2016年、アメリカの家電見本市「CES」にて、Fordの元CEO Mark Fields(マーク・フィールズ)氏が語ったのは、自動車業界が「自動車を所有しない」時代を目前にしているという認識だった。

同氏退任後に、FordのCEOに就任したJames Hackett(ジェームス・ハケット)氏は、Fordが2017年中に公共交通のライドシェア事業に参入することを発表。前任者の意志を引き継いでいる。

Fordが2016年に買収した乗り合いバスサービス「Chariot」の全米展開を急速に進めていることからも、自動車業界が「自動車を所有しない」時代に向けて動いていることがわかる。

自動車メーカー各社がアプリやサービス開発に乗り出す

各自動車メーカーは「自動車サービス」企業への脱皮を果たそうとして、自動車関連のサービスやアプリに注力している。

たとえば、BMWの「ParkNow」やFordの「FordPass」はユーザーが自分の現在地の近くの駐車場を見つけ、予約や支払いまでワンストップで行うことができるサービスだ。BMWによる「ChargeNow」はスマートフォンアプリを通じて近くの充電スタンドを検索して、自動車を充電できる会員制の公共充電ステーション利用サービスだ。

自動車メーカーによるソフトウェア開発が盛り上がりを見せる中、メルセデス・ベンツを展開するドイツの大手自動車メーカー・ダイムラーも、子会社moovelから意欲的なアプリをリリースしている。

ダイムラーはこれまで乗り捨て型のカーシェアリングサービス「car2go」や、タクシー配車プラットフォーム「mytaxi」を買収するなど、自動車の製造や販売以外の領域に積極的に取り組んできた。「moovel」は、これまでの取り組みが結実したものとして期待されている。

めまぐるしく変化する「都市の正しい移動法」を知る

「moovel」を一言で表現するならば、「Google マップ」をさらに進化させたアプリケーションだ。

「moovel」を利用すると「Google マップ」をベースとした地図上で、目的地へのルートを検索し、提示してくれる。ルート表示の際に、公共交通機関(バス、電車、地下鉄、ライトレール、路面電車等)と、同社が買収したカーシェアリングサービス「car2go」や、タクシー配車サービス「mytaxi」をシームレスに繋げることで、都市における最適な移動方法を発見できる。発見した後は、配車の依頼も可能だ。

同アプリは「Uber」とのパートナー契約も実現している。タクシーの配車を依頼する際には「mytaxi」と「Uber」から選択が可能だ。「moovel」を活用すれば、公共交通機関や自動車といった移動手段を組み合わせて、スムーズに移動ができる。

最新のリアルタイムデータを利用することで、公共交通機関の発着時間のアップデートや、降車タイミングをプッシュ通知で知らせてくれる。都市における日常的な課題を解決してくれそうな機能が、しっかりと搭載されている印象だ。

「moovel」は日本での利用には現時点では対応していない。対応地域は ボストン、ポートランド、マドリッド、シドニー、メルボルンなどの世界各国の都市部に限定されている。

都市交通の課題「ラストワンマイル」の解消なるか?

「moovel」は提携先企業が少なく、対応エリアも狭い。まだ開発途上だ。だが、注目に値する可能性がある。

「moovel」を活用することで、都市交通が一元化される可能性がある。一元化されれば、都市交通における最終公共交通機関と目的地との間の数km――「ラストワンマイル」の解消につながるのではないか。

「たった数kmならば歩いてしまえばいい」という考え方もあるだろう。よほどの悪天候でない限りは、徒歩で移動したほうが健康的でもある。「ラストワンマイル」の解消が最大の効果をもたらすのは、高齢者や子育て世代、車いす利用者等の「移動制約者」だ。

日本においては内閣府資料に「わが国では総人口の約1/4が広義の交通制約者であると考えられる」という記載もある通り、今後の高齢化社会の進行や、東京オリンピックの開催に向けて「ラストワンマイル」は、非常に大きな課題となっている。

こうしたソフトウェアと様々な交通サービスの統合による都市交通の一元化。そして超小型モビリティや自動運転技術の組み合わせが、安全かつ環境にも優しい未来の交通を実現するだろう。

img: moovel