過渡期を迎えるNetflix。「オリジナル作品」はオンデマンド動画配信を救うか?

NetflixやHulu、Amazonプライム・ビデオなど、サブスクリプション型の動画配信サービスを選ぶ上で、視聴できる作品を比較した人は多いのではないだろうか。

作品数以外にも比較検討の軸は存在している。各社も競合より魅力的に映るべく、「オリジナル作品」の制作にしのぎを削っている。 

オリジナル作品が差別化の鍵

その筆頭がNetflixだ。同社は2013年に初のオリジナル作品『House of Cards(邦題:ハウス・オブ・カード 野望の階段)』を公開。

完成度の高さや「Binge-watching(ビンジ・ウォッチング、数日間でイッキ見すること)」を前提とした全話同時配信は、新たなコンテンツ消費の到来を予感させた。

同作品はテレビ界のアカデミー賞とも言われるエミー賞を獲得。オンライン上で公開されたドラマとしては初の快挙だった。

2013年以降も著名なクリエイターの手がけるNetflixオリジナル作品は注目を集め、エミー賞やゴールデングローブ賞にも多数ノミネートされてきた。

2017年に同社がオリジナル作品に投じる額は60億ドルと、Amazonプライムビデオの45億ドルを大きく引き離す。さらに今年の4月にはアメリカ国外から1億ユーロを調達すると発表、国外でのオリジナル作品制作に投資する予定だという。

ゴールデン・グローブ賞を獲得した喜びを語るハウス・オブ・カードの主演俳優Kevin Spacey氏

Netflixオリジナル作品は何が特別だったのか

Netflixのオリジナル作品が抜きん出ていた理由の一つは、ユーザーから収集する膨大な視聴データの活用だ。一時停止や巻き戻し、早送りのタイミングなど、ユーザーの視聴行動に関する情報はヒット作を生み出す上で強力な手掛かりとなる。

同社のチーフ・コミュニケーション・オフィサーを務めるJonathan Friedland氏は、ハウス・オブ・カードについて「ユーザーから直接収集するフィードバックによって、同作品が支持を得るという確信を持てた」と述べていた

細かなデータ分析とは裏腹に、Netflixは制作にほとんど関与せずクリエイターに裁量を与える姿勢を貫いてきた。ハウス・オブ・カードの監督を務めたDavid Fincher氏も「信じられないほどクリエイターを尊重してくれた」と当時を振り返っている

Netflixは『今ここで話していたストーリーでさっそく制作に取り掛かってほしい』とすぐ依頼できる相手を積極的に探していた。これは私が1970年代初頭、ワーナーブラザース社(アメリカ合衆国のエンターテインメント企業)で聞いた映画ビジネスのやり方です。ストーリーを持ち込み、妥当な予算があれば、制作側に任せてしまう形です(筆者翻訳)

アメコミ出版大手Millarworld社がNetflixを選んだ理由

制作における自由度の高さは、クリエイターにとってNetflixをより魅力的な場所にしている。

先日には『キック・アス』や『キングスマン』を生んだアメコミ出版大手のMillarworld社をNetflixが買収すると発表。創立者で人気アメコミ作品の原作者でもあるMark Millar氏は「Netflixこそ未来であり、Millarworldが身を寄せるのにこれ以上の場所はありません」と喜びを語った。

NetflixはMillar氏の古巣でもあるMarvel Studioと共同で『ジェシカ・ジョーンズ』『デアデビル』『ルーク・ケイジ』などのアメコミ作品を提供してきた。今後はMillarworld全面協力のもと、Netlflixブランド下で新たなアメコミシリーズを制作・出版していく予定だという。

今回の買収については2009年のウォルト・ディズニーによるMarvel Studios買収と比較して語られる場面も多い。Netflixはすでに単なるプラットフォーマーではなく、世界規模のコンテンツメーカーとして認識されつつあるようだ。

日本はユーザーの半数が視聴!次なる期待は「アニメ」へ

Netflixはヨーロッパやアジアにサービスを展開すると同時に、各地でオリジナル作品の制作にも取り組んでいる。

もちろん日本も例外ではない。2015年のサービス開始以来、アニメやドラマ、バラエティーなど、日本オリジナル作品を多数公開している。

なかでも同社が注力してきたコンテンツは“アニメ”だ。先日には新作オリジナルアニメのクリエイターや出演者の集う「Netflix Anime Slate 2017」を開催。

挨拶に登壇したプロダクト・チーフ・オフィサーのGreg Peter氏曰く、日本のNetflixユーザーの半数がアニメを視聴しており、Netflix全体におけるアニメの視聴は90%が海外からのアクセスによるという。「質の高い作品を供給しつづければ、国内外でアニメを視聴する人の数は着実に増えるはずだ」とアニメへの期待を覗かせた

同社はヨーロッパにおいても、主に実写のドラマシリーズを中心に、オリジナル作品の制作に積極的だ。2012年から10億ドルを投じ、ヨーロッパ発の独自配信作品やオリジナル作品を90本ほど公開している。

2017年末までには新たに2作品を追加予定。CEOのReed Hastings氏はヨーロッパを「世界中に感動を与える素晴らしい物語の生まれる中心地」と位置づけ、オリジナル作品の制作に投資を続ける方針を明らかにした

しかし、成功ばかりではない…Netflixの未来はこの先にあるか

世界を股にかけて躍進を続けているようにみえるNetflixだが、先日にはウォシャウスキー姉弟による『センス8』、バズ・ラーマン監督による『ゲットダウン』の打ち切りを発表している。

チーフ・コンテンツ・オフィサーのTed Sarandos氏は「我々のビジネスモデルにおいて、オーディエンスの限られた高額な番組を続けるのは簡単ではない」と、オリジナル作品で収益を上げる難しさを認めている

2013年にCEOのReed Hasting氏は、インターネットテレビについて「小規模、あるいは奇抜な番組であっても、時を重ねて多くの視聴者を獲得する作品になり得る」と指摘し、ゴールデンタイムに放送されるドラマとの違いを強調していた。しかし、今回の打ち切りを見るに、テレビでもネットでも十分な視聴者が確保できなければ高品質なコンテンツを制作し続けるのは困難だったということか。

数年前に新たなコンテンツ消費のあり方を提示し、インターネットテレビ時代を切り開いたNetflixは、さらなる成長を遂げる道を模索している。彼らはプラットフォーマーとして最先端を走り、クリエイターにとって理想の環境を提供し続けられるのだろうか。その命運は今後のオリジナル作品に大きくかかっている。

img:NetflixGolden Globes

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