米ではネトフリの“数日間でイッキ見”が社会現象に!Netflixが生み出す新たな視聴文化

お気に入りのドラマを全話イッキ見して達成感を得たのもつかの間、数日後には次のシーズンが配信されている。観たいコンテンツがありすぎて追いつかない悩みは、サブスクリプション型の動画配信(SVOD:Subscription Video On Demand)のユーザーなら一度は抱えた経験があるはずだ。

NetflixやAmazonプライムビデオ、Huluに代表されるSVODサービスは、ここ数年で着実に普及が進んでいる。中でもNetflixは破竹の勢いで成長を遂げ、つい先日には全世界でユーザー数が1億人を突破した。Amazonプライムビデオの6500万人、Huluの1300万人を大幅に引き離し、同社が圧倒的なシェアを占めている。

NetflixがSVODサービスを開始したのは2007年。主力事業であった宅配DVDレンタルからネット配信へ舵を切った。当時のインタビューで、CEOのReed Hastings氏は「成長の余地は存分にある」と自信を覗かせていた

彼の言葉通り、米国ではゴールデンタイムにインターネットを流れるデータの30〜35%をNetflixが独占するなど、メジャーな放送局に劣らない影響力を手にした。2015年には日本に上陸。同年にサービスを開始したAmazonプライムビデオと共に、SVODサービスの「黒船」として注目を集めたのは記憶に新しい。

Netflixが加速させるBinge-watching(イッキ見)

Netflixの成長が抜きん出ている理由として、『ハウス・オブ・カード』に代表される高品質なオリジナル作品や、精度の高いレコメンド機能が挙げられる。

もう一つ特徴的だったのは、新作ドラマを全話同時に配信する手法だ。Netflixオリジナル制作のドラマやアニメは、第1話から最終話まで一気に配信される。これにより、毎週決まった時間ではなく、数日間でイッキ見する「binge-watching(ビンジ・ウォッチング)」が、新たなコンテンツ消費のあり方として急速に広まっていったのだ。

Netflixがオリジナル作品の配信を始めた2013年には、イギリスのオックスフォード大学出版局による『Oxford Dictionary(オックスフォード英語辞典)』が選ぶ、毎年の注目単語の「Word of the Year」にもbinge-watchingは候補に挙がっている(ちなみに、2013年は「selfie」、2016年は「post-truth」が大賞を得た)。

翌年にはNetflix自らがbinge-watchingについての調査を実施。データによると米国の動画配信サービス利用者のうち日常的にbinge-watchingしていると回答した人はおよそ61%、binge-watchingに肯定的であると回答した人は73%に上った。

流行から数年が経った現在もbinge-watcingは進化を続けているようだ。イギリスの通信会社「Three」は、binge-watchingに特化したポップアップホテル「Bed ‘N’ Binge Retreat(ベッドアンドビンジリトリート)」をオープン。その名の通り、宿泊者はひたすらベッドの上でNetflixを堪能できる。

Netflixの人気作品『ストレンジャー・シング』や『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』、『ハウス・オブ・カード』をイメージした部屋が並ぶ。食事やトイレも個室で済ませられる上、binge-watchingしながらのエクササイズレッスンも用意されているようだ。

「Netflix & chill」ボタン?社内プロジェクトが生む視聴文化

英語圏では「Netflix&chill(Netflixを見ながらくつろぐ)」という言葉も生まれた。2009年に初めてツイートされた頃は、文字通り「(主に一人で)Netflixを見ながらくつろぐ」様子を意味していたが、徐々に「Netflixを観ながら異性といちゃつく行為」を指すネットスラング化。最終的にはNetflix公式Twitterも「Netflix & chill」をネタにしたツイートを投稿するほどの広がりを見せた。

2015年にはNetflix社内のプロジェクト「Netflix Make It」が「Netflix button」を公開。押すとピザをオーダーする、あるいは照明を暗くできるボタンは、ネット上で「Netflix & chill button」として取り上げられ話題を呼んだ。

Netflix Make Itプロジェクトは、ユーザーや社員の声を元にエンジニアが自由にプロダクトをDIYする取り組み。寝落ちしたら映像を自動停止する靴下や、運動のペースが落ちると再生が止まり、人気作品の登場人物が励ましてくれるデバイスが紹介されている。binge watchingに次ぐトレンドを生むヒントになるのかもしれない。

西田宗千佳著の『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』では、「Netflixとインターネットテレビが何を実現したのか」について、Netflix CEOであるReed Hastings氏の回答が紹介されている。

「インターネットは自由と選択をもたらした。朝の11時でも夕方4時からでも自由に見ることができる。携帯電話により、いつでもどこでも話せるようになった。そこで多くの自由が生まれたが、それと(筆者注:ネットフリックスがもたらすものは)同じだ」
(西田宗千佳(2015)第1章、3項、5段落)

彼の語る通り、Netflixは場所や時間の制約を取り払い、全話同時配信によって生活に合わせた多様な視聴体験を可能にした。彼らのもたらした自由と選択は、新たなコンテンツ消費の形を生む土壌になっている。

数年後も人々はbinge-watchingを楽しんでいるだろうか。あるいは全く別の消費方法がスタンダードになるのだろうか。これからコンテンツ消費のあり方を考える上では、Netflixがどのような自由と選択を提供しようとしているかが、ひとつの重要な指針になるはずだ。

img : Netflix, Three

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