「ゲーム」の体験は、時代ごとに変化してきた。

ハードの進化、インターネットの普及、人々の可処分時間の変化など。さまざまな要因の影響を受け、その形を変えてきている。

最近、巷で話題となっている任天堂のゲームからも、その傾向が浮かび上がる。

スプラトゥーンは、新たなゲームエクスペリエンスを生み出した

任天堂が2015年5月28日に発売したWii U専用アクションシューティングゲーム『スプラトゥーン』は、大きな話題となった。

『スプラトゥーン』は、ユニークなシューティングゲームだ。プレイヤーはインクを放出する水鉄砲のようなブキで対戦相手を撃ちながら、地面を塗っていく。

プレイヤーは、自分のチームの色のインクが塗られた地面(ナワバリ)ではより素早く動くことができる。イカに姿を変えて潜って泳ぎ、素早く移動したり、インクの補充を行う。ゲームの勝敗は、ナワバリの広さで決まる。

『スプラトゥーン』は、シンプルなようでなかなかやりこみがいがある。プレイヤーにとって新鮮なゲームエクスペリエンスは大きな反響を呼び、累計483万本を販売するヒット作となった。

だが、『スプラトゥーン』の勢いはこれで止まらない。

2017年、任天堂が絶賛売り出し中の新ハード「Nintendo Switch」にて、『スプラトゥーン2』が発売。販売開始から一週間で67万本を販売する順調な滑り出しを見せている。

SNSでもプレイしている様子が投稿され、コミック作品の中にも『スプラトゥーン2』を彷彿とさせる表現が登場するなど、今やちょっとした社会現象だ。

「eSports」を想定して開発されたゲームソフト

「Nintendo Switch」は、発売前に公開された紹介トレーラーの最後のシーンが注目を集めた。巨大なスタジアムにSwitchを持ち込んだ2チームが『スプラトゥーン2』をプレイする姿が描かれていた。

この場面が描かれていたことで、任天堂が『スプラトゥーン2』を「eSports」としても盛り上げていこうと想定していることがわかった。

eSportsとは、「エレクトロニック・スポーツ」の略。コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際にこの単語が用いられる。『スプラトゥーン2』は、ソフトが発売される前からeSportsとして盛り上がることを見越した動きが始まった。

「ニコニコ闘会議」で決勝が行われた「スプラトゥーン甲子園」や、ゲームの見本市「E3」で行われた世界大会「Splatoon 2 World Inkling Invitational」などでも、『スプラトゥーン2』の試合が開催された。

大会の開催だけではなく、日本のeSportsのプロチーム「SCARZ」や「DetonatioN Gaming」、「Libalent」らが、新部門として『スプラトゥーン2』部門を設立することを発表。選手の募集を開始している。

eSportsには、観戦者を楽しませる設計が必要

ゲーム産業は、周辺領域が盛り上がってきている。「Twitch」のようにゲーム配信のプラットフォームが成長。ゲームをプレイするのではなく、視聴する楽しみ方も市民権を得た。eSportsも、ゲームを視聴する楽しみ方の一つだ。

イギリスの公共放送BBCは、eSportsリーグ「Gfinity Elite League Series One」の中継放送を開始したことを発表している。eSportsは、大手メディアも取り上げる注目の領域になっている。

eSports市場は現在成長しており、調査会社のNewzooは世界におけるe-Sportsの経済規模が2017年に6億9,600万ドル(約796億円)に達し、2020年に15億ドル(約1,660億円)に達すると予想している。この金額は、スポンサーシップ、広告、観客からのチケットやグッズ売り上げなどで成り立っている。

ゲームプレイヤーたちの『スプラトゥーン2』への熱狂具合を見ていると、今後eSports領域においても存在感を増していくと考えられる。だが、そのためにはハードルもある。

eSportsで盛り上がるためには、従来のゲームとは異なる評価基準が必要になる。観戦モードがあるか、ゲームバランスの偏りはないか、サーバーの強度や通信速度は十分か、オフライン対戦は可能か、などだ。この点に関して、『スプラトゥーン2』は改善の余地がある。

『スプラトゥーン』のトーナメントを定期的に開催している団体「EndGameTV」のAllen Williams氏は、Red Bullの取材に対して、こう語っている

「正直に言って、Switch版に観戦者モードと、ラグ/レイテンシーの問題が解消されたサーバーが用意されるなら、コミュニティは一気に広がるだろうね」

プレイする人々だけではなく、その周辺の人々も楽しむためにどう仕組みを作っていくかがゲームには求められるようになってきた。どれだけ視聴者の目線に配慮できているかが、eSportsがスポーツのように広まるかどうかに影響する。

長い目で見るなら、人が担わなければならない仕事は減少していく。そんな時代に向けて、eSportsのような人が熱狂できるエンターテイメントの発明が必要だ。

img: 任天堂, BagoGames (CC BY 2.0), SCARZ