ミレニアル世代はエンジン音を聞く最後の世代?世界で進む“EVシフト”

免許を取りはじめて実家の車を運転したとき、エンジンが始動する音を聞いて「自分も大人になったな」と思った記憶がある。そのわずか数年後、気づけばハイブリッド車が主流となり、鍵はボタンに、エンジン音は電子音になっていた。

燃費規制や化石燃料からの脱却など、車はここ数十年で大きく姿を変えようとしている。もしかするとミレニアル世代は「エンジン音」を聞いて運転したことのある最後の世代になるかもしれない。

燃費規制の波に乗り遅れるな

21世紀以降、日米欧を中心に燃費規制が進んでいる。最も環境規制が厳しいのは欧州だろう。欧州ではCO2の排出量を規制している。2006年は160g/kmだったが、2015年には130g/km、そして2021年には95g/kmになると予想されている。

中国でも2005年、2008年、2012年と段階的に燃費規制が行われてきた。現在は2020年まで平均燃費を30%近く引き下げることを企業に求めるなど、環境問題が山積する中、懸命に対策を講じている。そのほかメキシコ、ブラジル、サウジアラビアといった新興国でも燃費規制の導入が進んでいるという。

エリアを絞ってみよう。米カリフォルニア州では、販売台数の一定の割合をEVなど排気ガスがゼロの車とするよう義務付けるZEV(Zero Emission Vehicle)規制を導入。同州でEVを年間6万台以上販売するメーカー6社(クライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタ)は、その規制に従って、EVの製造・販売を行なっている。

2018年以降は上記の6社に加えて、BMW、ダイムラー、現代、起亜、マツダ、フォルクスワーゲンも加わる見通し。将来的には電気をエネルギー源とするEVがデファクトスタンダードになりそうだ。

国や自治体を中心とした動きが活発になる中、自動車を製造する“メーカー”側も動きを見せている。

海外で急速に進みつつある「EV」の普及

スウェーデンの大手自動車メーカー「VOLVO(以下、ボルボ)」は2017年7月5日、2019年以降、ガソリン車の製造を終了することを発表した。この先、EVやハイブリッド車の製造のみにシフトする。

前述したZEV規制に伴うEV製造の活発化といった、規制に伴った自動車メーカーの動きはこれまでもあったが、メーカー自らEVへのシフトを発表する事例はこれがはじめてだろう。近しいものでは、トヨタが2050年に販売する新車が排出するCO2量を90%カットする目標を掲げ、実質的に化石燃料からの脱却を目指す旨を語っているが、こちらはあくまで目標。ボルボのように、終了を発表とまでは言っていない。

こうしたEVの製造、普及に関する動きは加速度的に増えている。とりわけ欧州では活発だ。欧州では、政府が主導してEVの普及を推し進めている。例えば、オランダで「2025年までにガソリン車、ハイブリッド車の販売を禁止する法案」が可決される見込みにある。

ドイツでは2030年までにエンジン車の販売禁止を求める法案が2016年に可決。さらには、フランスも2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する方針を明らかにした。欧州各国でEVシフトが急速に進んでいる。

アジアはどうなっているのか。実はアジアでも深刻な大気汚染を背景に、EVの普及が進んでいる。インドは2030年までに、国内販売の自動車をすべてEVにする政策を発表した。また国際エネルギー機関の報告によれば、中国はEVの世界累計販売台数約200万台のうち65万台を占める。“世界一のEV大国”と称されるほどだ。

EV普及をさらに推し進めるべく、ドイツや中国ではEV購入者を対象とした補助金を導入。ガソリン車からEVへの乗り換えを行いやすくしている。

航続距離とインフラ整備が課題に

しかし、EV普及には課題も残る。ガソリン車と比べると、EVは航続距離が短い。満タン状態のガソリン車は400kmを走行できるが、EVは電力がフルに充電されていても半分以下の200km弱しか走行することができない。

航続距離をいかに伸ばすことができるか。各自動車メーカーの技術的な改良が求められる。それに加え、充電ステーションの数も増やしていく必要がある。いかに国を挙げて社会インフラの整備に取り組めるかどうか。これもEV普及に向けての大きな課題となっている。

ただし、フランスの自動車メーカー、ルノーが開発したEV車「ゾエ(ZOE)」は航続距離を400kmに伸ばすなど、技術革新によって年々、航続距離も伸びていっている。また、チャデモ協議会の発表によれば、充電ステーションの数も2016年の1年間で倍増。今後も増えていく見込みだという。

EV普及に向けた課題も解決の兆しが見え始め、いよいよEVの数が増えていくと考えられる。

2040年には全自動車の3分の1がEVに

普及に向けて課題も残るが、それでもEVの市場規模は年々、右肩上がりで成長していく見通しだ。調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)は、2040年までに世界自動車台数の3分の1をEVが占めるようになると発表。2038年にはガソリン車の販売台数を追い抜く見通しだという。

EVの普及には、従来の自動車メーカーのみならず、スタートアップも一役買うと考えられる。EVはガソリン車と異なり、部品数が少ない。そのためEVの開発は従来の自動車メーカーだけでなく、スタートアップでも取り組める。

今後、数年の間で自動車業界の構造が大きく変化していくことも予想される。実際、2017年4月にテスラ・モーターズは大手自動車メーカー「GM(ゼネラル・モーターズ)」の時価総額を追い抜き、時価総額が全米1位の自動車メーカーになった。

この巨大なムーブメントは自動車業界、ひいては社会をどう変えていくのか——これから先、自動車業界の動きには注目しておくべきだろう。

img: Pixabay

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