ここのところよく目にするようになった「USB Type-C」(以下、Type-C)。USBの新しい規格だということは多くの人が理解していることだろう。最も分かりやすい利点として挙げられるのが端子の形状だ。長年に渡りPC周りの主流端子として君臨してきたUSB(厳密にはUSB Type-A。以下、Type-A)は、外形こそ長方形だが、内部は半分に分かれていて、一方は深くもう一方は浅くなっている。これにより、向きを間違えると挿せないという不満があった。これは、Androidスマホに多く採用されているType-Aを小型化したmicroUSB(端子が台形)でも同じだ。その点、向きを気にせず挿せるType-Cは、日常の小さな不満を解消してくれている。

「Typ-C」のジャック。上下がなく、どの方向からも挿せる

Type-Cの利点は形状だけではない。Type-Aと比べかなり小型になったにも関わらず、給電性能が大幅に向上しているのだ。加えて映像データも送れる。データの転送速度も最大10Gbpsと、Type-Aで最も速かったUSB3.0規格の最大5Gbpsの2倍になっている。そしてType-Aとの互換性も確保されている。Type-Aのものでも変換アダプタを使えばType-Cとして使えるようになっているので、切り替え期には助かる仕様だ。

これだけの利点があるからこそ、急速に普及は進んでいる。そんなType-Cの利点を世に知らしめたのは、2015年に発売された「新しいMacBook」だろう。薄くシンプルなボディに備える端子はType-C(Appleの場合はUSB-Cと呼称)ひとつのみ。これで電源から映像出力、外付けHDDやUSBメモリといった周辺機器との接続などをまかなう。Wi-FiやBluetoothなど、これまでケーブルに縛られていたものが次々とワイヤレス化していく中で、次世代のPC周りはケーブル1本で十分だよね、というAppleらしいメッセージを感じられる仕様だ。

「新しいMacBook」を皮切りに、ノートPCでも特にモバイル向けの薄型モデルはType-C端子を備えるものが一気に増え、その波はスマホにもおよんでいる。2017年に入り、サムスン「Galaxy S8」、ソニーモバイル「Xperia XZ」、シャープ「AQUOS R」、HTC「U11」といった各社のハイスペックモデルは軒並み、それまで採用していたmicroUSBからType-Cに切り替わっている。これらのことからも、次世代の端子の主流はType-Cであることは間違いないと言えるだろう。

 

Type-CとPowerDelivery(給電機能)は実は別物

とはいえ課題も山積みだ。そのひとつが複雑な規格内容。ひとくちにUSB Type-Cと言っても実は仕様によって細かく分類されている。

まずは転送速度の違いだ。端子形状は同じType-Cであっても、実は中身はType-AにもあるUSB3.0の場合がある。これはUSB Type-C(Gen 1)となり、最大転送速度は5Gbpsだ。このUSB3.0をバージョンアップさせたものがUSB3.1で、USB Type-C(Gen 2)となる。最大転送速度が10Gbpsとなり、この規格はType-Cだけのものだ。そしてここにThenderbolt 3対応が加わる。Thenderboltという規格はIntelとAppleが共同開発した高速データ転送技術で、その最新バージョンがThunderbolt 3となる。最大転送速度は40Gbps。この技術が搭載されたType-C製品は、Thunderbold 3対応と書かれることが多い。当然ながらケーブルだけでなく端末などつなぐ側が対応していることが必要だ。

さらに給電機能についても、実は問題が残されている。Type-Cでは、USB3.1の場合で最大100W(20V/5A)まで給電が可能で、USB3.0の4.5W(5V/900mA)から大幅にスペックアップしている。ちなみにノートPCを動かすためにはスマホやタブレットより大きな電気が必要で、例えばMacの場合、最も小型の「MacBook」の場合は29WのACアダプタが付属する。MacBook Airは45W、MacBook Pro(13インチ)は60W、MacBook Pro(15インチ)は85Wといった具合に、よりパワーのあるモデルになるほど、大容量対応のACアダプタが付属する。それでもUSB3.1は100Wまで給電可能なので大丈夫ではないかと思われがちだが、そこに落とし穴が隠れている。

Type-Cで給電する場合は、PowerDelivery(略称:PD)という機能を使用することになる。このPDが問題なのだ。PC周辺機器メーカー、アイ・オー・データ機器、事業戦略本部 企画開発部の四尾真尋氏は、PDの規格がまだ固まっていないことが普及のネックになっていると話す。「現在、PDの最新規格は3.0です。この3.0でもPDのパワールール最大となるプロファイル5(12V/5A 100W)に対応することになっているのですが、まだ規格が正式に固まっていないんです。そのため、いま発売されているType-C製品も5V3A 15Wのものしか存在していません。これによってPD対応製品の普及が遅れているんです」とのこと。多くのノートPCは、45W程度の電流が必要だが、まだPD自体がそこまで対応できていないというのだ。

 

Type-Cがメイン規格となる時期は果たしていつになるのか

このように現在も発展段階といえるType-Cだが、やはり端子の向きや表裏を気にせず挿せる点や、将来的にはスマホもノートPCも同じケーブルで電源を取れるようになること、手軽に4Kなどの大容量映像を出力できることなど利点は数多い。各種端末にも備わり始めていることからも、今後の流れはType-Cであることは間違いない。

アイ・オー・データ機器の四尾氏は、あるひとつのタイミングがポイントだと話す。それがiPhoneだ。「実は2年ほど前から、iPhoneの端子がLightningからType-Cに変わるんじゃないかと言われ続けているんです。現状はまだですが、そうなると急速充電も可能となり、PD対応製品の普及も進むはずなので、あらゆるジャンルの端末で、端子がType-Cに変わるかもしれないですね」 

Type-Cが名実ともに端子規格のメインストリームとなる鍵は、世界で最も売れている端末iPhone次第なのかもしれない。