ロボットやドローンの遠隔操作時に利用する無線通信。ひと口に無線といってもさまざまあり、電波の振動数(周波数)によってその特性が異なる。実はこの周波数がロボット、ドローンの発展を妨げているという側面があるのだ。
現在、多くのドローンで利用されている周波数帯は2.4GHz帯だ。誰もが一度は聞いたことがあるかもしれないこの2.4GHz。それもそのはず、無線LAN規格のメイン周波数帯(IEEE802.11b/g/nの一部)となっている。他にもBluetoothや電子レンジも2.4GHzであり、まさに街中で飛び交っている電波といえるだろう。
同周波数帯を利用するとなると、Bluetoothイヤホンを使ったことがある人なら経験したであろう電波の不安定さにつながる。この混雑している2.4GHz帯ではなく、別の周波数帯を利用してロボットやドローンの制御を行えないかと研究を続けてきた「内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ」が先日、新たな周波数帯での実証実験に成功したと発表した。この研究開発で利用したのが、2016年8月に電波を管理する総務省が新たに制度化した169MHz帯だ。
長所も短所もある169MHz帯を利用するために
近年、ドローンのニーズが高まっていることを受け利用可能になった169MHz帯は、従来多くのドローンが利用してきた2.4GHz帯と比べさまざまな利点がある。2.4GHz帯は建物などの構造物によって電波が遮られやすく、1km程度離れてしまうと安定したコントロールが難しくなるが、169MHz帯は障害物を回り込み、さらに構造物などに反射して遠方に届きやすいという特性を持つ。
条件が良ければ10km以上離れても遠隔操作可能だという。そして前述のとおり、新たに開放された周波数帯であることから他の機器が利用していないため、混線の可能性が低い。これらの特性からも分かるように、まさにドローン向けの周波数帯だといえるだろう。
ただし問題もある。169MHz帯は、周波数の幅が他の周波数体と比べ狭めだ。そのため、多くのロボットやドローンが同時に利用するのが難しく、さらに同時利用された際にデータの伝送速度も遅くなってしまう。そこで同プログラムが考えたのが、920MHz帯という別周波数帯を使って操縦者がまずひとつのドローンを制御し、このドローンからさらに別のドローンを制御するというものだ。
2012年7月より新たに使用可能となった920MHz帯も、ロボットやドローンの制御用無線方式として開発が続けられてきたもので、まずはこの920MHz帯を使って中継ドローンを制御し、さらにそこから169MHz帯で目的のドローンを制御するという形(マルチホップ中継)だ。この実験で、目的のドローンを安定飛行させることに成功したというのだ。
まずは災害時での利用を想定
この169MHz帯の利用により、どのようなことが期待できるのだろうか。同プログラムのマネージャー、田所 諭氏は「169MHz帯は遠距離や障害物がある通信に適していることから、災害現場、特に有視界外飛行でのドローンの実用性と安全性を飛躍的に高めることは間違いありません」と話す。災害時のロボットやドローンの活用推進の基盤になることが期待されているのだ。
総務省が、来るべきロボット社会の到来やドローンの長距離運用、画像伝送のニーズに応えるべく新設した169MHz帯。ようやく国が本腰を上げたといえるこの周波数帯の開放は、日本におけるロボットやドローン産業の発展への光となりうるのか。同プログラムの実験成功は、その端緒となるのかもしれない。
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