近年、メーカーのIT企業化、IT企業のメーカー化、さらにはマーケットプレイスのブランド化など、企業に大きな変化が起こっている。
メーカーのIT企業化とは、メーカーがIT企業のように振る舞うこと。製造を本業としながらも、IT企業のように、ソーシャルメディアや自社サイトを活用したコミュニティ構築・マネジメントを行う企業だ。一方、IT企業のメーカー化とは、本業がITサービスであるものの、自社ブランドのプロダクトを開発・製造・販売すること。
こうした変化は突き詰めていくと、消費者の変化に対応した企業側の進化とも読み取ることができる。特に現在、独自の価値観を持つといわれているミレニアル世代は、消費をけん引し、企業にとって無視できない存在だ。ミレニアル世代への理解なしには、ビジネスは成り立たない時代になりつつあるといっていいだろう。
そこで今回は、企業の変化、そしてその背景にあるミレニアル世代の価値観の変化について考えてみたい。
ミレニアル世代の台頭、メーカーのIT企業化とIT企業のメーカー化
前述のとおり、ミレニアル世代の台頭を背景に起こっている企業の主な変化は、メーカーのIT企業化とIT企業のメーカー化だ。以下に具体事例で、どのようなことなのか見てみたい。
米国発のスタートアップ「Casper」はマットレスを販売する寝具メーカー。『Fast Company』の「2017 MOST INNOVATIVE COMPANY」に選出されるなど注目のスタートアップでもある。
既存の寝具メーカーの多くは寝具小売店を介して販売を行うが、Casperはオンライン直販のみを販売チャネルとしている。オンライン直販にすることで、ユーザーデータの取得が可能となっただけでなく、ユーザーからのフィードバックを得られやすい仕組みを構築した。オンライン直販で寝具を買うことへの心理的障壁は、100日間のトライアル期間と10年保証でクリアしている。
Casperが支持されるより本質的な理由は、ミレニアル世代をターゲットにした「企業ビジョンの発信」にある。Casperが設立された背景には、創業者たちが寝具市場の非効率を改善し、高品質のプロダクトを低価格で提供し、より良い睡眠を実現したいという思いがある。このメッセージが、高品質プロダクトを低価格で求め、かつ健康意識の高いミレニアル世代にささったと考えられる。
こうした企業メッセージは、ソーシャルメディアを介して発信され、健康意識の高いユーザーを中心としてコミュニティが形成されていった。Casperは、まさにIT企業のように振る舞うメーカーといえるだろう。
一方、メーカーのように振る舞うIT企業とはどのような企業なのだろうか。その最たる例は、アマゾンだ。
同社はこのほど、ハンドバッグと靴のプライベートブランド「The Fix」をローンチ。The Fixブランドのプロダクトはデザイナートレンドを取り入れたものだが、価格は49〜139ドル(約5000〜1万4000円)と比較的低価格で販売されている。アマゾンはこのほかにも複数のプライベートブランドを持っており、メーカー化するIT企業の代表格といえるだろう。
そんなアマゾンの取り組みは同業他社にも影響を与えているようだ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドから資金調達し、競合のSnapdealを買収すると発表して話題となったインドのEC大手「Flipkart」も、男性向けのプライベートブランド「Metronaut」をローンチ。日本でも、ZOZOTOWNが今年中にプライベートブランドを設立すると発表している。
これらのIT企業は、モノをつくるメーカーではなかったが、自社プロダクトを持つメーカーになろうとしている。
ミレニアル世代の理解に必要不可欠なデータ
メーカーのIT企業化と、IT企業のメーカー化。これらは一見相反する動きに見えるが、ミレニアル世代を中心にした「消費者の変化」を考えると、これらは同じ方向を向いた動きであることが分かってくる。
ミレニアル世代というこれまでの世代とは異なる価値観を持つ層を理解するには、データが重要な役割を果たす。プロダクトを持っているがデータは持っていないメーカーはデータを求めIT企業化し、データを持っているがプロダクトを持っていないIT企業はメーカー化する流れと考えることができるからだ。
肝心の消費者の変化を考えるには、その中心となっているミレニアル世代についての理解が不可欠だ。
これまで消費者の中心となっていたのは、団塊の世代やX世代(1965~80年頃に生まれた人たち)とされる層だった。これらの層は、大量生産・大量消費に後押しされた高度経済成長時代を経験している。一方で、今の消費者の中心といわれているミレニアル世代は、高度経済成長後の低迷期の記憶しかない場合がほとんどだ。
価値観形成につながるメディア利用に関しても、ミレニアル世代は他の世代と比べて大きく異なる。ミレニアル世代の情報源は、テレビ・新聞といったマスメディアではなく、インターネットやソーシャルメディアが圧倒的に多い。多様な情報に触れているため、価値観もそれまでの世代とは異なり、かなり多様なものになっている。
このようにミレニアル世代と他世代では、育った環境、時代背景、社会背景が大きく異なり、独自の価値観を形成するようになったと考えられるのだ。だからこそ、これまでに通用していたマーケティングやプロモーションも、ミレニアル世代には効果が出ないことが多くなっているのだろう。そこで企業は、データからミレニアル世代を理解する必要が出てきたということだ。それは、メーカー、IT企業にかかわらずビジネス活動に携わる全てのプレーヤーに求められるもの。
価値観の多様化で、単に安ければ売れる、品質が良ければ売れる、という時代は終わったといってもいいかもしれない。ミレニアル世代がプロダクトやサービスを選ぶ基準には、ソーシャルメディアでの評判や政治的・社会的要素も含まれる場合もあるからだ。つまり、消費意思決定プロセスに影響を与えるファクターが多くなり、複雑化しているということ。だからこそ、データの重要性が高まっているのだ。
消費者が本当に求めるものを提供する。いつの時代もビジネスの本質は同じであるが、消費者の価値観が多様化する今の時代においては、データなしでは消費者が本当に求めるプロダクト・サービスをつくりだすことは非常に難しい。