求人への応募時に実務体験のシミュレーションができるため、求職者の応募職種への正しい理解を促すことができる。求人企業はシミュレーションを通じて、求職者の資格や能力などを知ることで、マッチングの精度が高まることが見込まれる。

Indeedで代表を務めるChris Hyams(クリス・ハイアムズ)氏は次のように語っている

「今回取得した『Interviewed』は、テクノロジーを活用したアセスメントサービスを提供しています。求職者が遠隔にいながらも自分自身のスキルをアピールすることを可能にすると同時に、求人企業に対しても、数多くの求職者の中から最適な人材をスピーディーかつ簡単に判別することを可能にします」

遠隔地にいる求職者のスキル面での評価が可能になれば、世界各地にスタッフがいるような企業や、リモートワークを導入している企業でも、採用プロセスの効率化が期待できるだろう。

採用の入り口からプロセスまでをカバーする「Indeed」

Indeedが買収を通じて自社サービスの強化に取り組む背景には、Googleが求人検索の領域に参入したことが影響しているだろう。

2017年5月にGoogleが求人情報検索サービス「Google for Jobs」をリリースした。機械学習とAIに関する知見を活用し、人と企業のマッチング精度を高めていくという。Googleという巨大プレイヤーの求人検索市場への参入に対して、Chris Hyams氏は「競争を歓迎する」と語っている

Googleとの競争に勝つためにも、自社サービスを継続的に改善していくことは重要だ。Indeedは求人情報検索の領域から、求職者のスキルアセスメントの領域まで手を広げることで、企業側の求職者対応を効率化する。

Indeedのサービス内に「Interviewed」が組み込まれれば、採用の入り口からプロセスまで、一貫してIndeedがサービスを提供できるようになる。求職者を集めるだけではなく、そのスクリーニングまでできるようになることは、Google for Jobsとサービスを差別化する上で重要になる。

「Interviewed」のようなサービスを活用すれば、人と企業のミスマッチは減っていくだろう。その企業に合う人が集まれば、離職率も下がり、企業文化も強いものに変わっていくはず。その一方で、組織の同質化が進み、多様性が損なわれる可能性も出てくる。もしかすると、“カオス“すらも組織の中に意図的に組み込めるようになっていくのかもしれないが。

img : Indeed