各時代において、新しい発明が医療を進化させてきた。
1590年には、オランダにて「顕微鏡」が発明された。顕微鏡によって、人々は病原体を観察できるようになり、感染症の治療に大きく貢献した。
1895年には、レントゲンが「X線」を発見。医療用レントゲン装置が開発され、医療技術が飛躍的に進歩した。
では、現代において医療を進化させうる大きな発明とは何だろうか。それは、おそらく「AI(人工知能)」だろう。
画像解析とディープラーニングが“がん診断“を加速する
医療におけるAI活用はすでに画像診断や創薬、ゲノム治療など、様々な分野に広がっている。その中でも注目を集めているのが、がん診断への活用だ。
「がん」はあらゆる病気の中で、最も死亡率が高い。1981年以降ずっと、がんは日本人の死因第1位であり、全体の3割を占めている。また、がんが初めに発生した場所から広がっていない、早期の時期に発見されれば、5年後の生存率が高くなるというデータもある。
がん診断におけるAI活用は、病変部の発見精度を高めることを期待されている。ディープラーニングの進歩が、AIによる画像解析の精度向上に貢献。大量の内視鏡やX線画像を解析することで診断の精度を向上させている。
AI研究に取り組む世界のIT企業は、自社の技術をどのようにして「がん診断」に応用しているのだろうか。
世界のIT企業はAIをどのようにして医療分野に応用しているか
IBMは昨年、画像処理技術とAIを用いた診療の実用化に向け、医療システムや大学の医療センター、画像処理に関する企業との協業を発表した。
同年にはGoogleが、12万8,000点に及ぶ網膜の画像をニューラルネットワークを用いて学習させ、人間の眼科医とほぼ同等の正確さで診断が可能なアルゴリズムを開発。今年1月にはスタンフォード大学の研究で、AIが皮膚科医と同じ精度で皮膚がんの診断に成功したというニュースが世界中を驚かせた。
中国のスタートアップ企業Infervisionは、画像認識とディープラーニングの技術を活用して「肺がん診断」に取り組んでいる。大気汚染が進む中国では、毎年約60万人が肺がんで亡くなると言われている。肺がんを早期発見することで、亡くなる人数を少しでも減らすことが狙いだ。
日本国内でもAIを活用した画像診断を推進する動きは見られる。今年に入ってからは、日本病理学会、消化器内視鏡学会、日本医学放射線学会が、全国の研究参加施設から収集した医療データを活用し、より高精度の診断を目指す研究事業の開始を発表。
東京大学発のベンチャー企業エルピクセルも、国立がん研究センター含む複数の医療機関と共同で、AIを用いた医療画像診断支援ソフトウェアの開発に取り組んでいる。
高い演算を可能にするGPUコンピューティングが担う役割
アメリカの大手半導体メーカーNVIDIAも例外ではない。AIと画像処理を用いたがん診断システムで、日本の医療機器向けの事業へ参入すると日本経済新聞が報じている。
NVIDIAは画像処理を担う電子部品であるGPUに強みをもつ企業だ。国内の代理店と共に、GPUをCTやレントゲン機器に組み込み、ディープラーニングを用いて最適な診療を行なうシステムの提案を進めていくという。
NVIDIAのGPUは以前からゲーム分野を中心に世界中で使用されてきた。同社は2007年ごろより、一般的な計算処理を担うCPUとGPUを併用することで、高速な処理を実現するGPUコンピューティングの開発に尽力。膨大なデータの並列処理を得意とする同社のGPUコンピューティングは、高い演算能力を必要とするディープラーニングの普及に伴い、ここ数年で急速に需要が高まっている。
GPUコンピューティングは、自動運転やロボティクスなど様々な分野で活用が期待されている。最近では、トヨタ社が自動運転車の開発においてNVIDIAのコンピューティングプラットフォームを採用すると発表した。
技術の進歩が人の役割を変えていく
NVIDIAが画像診断で日本の医療機器事業に参入することは、国内の医療機関におけるディープラーニング活用を推進し、より精度の高い診断の実現を後押しするだろう。
マサチューセッツ総合病院では、昨年より同社のシステムを導入し、膨大な患者データの解析を行ってきた。同病院が保有している医療画像データは100億点にのぼるという。
Mark Michalski医師はシステムの実用化により、画像を元に腫瘍や異常を見つける放射線科医や病理学者の仕事は、「すでに解釈されたデータから意味を見つけ出し、患者に的確に伝えること」にシフトしていくだろうと語る。
技術の進歩によって医療は進化してきた。AIの進歩により、がんの早期発見や医師の労働力不足といった現代の医療における課題が解決されていくことに期待したい。
img : NVIDIA