仕事による睡眠不足が常態化しているビジネスパーソンは決して少なくない。厚生労働省の『過労死等防止対策白書』によると、フルタイムで働く正社員の4割以上が、睡眠時間が「足りていない」「どちらかと言えば足りていない」と答えたという。

さらに2015年に同省が20〜70歳を対象した統計では、1日の平均睡眠時間が6〜7時間と回答した人は男性34.4%、女性33.9%と最も高く、6時間未満の割合は2007年から増加傾向だ。また、直近1ヶ月間で睡眠による休養が「十分でない」と答えた人の割合は20%に上った。

OECDが29ヵ国を対象に行った調査においても、日本の睡眠時間は先進国の中でも韓国に次いで2番目に短いことが明らかになっている。

睡眠への意識高まる米国、見直される昼寝の効能

OECDの調査で2番目に睡眠時間の長い米国では、20年近く前から睡眠を重視するムーブメントが続いている

1998年にコーネル大学の社会心理学者James B. Maas氏の『Power Sleep』がベストセラーになると、2000年以降はAmazonのジェフ・ベゾス氏が8時間睡眠を明言するなど、ビジネス界のリーダーがこぞって睡眠を重視する発言をしている。

それに伴い再認識されたのが“昼寝”の効能だ。適度な昼寝が記憶力や思考力に与える影響は複数の調査であきらかになっている。

例えば、ザールラント大学による2015年の研究では、被験者にランダムな単語のペアを記憶させてテストを実施した後で、半分は昼寝を、残り半分はDVDを視聴してから再度テストを行った。すると昼寝をしたグループは1回目とほぼ同様の成績で、後者のグループを大きく上回っていたという。

さらに、ミシガン大学が2015年にまとめた研究では、昼寝が感情のコントロールにおいても有益だという傾向もみられた。昼寝をした人はストレスのかかる作業に対する耐性が、しなかった人に比べて優れていたそうだ。

昼寝が脳機能に与えるポジティブな影響が広く知られるようになると、パフォーマンス向上のために行う短い昼寝「パワーナップ(Power Nap)」という新たな考え方も登場。GoogleやNIKE、PwCなど、トップ企業においても昼寝を推奨する動きが進んだ。

Googleは睡眠用ポッド「EnergyPod」をオフィスに導入している

さらにパワーナップは進化を続け、最近では「コーヒーナップ」という昼寝のスタイルも生まれている。従来、コーヒーを含むカフェイン入りの飲料は睡眠に相反すると思われてきた。

しかし、入眠前にコーヒーを摂取してから15分程度の昼寝をすると、眠気が解消されたという研究結果もあるなど、注目が集まっている。

「ネスカフェ×全日本ベッド工業会 睡眠カフェ」

そんな最先端の昼寝を体験できる場所「睡眠カフェ」が、東京・銀座に期間限定で登場した。ネスレ日本と全日本ベッド工業会の共催で、8月31日から9月9日までオープンする。

カフェ店内では、ネスレブランドのコーヒーと複数の寝具メーカー選りすぐりのマットレスで、良質な眠りを体験できる。

ビルのワンフロアーに設けられたカフェ内には、最新のマットレスがずらりと並ぶ

睡眠カフェの提供するコースは2種類。500円で最長3時間ベッドで眠れる「ぐっすりコース」、200円で最長30分間イスに座って仮眠を取る「お昼寝コース」だ。

「ぐっすりコース」ではカフェインが含まれていないコーヒーを飲み、全日本ベッド工業会の提供するマットレスを堪能できる。起きた後は頭をすっきりさせるために、カフェイン入りのコーヒーを飲む。

「お昼寝コース」はコーヒーナップを実践するコースだ。眠る前にカフェイン入りのコーヒーを飲み、椅子に座ってドーナツ型のクッションに伏して仮眠を取る。

ネスレ日本株式会社アシスタントマネージャーの村田敦氏は「2種類の睡眠スタイルに合わせたコーヒーの飲み分けを通じて、快適な睡眠を体験してみてほしい」と語っていた。

お昼寝コース用のスペース。折りたたんで使えるクッションが用意されている

睡眠カフェには、より質の高い眠りを手助けするガジェットも用意されている。

スマホで色や明るさを自由に調節できるIoT照明「フィリップス Hue(ヒュー)」や、眠りに合わせて光の色が変化するアイマスク「illumy(イルミー)」、クラシック音楽を視聴できるソニーのハイレゾ対応ウォークマンを自由に使える。

また、入眠前には居眠り運転防止用に開発された「ドライブスコア」を用いて、脳波から眠気の計測を試すことができる。仮眠の前後で、どれだけ眠気が解消されたか具体的な数値で比較するのも面白いかもしれない。

自然に目覚められるよう、起床のタイミングに合わせて光が点灯する

写真奥がドライブスコアのアプリと黒いヘッドセット

“よい目覚めのため”の眠りを体験する

筆者もお昼寝コースで10分程度のコーヒーナップを体験した。ドーナツ型のクッションは頭によくフィットし、快適に眠りに入れる。お昼寝コースは仕切りはなく隣に座っている人がいたが、自分も顔を伏せており周囲も眠っているため、さほど気にならない。かすかにコーヒーの香りが漂う空間で眠るのは、思った以上に心地よかった。

全日本ベッド工業会流通委員長の廣瀬憲孝氏は、寝具メーカーの視点からコーヒーナップの新しさを次のように語る。

廣瀬氏「我々寝具メーカーは、寝具を通して深い眠りにスムーズにたどり着くための技術を磨いてきました。ただし、睡眠はただ長時間とればいいものではありません。深い眠りが必要な理由はすべて“良い目覚めのため”です。コーヒーナップは、深い眠りに入る瞬間だけではなく、起床する時に重点を置いています。シャキッと目覚めてもらう体験を通して、みなさんに睡眠の重要性を改めて感じていただけると思います」

「睡眠カフェ」は今年3月に原宿で期間限定オープンし、大好評を受けて2回目の開催に至ったことから、質の良い睡眠に対する需要の高さが伺える。今後の他都市への展開にも期待したい。

フルタイムで働く正社員の4割以上が十分な睡眠が取れていないという日本。ビジネスパーソンとして一歩抜きん出た成果を出すためには、コーヒーナップのような睡眠トレンドを積極的に取り入れ、能力を最大限に発揮する工夫が求められるだろう。

img: MetroNaps