ビールにもっとも合う食べ物は何だろう?

枝豆、焼き鳥、お刺身、フライドポテトなど様々な選択肢が思い浮かぶ。2016年夏に行われたSNS上のクチコミを分析した調査では、餃子が1位に選ばれていた。日本人なら納得の結果だろう。

所変わって、アメリカではビールに合う食べ物の一つとして、フライドチキンが人気だ。日本でも、ケンタッキー・フライド・チキンが一部店舗で、ザ・プレミアム・モルツとオリジナルチキンをセットにした“ケンタ呑み”を提案している。KFCによれば、チキンとビールは最強のコンビらしい

ビールにフライドチキンを投入。気になるその味は…!?

「そんなに相性が良いのなら、混ぜてしまえばいい」

そんなクレイジーな意見を誰かが発し、なんと実現されてしまった。

ビールにフライドチキンを加えた「フライドチキンビール」が誕生したのだ。正式な製品名は「Fried Fried Chicken Chicken(FFCC)」。2017年7月25日から販売されている。一見、突飛な発想からこそ、イノベーションは生まれるのかもしれない。

Instagramの投稿では、大量のフライドチキンを製造工程で入れているように思えるが、麦芽汁を入れたタンクの2つのうち1つにだけフライドチキンを投入している。その量はタンク内の麦芽汁の重量の4%未満であると解説されている

フライドチキンの投入量がそこまで多くないことからか、フライドチキンの味はしないという。グラスに注がれた写真を見てわかるように、見た目もごく普通のビールだ。

FFCCを購入した人の中には、フライドチキンの味がしないことにガッカリし、フライドチキンと一緒にこのビールを飲みだす人まで現れた

FFCCは、DIPA(ダブル・インディア・ペールエール)で、アルコール度数は8%。インディア・ペールエールとは、強いホップの香りと苦味を持つビールであり、アメリカのクラフトブリュワーの中で定番のひとつだ。

オレオ味から、大麻草のビールまで。行われる実験の数々

「フライドチキンビール」を作り出したのは、アメリカ・バージニア州の「The Veil Brewing Company」だ。ニューヨークの「Evil Twin Brewing」とのコラボレーションのもとで、ビールの製造を行った。

同社はInstagramの投稿にて、「リッチモンドの街にあるお店でフライドチキンを食べた後に、ビールとフライドチキンを混ぜるアイデアが浮かんだ」と語っている。思いついたことを実行に移す姿勢は見習いたい。

ユニークなビールを生み出すことで知られるThe Veil Brewing Companyは過去に、サンドイッチ状のクッキー「オレオ」味のビール「Hornswoggler」を販売したこともある。製造工程で何百キロのオレオクッキーを投入したことにより、かなり甘いビールとなっている。

小規模なビール醸造所にて、職人が手作業でつくる「クラフトビール」だからこそ、このような実験に取り組みやすい。クラフトビール市場の成長と、ブリュワリー数の増加も実験の後押しをしているのだろう。

ミレニアル世代の関心を引こうとする米クラフトビール市場

アメリカの小規模なクラフトブリュワリーによる団体「Brewers Association」が行った調査では、2016年に、アメリカのクラフトビールメーカーの数は5,000を超えたという。その売上規模は23.5億ドル(約2570億円)に達し、前年比10パーセント以上の成長率を誇る。

ゴールドマン・サックスは、ミレニアル世代が酒よりもワインやスピリッツを好むというデータに基づき、複数のビールカンパニーの投資判断を引き下げた。また同社は、アメリカのビール市場は全体で0.7パーセント縮小すると考えている。ビール市場は、ミレニアル世代の関心を引くために、様々な工夫をこらしている。

アメリカに存在する5,000を超えるクラフトビールメーカーのなかには、The Veil Brewing Company以外にもユニークなブリュワー(醸造家)が存在する。

たとえば、コロラド州に拠点を置くWynkoop Brewingによるオイスター味のビール「Rocky Mountain Oyster Stout」や、カリフォルニアに拠点を置くHumboldt Brewingによる、ヘンプという大麻草からできたビール「Hemp Ale」などが挙げられる。

あの手この手でミレニアル世代に振り向いてもらおうとしている。

日本の市場規模はまだ1%。よなよなエールに次ぐメーカーに期待

日本国内のクラフトビールメーカーと言えば、長野県軽井沢に本拠を置く「ヤッホーブルーイング」が有名だろう。

「よなよなエール」や「水曜日のネコ」など、独特なネーミングのビールを複数ブランド展開。同社はブランドの世界観を伝えるために「超宴」というフェスを開催していることでも注目を集めている。

同社にて「よなよなエール」のマーケティングや、新製品のブランド開発を担当している稲垣 聡氏は次のように語っている

「近年は市場全体としてもクラフトビールに注目が集まっており、それまでビール市場に占めるクラフトビールのシェアが0.3%程度だったものが1%にまで成長しています。アメリカではすでに20%になっているので、日本はようやく1%にまで伸ばせたというところです。」

日本でユニークなクラフトビールが登場するには、まだ市場規模が小さく、クラフトビール醸造に関わるプレイヤーの数が少なすぎるのだろう。

アメリカでは、クラフトビール市場の盛り上がりを背景に、ユニークなビールを醸造するメーカーが登場してきている。成長を続けるクラフトビールの領域は、日夜新しい挑戦や実験が行われている分野になりつつある。

今後は、どのようなユニークなビールが“発明“されるのだろうか。貪欲に新しいビールの醸造に取り組む業界の姿勢に学べることは多くありそうだ。

img : The Veil Brewing Company, ヤッホーブルーイング