ニーズ高まるドローンの代替動力源
現在黎明期であるドローン市場、今後爆発的に拡大する可能性に多くの投資家や起業家の注目が集まっている。
しかし、ドローンがインフラとして社会に広く普及するには、ひとびとの認知や法規制、そして技術的な課題など乗り越えなければならない壁は少なくない。法規制に関しては目下、目視外飛行ルールの整備が重要視され、またこれに関してドローン飛行管制システムの進化にも注目が集まっている。
技術的な課題はどうだろうか。普段エンジニアとしてドローンに関わっていないとなかなか分からないことかもしれないが、もっともホットな議題の1つとされているのが「飛行時間の拡大」だ。
現在、鉱山や建設現場で導入されているマルチコプタータイプのドローンには、リチウムイオンポリマー(LiPo)バッテリーが使われているが、その飛行時間は20分ほど。しかし、数時間に及ぶオペレーションでのドローン利用のニーズは高く、新たな動力源を模索する動きが活発化している。
LiPoバッテリーは年々進化を遂げているが、飛行時間が何倍にも増えるというわけでなく、それは数パーセントの漸進的なもの。現在、LiPoバッテリーの代替として実用化・開発が進んでいる主な手段は太陽光発電と燃料電池だ。これらの代替手段が、どこまで実用化・開発が進んでいるのか見てみたい。
注目テクノロジーは太陽光発電と燃料電池
太陽光をドローンの動力源にしようという動きは、スタートアップから国家プロジェクトまで大小さまざまだ。
主に固定翼ドローンへの搭載が進む太陽光発電システム。固定翼ドローンはLiPoバッテリーで飛ぶ場合、その飛行時間は1時間ほど。しかし、太陽光発電システムを搭載することで、飛行時間は6〜7倍に拡大する。
これまで太陽光発電パネルは重量があり、ドローンに搭載することは現実的でないとされてきたが、軽量化、効率化が進み、固定翼ドローンに搭載できるまで進化している。
このほど、オーストラリアのドローン企業Praxis Aeronautics社は特殊ラミネート加工技術を駆使することで、重量の増加を最小限にしながら太陽光パネルを小型ドローンに設置することに成功。また、パネル設置のコストを大幅に下げることにも成功した。この技術を応用することで、小型ドローンの活動領域は大幅に拡大することになる。鉱山でのマッピングはより効率的に、またデリバリーもより遠くまで実施できる可能性がでてきた。
Praxis Aeronautics社の太陽光パネル搭載ドローン
長時間飛ぶことのできる太陽光ドローンは、未来の通信衛星になる可能性もある。中国はまさにそのプロジェクトを計画していると報じられている。大気が薄くなる宇宙空間近くでオペレーションが実際どこまで可能なのか実証実験を積み重ねていく必要があるが、ロケットを打ち上げるより安全かつ低コストで通信衛星を飛ばせる可能性に期待が集まっている。
太陽光発電と並び注目を集めるのが燃料電池だ。太陽光発電が主に固定翼ドローンに搭載され始めているのに対して、燃料電池は固定翼とマルチコプターの両方に応用されつつある。
米マサチューセッツに拠点を置くProtonex社は、プロトン交換膜(PEM)技術を使った燃料電池を開発している。この燃料電池を積んだ固定翼ドローンは、LiPoバッテリーの5倍のパフォーマンスを実現したという。
中国・深センのMMC社が開発するのは水素燃料マルチコプター「HyDrone」シリーズだ。このシリーズの上位モデル「HyDrone1800」は4時間以上、「HyDrone1500」は2時間以上の飛行時間を可能にする。同社の水素燃料電池は他社のマルチコプターや固定翼ドローンにも搭載できるという。
こうしたドローンの代替動力源の開発が進むなかで、その可能性について懐疑的な声も少なくないようだ。しかし、飛行時間の壁を乗り越えることはドローン普及の必要条件。開発がすでに進んでいる太陽光発電と燃料電池に期待を寄せてみるのもよいのではないだろうか。
中国・深センのドローン会社MMCが開発した水素燃料ドローン(筆者撮影)